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「爆買い」のピークは過ぎた? 売れ筋商品の中身に、少しずつ変化の兆し

中島恵ジャーナリスト
中国路線がある空港でも販売している高級炊飯器

「爆買い」の中身が、少しずつ変化しているのではないか?

今夏、私は全国各地を取材して歩くうち、このように感じ始めた。具体的なデータを見たわけではないが、観光地で出会う中国人の様子や観光業者の話を聞くうちに肌で感じたのだ。

そのことは新刊『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』で紹介した。いわゆる「爆買い」は、そう遠くないうちに終わるかもしれない。では、「爆買い後」は一体どうなるのか。また、その中身はどうなっていくのかについて、中国人の今後の動向と日本人の対応などについて書いた本だ。

そんな矢先、象印マホービンの市川典男社長が「中国人による爆買いのピークは過ぎた」とメディアで発言した。同社の炊飯器の売り上げは昨年秋から今春にかけてがピークで、昨秋から比較すると前年割れしているのだという。

確かに日本百貨店協会のデータなどを見ても、今年はずっと売上高がプラスの状態で、それは外国人による購入が影響していた。だが、プラス幅は徐々に縮小しており、昨年末から今春ごろの勢いは収まりつつある。

一方で、今夏、小林製薬では4~6月期の売上高が、中国人観光客などの影響で前年同期比で5倍以上になったと発表しており、「サカムケア」や「熱さまシート」などはまだ売れている。爆買いの効果には業界や製品によって「違い」や「ばらつき」が出てきていると考えられる。

変わりつつある爆買いする中国人のイメージ

1年以上前だが、2014年秋、秋葉原の家電量販店本店の売れ筋商品トップ3は化粧品、医薬品、ステンレスボトルだった。高級炊飯器やカメラなどもかなり売れていたのだが、大量に買うお土産はこの3つが主流だった。いずれも小さいもので、炊飯器や温水洗浄便座のような大型商品よりも価格が安く、大量に買いやすい。

最近、銀座を歩く中国人観光客に話を聞いてみたところ「日本に行けるくらい所得のある人は、もう自分で行っている。以前は自分の代わりに炊飯器を買ってきて、というリクエストもあったが、そういう要望はだんだん減ってきた。小さい商品はお土産に向いているし、消耗品である化粧品は相変わらず人気がある」と話していた。

「爆買い」というと、どうしても炊飯器や便座に代表される大型商品を両手に抱えて歩く中国人の映像が連想されるが、ステレオタイプのイメージはあっという間に変化しつつある。

以前、中国では日本の買い物情報そのものが少なかったので、お決まりの家電製品に人気が集中する傾向があったが、最近では中国のSNS「微信」の普及や、実際に日本に行ったことのある中国人が増えてきて、多角的な情報が出回るようになった。

「もうこれは持っている。今度はこっちの商品が欲しい」「みんなが持っているものではなくて、通な人しか知らない、これが欲しい」というふうに、興味の対象も変わってきているのだ。

高級炊飯器の売り上げが鈍ってきていることから「爆買いもそろそろ終焉か?」とつい早合点しがちだが、そんなに簡単にはなくならない。なぜなら、富士山静岡空港や中部国際空港などに代表されるように、中国からのLCC(格安航空会社)が今年から増便されている空港が多いからだ。中国人のマナー問題なども指摘されているが、来日回数が増えれば、解消されてくる点も多い。何度も日本に来ている人と、初めて来日する人とでは、購入する商品は異なるはずだ。爆買いの中身は今後、もっとバラエティに富むようになるだろう。

とはいえ、日本人もそろそろ「爆買い後」を視野に入れてビジネス戦略を練る必要があることは、いうまでもない。中国人の変化は、日本人が想像するよりもずっと早いのだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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