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「目標を設定するとき」に注意したい「目先病」と「数字病」!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

生産性やパフォーマンスを向上させるうえで、最も基本的なことのひとつは「目標を設定すること(Goal-setting)」です。僕の研究の専門は「人材開発」ですが、人間が生産性をあげることにおいて「目標設定」をいかに行うかは、「一丁目一番地の事柄」です。

「何をめざしているのか」がわからないまま、「正しい方向に進むこと」はできません。

行き当たりばったり進んでしまえば、「途中で行き倒れてしまうか」、あるいは、「立ちすくんでしまうか」のどちらかです。

「何をめざすか」を意識することは、とても大事なことです。

しかし、自戒をこめて申しあげますが、「目標を設定すること」はこれほど重要なことにもかかわらず、ともすれば、人は、それを「忘れてしまいがち」です

別の言葉で申しあげるのだとすれば、人は、何か物事に邁進すればするほど、「視野が狭くしてしまいがち」なのです。

目先の「やらなければならないこと」に意識が向いてしまい、遠くにある「目標」を意識することは難しくなります。

僕は、これを「目先病」とよんでいます。

目先病とは「目先のことにとらわれて、達成しなければならない目標を見失ってしまう病気」です。

かくして、こんな状態が生まれるのです。

あれっ、これって、何のためにやっているのだっけ?

わたしって、何めざしてるんだっけ?

自戒をこめて申しあげますが、心当たりのある方も少なくないのではないかと思います。

かくして必要になるのは、「生産性やパフォーマンスをあげるための問い」です。

より具体的には「目線をあげる問い」

目先を見詰めがちな目線を、あえて「遠く」に設定するのです。

「遠く」ある「目的」や「ゴール」の方向に「目線」をあげる必要があるのです。

僕がよく用いる問いは、下記の3つです。

「これって、何ができれば成功といえるんだっけ?」(基本系)

「これって、どんな数字がでればOKなんだっけ?」(変形系・量的)

「どんな光景を見ることができたら、OKなんだっけ?」(変形系・質的)

3つの問いは、言いたいことは、ほぼ同じです。

一番最初の基本形「これって、何ができれば成功といえるんだっけ?」「量的」に変形したのが二番目の問い「これって、どんな数字がでればOKなんだっけ?」ですね。これを「質的」に変換したものが三番目の「どんな光景を見ることができたら、OKなんだっけ?」ということになります。

世の中は、「定量的」に目標(指標)を設定できることばかりではありません。

定量的に目標(指標)が設定できない場合には、「質的」に「どんな光景を見たいのか」「どんなシーンを生み出したいのか」を考えることが重要だと僕は思います。大切なことは、量的に指標が設定できない場合でも、目標を設定することを「あきらめないこと」です。

「キャンペーン終了後、あの気むずかしい店長に、よくやったといってもらう」

「サービス終了後、あのお客さんに笑顔で帰ってもらう」

「いつもつまらなそうにしている、あの生徒の顔をあげる」

たとえ「質的」であっても、自分の見たい「光景」をイメージしておくことは、とても重要なことだと思います。

一方、世の中には「数字信仰」というものがございまして、「目標設定をするときには、とにもかくにも、何でも無理矢理、数字化する」という「数字病」に囚われている人が少なからずいます。  

もちろん「数字で表現できる」にこしたことはないかもしれない。

でもね、それができない場合やふさわしくない場合も多々ある。しかし、そうしたときにでも、目標設定をあきらめないことです。ただし、それは「数字に囚われてはいけない」。定性的な目標であっても、自信をもって、目標を設定するべきであるということです。

どんな場合でも、いずれにしてもやるべきことは「目線をあげること=目的を意識すること」です。

人は、イメージできないものには、到達できません。

めざすべきものがないものは、めざせないのです。

今日は「目的を意識すること」の重要性について書きました。

師走、今週もお忙しい日々をお過ごしの方が多いのではないかと思います。自戒をこめて申しあげますが、そんなときこそ、「目的を意識すること」は大切なことのように思います。

皆さんは、何ができればOKですか?

あなたはどんな光景を見たいですか?

そして人生はつづく

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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