「他社の事例」をいくら聞いても、さっぱり活かそうとしない「事例くれくれ君」にご用心!?

(写真:アフロ)

日本国内には、おそらく観測できているだけで、約36000人ほど「事例くれくれ君」が、いらっしゃいます(笑)。

この愛すべきキャラクター「事例くれくれ君」とは、

'''いつも「他社」の実践事例を収集し欲しがっているけれども、いっこうに、自社を変えようとはしないで、不満ばかりを述べている人''

のことをいいます(笑)。

事例くれくれ君は、口をひらけば、

「何か、他社の事例はありませんか?」

といっています。

日々、「他社の事例」をさがして、情報収集に余念がありません。

情報収集を行っているだけなら、「勉強好き」なだけですので、まったく問題はないかと思うのですが、はたから見ていて、時折、おせっかいにも、お声がけをしたくなるのは、そうした情報収集をしていても、あまり、その結果、よいものをもたらさないと思うからです。

まず、「事例くれくれ君」は、いつ見ても「不満足」です(笑)。

なぜか?

それは、収集している事例の焦点が絞られていないので、どんなに事例をきいても、自分の探しているものが見つからないからです

事例くれくれ君は、どのようなものを差し上げても、不満足です。

これはとびきりというような「他社のベストな事例」をお教えしても、こういう言葉がかえってきます。

「そんなすごいことは、A社だからできたんですよ。A社だからできた事例を聞いてもねぇ・・・」

じゃあ、と思って、今度は「身の丈」にあったような、「地味」な取り組み事例を紹介しますと、事例くれくれ君はこうおっしゃいます。

「なんか、もっとすごい事例ないんですか?」

「なんか、ありきたりなんですよね」

ベストな事例を教えても、ベターな事例を差し上げても、ダメ。いつも不満足。

ところで、

「あのー、あなたは、いったい、何を探していらっしゃるのでしょうか? 何が目的で、何を探していらっしゃいます?」

僕は、

事例には「収集」の仕方がある

事例には「学び方」がある

と思っています。

事例を収集する上で、第一になさなければならないことは

「事例を収集する意味を明確にすること」

です。

事例収集は、「美術の鑑賞」とは異なります。それ自体が愉しくても仕方がない。

むしろ、それを、どのように自社の文脈などに「適用する」のか「利用する」のかを、常に頭の中におかなくてはなりません。

次に、第二になすべきことは、

事例を聞いたあとで「思考停止」をしないこと

です。

「へーすごいな、刺激になりました」

「あれは、A社だからできたんだ」

はもっとも「典型的な思考停止ワード」です。

そもそも、ある事例は、いつだって「その組織の特殊なコンテキスト」に埋め込まれて成立しています。

別の言葉で申しますと、そもそも、事例はいつだって

「A社だから成立するもの」

なのです。

「この事例は、A社だからできる」というもっともらしい言葉を僕は、業界でよく聞きますが、心のなかで、

「そんなのあたりまえじゃん」

と思っています。

「A社の社員が、A社以外でうまくいくものを、A社の内部でつくるわけないじゃん!」

とも思うのです。 

しかし、一方で、もしわたしたちが「事例から学ぶこと」を試みるのであれば、換言するならば、事例を他の文脈や他社、自社に適用するとするなら、次の知的な作業が必要になります。

それは、ある特殊な事例の背後にある「もっとも本質的なもの=他の文脈でも通用しそうなもの」を抽出する必要があります。

要するに、事例の背後に、文脈をこえて適用できそうな原理や、踏まえなければならないポイントがあるかを、抽象的に考えなくてはなりません。

だから、わたしたちは、

第一に事例から学ぶためには、メタ(上位の俯瞰的視点)にあがらなくてはならない

のです。

そのうえで、第二に為すべき事は、いったんメタにあがって獲得した「事例の背後の原則」を、自社の状況にあわせてカスタマイズし、利用することです。

そのためには、自社の状況がどのようなものであるかをまえもって観察して、それと原理・原則の照合をしなくてはなりません。

自社の状況や環境に応じて、事例から学んだことを変換し、役立てなくてはならないのです。

よって、私たちが事例から学ぶためには、メタにあがる一方で

自社に降りろ!

ということになります。

つまり、  

事例から学ぶこととは、メタにあがって、自社に降りる!

ことです。

そもそも、事例から学ぶということ自体が、知的にスリリングなことことでありますな。

今日は「事例くれくれ君」という愛すべきキャラクターを戯画的に描き出したうえで、事例から学ぶとは何かを考えました。

皆さんは、事例クレクレ君になっていませんか?

皆さんは、事例から学べていますか?

そして人生はつづく

(この記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」からの転載記事に加筆・修正を加えたものです)