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韓国船沈没事故で、容疑者が逮捕されないのはなぜか

中島恵ジャーナリスト

韓国の旅客船沈没事故で指名手配中の海運会社のオーナー、ユ・ビョンウォン容疑者が、依然として逃亡を続けている。韓国メディアの発表によると、昨日(6月11日)は4000人以上の機動隊員が動員され、同容疑者が潜伏しているとみられるソウル郊外の新興宗教団体の本拠地を取り囲んだが、結局、発見することはできなかった。同容疑者は、すでにそこにはいないのでは?との憶測も流れている。

というのは、テレビで見る限り、あまりにも機動隊員の動きが鈍く、のんびりやっているようにしか見えなかったからである。報道陣も本拠地の敷地内に入れたというが、弁当や飲み物が配られ、緊迫した雰囲気はまるでなかったという。日本で新興宗教団体のトップが捕まるといえば、ある程度の年齢以上の人なら、すぐに1995年のオウム真理教事件のことを想起するだろうが、あのときのような緊張感は一切ない、まるで茶番劇のようにさえ見えた。

パク・クネ大統領自らが「このように(容疑者を)捕まえられないとは話にならない」と嘆いたそうだが、大統領がここまでいっていても、警察の捜査がなかなか進まないのはなぜだろうか? 何か特別な理由でもあるのか? 日本人から見ると「考えられない」「信じられない」ことばかりで、頭に疑問符が浮かぶ。

そうした私の一連の事故に対する見方は、こちらに書いたので、ぜひ読んでいただきたいが、聞くところによると、この新興宗教の信者は約10万人といわれている。人口5000万人の韓国で、無視できない数字である。

逮捕できないのは「公」が機能していない証拠

逮捕されないのは、信者の中心的人物が容疑者を逃がしているから、ともいわれているが、その一方で、同容疑者が持つ会社が長年、学生に出し続けてきた「奨学金」があり、それをもらった人々が、その後警察など公的機関に多数就職しているからだ、という説もある。まさかそんなことがありうるだろうか、と思うが、真相はまだわからない。いずれにせよ、政府が「本腰」を挙げても逮捕できないでいるのは、まさに「公」がきちんと機能していない証拠といえるだろう。

今回の事故は韓国国内でも「人災」といわれている。事故直後、家族が泣き叫んでいる姿は見るのは忍びなかったが、日本ではなかなか見られないほどの取り乱しように、韓国人の政府に対する強い不信感と憤りが見て取れた。

韓国ドラマなどを見ていていつも感じることは、韓国では、強い者はより強く、弱い者はより弱い立場に置かれ、なかなか逆転することのできない社会構造にある、ということである。学歴や金銭の有無、社会的地位ばかりが重視され、それらを持てない人々は、社会の隅に追いやられがちである。

対外的にも難題を抱えている韓国だが、政府としては、まずは国内問題をなんとかしなければ、国民の信頼を回復することはできないだろう。過去にもさまざまな事件、事故があったが、今回ほど、韓国社会が大きく揺れ、政府の存在が試されている大事件はないと思う。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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