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学生時代の「アルバイト選び」のときに意識しておきたい、たったひとつのこと

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

かなり前のことになりますが、ある学部生の皆さんたちのインタビューを受けました。

テーマは、

「大学時代、学生時代をどのように過ごせばよいのか」

ということだそうです。

今から十数年前、学部1年生・2年生にかけて「学ぶ意欲」をすっかり失い、大学の教室から逃走し、ほとんど「シオシオのパー」だったワタクシメに、それを聞かれても・・・という気もしますが(笑・・よく立ち直りました)になってしまいそうですが、謙虚に一生懸命考えてみました。

特に、今回の場合、みなさんが興味をもっていたのは、僕が「人材開発の専門家」であることからなんでしょう、「学生時代のアルバイト選び」についてです。今日は、この「学生時代のアルバイト選び」について、少し考えてみました。

思うに、大学生の皆さんが行うアルバイトの中には、僕は、2種類のアルバイトがあるように思うのです。

ひとつめは「自分の経験値を伸ばすアルバイト」

ふたつめは「自分の経験値を消費するアルバイト」

僕の結論は、

学生の時分には、「自分の経験を消費するアルバイト」よりも、「自分の経験を伸ばすアルバイト」をやったほうがいいんじゃない

ということです。

つまり、こういうことです。

前者の「自分の経験を伸ばすアルバイト」とは、

「社会人になって必要になるスキルを伸ばすことができ、かつ、教育世界から職業世界への移行時に、そんじゃそこらの他人にはない貴重な経験として他者に語りうるアルバイト」

をさします。

それは「Talkability(他人が興味をもち話題になりやすい)」が高く、他者が興味を持ちそうな仕事の世界です。

それに対して一方「自分の経験を消費するアルバイト」とは、

「高校までに培った自分のこれまでのスキル・経験をもとにしてできるアルバイトではあるけれど、"新たな挑戦"はさしてふくまず、かつ、他の人との差異化がなかなか難しいアルバイト」

をいいます。

誰もがそのアルバイトの実状を知っていて、予想がつき、多くの人々が実施している世界です。

たとえば、大学生のアルバイトといえば「家庭教師」があります。

あくまで一事例ですが、少なくとも僕にとっては、「家庭教師」は「自分の経験を消費するアルバイト」でした。

それまでに培ってきた「受験のテクニック」という「自分の経験」を「消費」して、お金に換えていた。しかし、僕は、このアルバイトによって、あらたに「自分の経験値が伸びた」とは、あまり思えません。それは、「かつての自分の経験」を「切り売り」したものでした。もちろん、人によって、家庭教師が「経験を伸ばすアルバイト」になりうることはあると思いますが、僕にとってはそうでした。

仕事には熱心に取り組みましたが、これであらたに自分が一回り大きくなったとは、あまり思えないのです。

ペイはよかったけれども・・・。

それに対して、僕は、「自分の経験を伸ばすアルバイト」をたくさんしました。

むしろ、敢えて、自分と同じ大学に通っている学生が、なかなかやらないアルバイトを、やったような記憶もあります。

その中には(ほとんどは今の仕事とは関係ないですが)、今の仕事に関係してくるものもあります。

たとえば、当時やっていたアルバイトといえば、レイアウト、記事作成、ホームページづくり、などなど。居酒屋や飲食店での接客もやりました。

こういう経験は、すべてとはいいませんが、情報の加工・編集・発信を主とする、僕の今の仕事に密接に関連しているような気がします。

家庭教師に比べて、ペイは、あまりよくなかったけれども、多くの技術やノウハウをそこで学ぶことができたような気がします。

もちろん、どんな仕事であっても、意識次第によって「アルバイト経験」を「将来の糧」にかえることはできるんでしょうけれど、意識しないのとするのでは大きく変わってくるような気もします。

たかがアルバイト、されどアルバイト。

「アルバイトを選ぶ」という非常にありふれた日常的な瞬間にでも、少し意識をしていれば「将来のこと」「キャリアのこと」を考え得るのだ、と思うのです。

今日は、アルバイト選びという非常に日常的なことから、「自分の経験値をいかにためるか?」というお話をしました。

皆さんは、どんなアルバイトをして、そこから何を学びましたか?

それは今のみなさんの仕事に、どんな関連がありますか?

そして人生は続く。

(この記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事の加筆・修正記事です)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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