なぜマクドナルドは復活出来ないのか?

マクドナルドが復活するために必要なことは……?(写真:アフロ)

先日、日本マクドナルドについて二つのニュースが大きく報じられた。一つはかねてから募集していたハンバーガーの名前が決まったこと、もう一つは今年1月の売り上げが大幅に改善したことだ。

売上の回復については、売上が35%の増加、客数は33か月ぶりに増加したという(いずれも前年同月比)。客観的な事実として数字に嘘は無い。しかし昨年1月は異物混入の影響で前年同月比で売り上げが38%も急落した時期だ。それに対してプラスになっても回復と言える状況ではない。

今期は黒字への復帰見通しを公表しているが、前期に記録した347億円という上場来最悪の赤字からの復活は決して簡単ではないだろう。

■マクドナルドを考える二つの問い。

先日、週刊誌の取材でマクドナルドに関するインタビューを受けた。アメリカの親会社による日本マクドナルドの株式売却に関連して、マクドナルドの転落と復活をテーマにした特集だという。過去に書いた「マクドナルドの「原価」を調べてみた」などを読んで連絡を頂いたようだ。紙面の都合で使われなかった箇所について書いてみたい。

※株の売却については公式発表では未だ確定しておらず、良い相手が見つかれば、といった発表にとどまる。

記者との間で交わされたインタビューは決算書を基にした分析など多岐に渡るが、なぜマクドナルドは転落したのか? そしてどうすれば復活するのか? と、大きく分けてテーマはこの二つだ。

■マクドナルドは何を売っているのか?

マクドナルド転落の原因はすでに報じられている通り、賞味期限切れの鶏肉問題と異物混入だが、それは下落傾向にあったマクドナルドにとどめを刺したに過ぎない。なぜマックは転落したのか? 自分はその問いに「そもそもマックは何を売っているのか?」と答えた。

マックの売りは何か、と聞いて答えられる人は居るだろうか。これは企業理念とか経営方針といった大仰なものではなく「○○と言えばマック」とすぐに頭に浮かぶものは何?というシンプルな問いだ。

マックの売りはどこよりも美味しいハンバーガーでもなければ、どこよりも安いことでもない。かつてはハンバーガーを59円まで値下げした時期もあるが、すでに低価格をだけ売りとするお店ではない。回転率を高める施策を行っていたことを考えれば、居心地の良さというわけでもない。

このように突き詰めていった時に、じゃあマックの売りは何だろうか? マックを選ぶ理由はあるんだろうか? と改めて考えると、お店に行くべき理由が見当たらなくなってしまう。何がウリなのか明確ではない、これが低迷から抜け出せない最大の原因と言えるのではないか。

■マクドナルドを選ぶ理由が無くなってしまった。

他の飲食店はもちろん、コンビニやスーパーの弁当・惣菜もライバルとなり、どこも品質の向上に努めている。自分は以前、おにぎり専門店で買った200円のおにぎりの不味さにびっくりしたこともある。何気なく食べているコンビニ各社のおにぎりはこんなにレベルが高かったのかと驚いた。

あらゆる飲食店やコンビニが品質を高め、コストパフォーマンスが極めて高くなっている現在、味と価格のバランスを考えた場合にあえてマクドナルドを選ぶ理由が無くなってしまっている。そして子供が多少騒いでも気兼ねなくくつろげる場所として家族連れに好まれていた面も、鶏肉問題と異物混入で大きく毀損してしまった。

そしてマクドナルドと対照的な存在がスターバックスコーヒーだ。

■なぜスタバは選ばれるのか?

スターバックスコーヒーは100円でコーヒーを売っているマクドナルドと比べれば、ドリンクの価格は何倍も高い。しかしコーヒーを飲むならスタバ、とすでに多くの顧客の頭の中にインプットされている。

最近、新宿や渋谷などの繁華街で喫茶店を探す事があった。各地のスターバックスは曜日も時間帯も問わず、どこも常に満席で、中には行列が出来ている店舗もあった。

さすがに並んで待つのは面倒なので他を探したところ、1分も歩かないうちに近くで見つかった喫茶店があまりにガラガラで、その落差に驚いた時もあった。それだけコーヒーはスタバ、ゆっくりお茶を飲むにはスタバ、と多くの人の頭に定着しているのだろう。

エクスペリエンス・マーケティング(体験型マーケティング・略してエクスマ)を提唱する藤村正宏氏は、「マンガでわかる! 安売りするな! 「価値」を売れ!」という著書で、以下のような極めて象徴的な場面を描いている。

カルティエの時計を安売り店で買おうと主張する彼氏と、カルティエの銀座店で買ってほしいと怒る彼女が大ゲンカをしている……これは藤村氏が実際に遭遇したシチュエーションだという。

このケンカの原因は、彼女が欲しかったものはカルティエの時計という「モノ」ではなく、銀座のカルティエで大好きな彼氏から時計を買ってもらうという「特別な体験」であり、それを彼氏が理解していなかったことにあると藤村氏は説明する。

マックはハンバーガーを売って顧客にどんな気分になって欲しいのか? どんな生活を送って欲しいのか? つまりどんな体験をして欲しいのか? おそらくそれが顧客に伝わっていない。一方でスターバックスコーヒーはコーヒーを売りながら、自宅と会社以外のもう一つの居場所、サードプレイスを提供する事をミッションとしている。

そんな話はとっくに知ってるよという人は多いと思うが、それだけスターバックスの「売り」が浸透していると考えれば、驚異的と言えるだろう。藤村氏は「売れる商品があるのでは無く、売れる売り方があるだけ」と著書で指摘する。

