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上海に大江戸温泉物語!? 中国人に広がるスーパー銭湯ブームの影響か?

中島恵ジャーナリスト
大江戸温泉物語の問題を報道するANNニュース画面から

このほど中国・上海市にオープンした温浴施設が問題となっている。同施設が、東京・お台場にある「大江戸温泉物語」と名称もロゴもそっくり同じだからだ。

日本の「大江戸温泉物語」側は「海外のいかなる企業や団体とも提携していない」とこの施設との関係を全面的に否定しているが、上海の運営会社では、2018年10月までブランドの使用許可を受けている、と真っ向から反論している。

これまでも日中の間ではニセブランドなどの問題が数多く取り沙汰されてきた経緯がある。だが、この温浴施設はかなり大きな施設なだけに、問題の影響は大きいといえる。

ニュース報道などによると、オープン初日には大勢の中国人が詰め掛け、日本風のスーパー銭湯を楽しんだようだ。だが、もしこれがニセモノだったとしたら、日本の大江戸温泉物語の被害は甚大だ。たとえ外観は似ていたとしても、ソフト面で日本側の指導を受けていないのだとしたら、中国人客は日本式のスーパー銭湯の醍醐味を味わうことはできないし、日本の「大江戸温泉物語」にも悪いイメージを持ってしまいかねない。まだ日本のスーパー銭湯に行ったことのない人であったら、「なるほど、これが日本式の温浴施設なのか」と誤解してしまうだろう。

ところで、このように大勢の中国人がこの施設に押し掛けた背景には、中国人の間に日本のスーパー銭湯や温浴文化が少しずつ根づき始めていることがある。

私は以前、この記事で、上海ですでに人気のスーパー銭湯「極楽湯」を紹介したことがある。「極楽湯」は2013年に上海1号店をオープン、15年に2号店をオープンし、現在は内陸部の武漢にも進出するなど、順調に日本のスーパー銭湯を中国に根づかせてきたさきがけだ。中国在住の日本人の間でも評判がよく、私も行ったことがあるが、とても居心地のよい施設だった。

入場料は日本のスーパー銭湯よりも高いが、それでも、日本の施設とほぼ同じ入浴施設やサービスなどを売りにした新業態は人気を集め、大勢の中国人に受け入れられてきた。オープン当初は、日本式のスーパー銭湯の入り方がわからなかった中国人がかなりいたが、同施設では懇切丁寧に説明し、今ではマナーを守って、多くの中国人が利用しているという。

その影響で、今度は本場の日本に行ってスーパー銭湯を楽しみたい、あるいは、日本の温泉に入ってみたい、と思う中国人が増えていると聞いた。そうした日本文化の中国への浸透が、今回の「大江戸温泉物語」のオープンにも間接的に結びついている可能性は否定できない。

中国人の日本への興味は単なる買い物などの「モノ」から体験・経験などの「コト」へと急速に移行している。

スーパー銭湯や日本風の温泉施設は中国にはこれまでまったくなかった文化であり、中国人は湯船に浸かる習慣がなかったが、上海の「極楽湯」などの経験から、「日本に行ったら、一度は温泉に入ってみたい」と思う人が増えている。今回の一件が、そうした中国人の日本行きの気持ちに水をさすことにならなければよいのだが・・・。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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