■飲食業で求められる誠実なビジネス。

さて、ではどうすればマクドナルドは復活出来るのか。記者にそう問われ、飲食業のコンサルタントでもなければ経営学者でもない自分が正しい答えが出せるとは思えなかったが、「誠実な商売をすることではないか」と答えた。

マクドナルドで度々話題になることが、チラシやポスターの写真と実際の商品があまりにかけはなれていることだ。商品の見た目やボリュームがパッケージやカタログと大きく違う……今のご時世ならばとんでもないクレームに発展しそうだが、マックは昔からそういうものだとある意味で消費者が受け入れているように思う。つまり期待に応えるのでなく期待値を下げてしまっているということだ。

自分のマクドナルドのイメージは59円のハンバーガーを買った時に感じた、あまりの薄さに驚いた頃からあまり変わっていない。安さだけを求めていたお金の無い時はそれでも良かった。しかし、その後は高額な商品が売り出されるたびに、薄いハンバーガーの記憶が思い出されるようになってしまった。

現在のマックは良くも悪くも「価格相応」ではあると思う。割高という印象は無いが、同時にお得感が凄いあるわけでもない。一昔前に59円で売られていた薄いハンバーガーも価格相応だった。しかし、価格相応ではあってもCMやメニューに表示された見本とはずいぶん違う。もちろん、同じような事をやっている飲食店は他にも多数ある。しかしそれは下には下がいるというだけの話で、本来なら比較するような相手ではない。

様々な問題が指摘されるマックだが、そもそも誠実な商売をしているのか? という根本的な問題があるのではないかと思う。

■ワタミも指摘される写真と実物の落差。

これは同じく苦境に立たされている居酒屋チェーンのワタミでも同様の指摘がなされている。東洋経済オンラインでは見るからに美味しそうなメニューの写真と、あまりに貧相な実物の写真を並べて、フードアナリストが以下のように書いている。

「鰹のたたきの枚数や形状、また使われているお皿こそメニュー写真に近かったが、写真では敷き詰められている青ネギの量が、実際は3分の1あるかどうかで、ちょろちょろっと乗っているだけだった。

(中略)

インターネット上には「ワタミは実際の料理とメニュー写真が違うことがある」という指摘をしている書き込みを見かけることがある。実際に見るまでは「大げさではないか」と思っていたものの、一部は事実だということが実際の体験でわかった。」

出典:今のやり方を続けると、ワタミの浮上はない 東洋経済オンライン 2015/05/26

先日は店舗を訪れて、「おてごろマック」という一個200円のハンバーガーを注文した。やはり価格相応の商品ではあっても、メニューの写真とは見た目が随分異なる商品が提供された。以前新商品のスイーツがニュース番組で紹介された時も「本当にこの商品がこの価格で売られてたら大行列が出来るのに」と思わざるを得なかった。

マックみたいな低価格のお店に何を期待してるんだ、と思われるかもしれないが、低価格でありながら誠実な商品を提供して大繁盛しているお店もある。その一つが「かつや」だ。

■フランチャイズで大儲けするカツ丼チェーン。

自分が注目しているかつやは、カツ丼やトンカツ定食を提供するチェーン店だ。味が良いことはもちろん、価格はカツ丼が一杯490円と非常に安い。しかも行くたびに必ず100円引きのチケットをくれるので、実質的には税込でも429円だ。

加えて、先ほど誠実ではないとした見本との違いもかつやの場合は全くない。月イチペースで提供される期間限定商品の丼モノは揚げ物の上に野菜がたっぷり載せられるメニューが定番だが(記事を書いている現在はチキンカツの上に山盛りのキャベツ)、実際の商品は見本と全く同じ、場合によっては見本の写真よりボリュームがあって驚いてしまう。こういった期間限定商品もおおむね590円程度で提供され、100円引きのチケットも使える。

似た業態の商品として、牛丼と比べて手間や材料費を考えれば、これで利益は出るのかと不思議に思ってしまう価格水準だ。しかしかつやを展開するアークランドサービスの営業利益率は13.9%と、飲食業としては極めて高い水準で10年連続の増収増益と業績は右肩上がりだ。

株価に至っては2008年頃から現在まで30倍も上昇しており、まるで急成長を遂げるIT企業のようだ。加えて、かつやのフランチャイズ比率は全340店のうち228店と2/3を超える。フランチャイズ化を進めたからマクドナルドはおかしくなった、という指摘がいかに的外れでトンチンカンか良くわかる事例でもある。これは「マクドナルドの「原価」を調べてみた」でも書いた通り、問題はフランチャイズという仕組みの問題ではなく、フランチャイズのやり方の問題でしかない、ということだ。

■苦境に陥りながらも注目を集めるマック。

マクドナルドは決算が公表されれば多数のメディアで報じられる。新商品も必ず紹介される。これは多くの人にとって関心があることの表れであることは間違いない。取材に訪れた記者も、マックはもうダメという記事はよそで散々書かれているから、マックはダメじゃない、復活出来るという記事が書けたら面白いと思う、と話していた。

ビジネスにおいて、注目を集められる状況はお金に変えられないほど価値がある。そっぽを向かれようになる前に、いかに顧客の信頼を得て来店につなげられるようになるか、マック復活のカギはそこにかかっていると言えるだろう。

【参考記事】

マクドナルドの「原価」を調べてみた。

破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。

262億円の大赤字を叩きだしたマクドナルド・カサノバ社長に、一読を勧めたいマンガについて。

なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?

マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。