「奨学金のせいで結婚が出来ない」という勘違いについて。

奨学金のせいで結婚できない、は間違いです。(写真:アフロ)

先日、奨学金に関するアンケート調査が公表された。奨学金の返済が重荷になって結婚に影響している人が3割もいるという。

「労働者福祉中央協議会(中央労福協)が、奨学金を借りている34歳以下の働く男女に行った調査で、回答した2061人のうち、「奨学金返還が結婚に影響している」としたのは31.6%に上ることが29日、分かった。出産への影響があるとの回答は21.0%あった。」

出典:奨学金の返還「結婚に影響」3割 中央労福協調べ  日経新聞 2016/2/29

奨学金の返済で困っているワカモノが増えている、という報道を目にしている人は多いと思う。先日も野党が返済不要の奨学金制度の設立を政策として掲げるなど度々話題にのぼるが、制度や仕組みについて誤解も多い。奨学金のせいで結婚ができない、というアンケート結果はその一つと言えるだろう。これは奨学金の制度に限らず、そもそも借金の仕組みを理解せずに借りている人が多いことも影響している。

■奨学金がある人こそ結婚すべき。

最初に結論を書いてしまうと、奨学金が残っているから結婚が出来ないという考えは勘違いであり、間違った思い込みである。一切気にせず結婚して良い。もっと言えば奨学金の返済が苦しい人ほど結婚すべきだ。

これは結婚をしたいと考えているカップルが、それぞれ一人暮らしをしている状況と、一緒に暮らしている状況を比較すれば簡単に分かる。

例えばアパートで一人暮らしをした時に家賃が毎月6万円かかるとする。二人で別々に借りれば12万円だ。一緒に暮らして10万円の賃貸マンションを借りれば、それだけで月に2万、年間で24万円も負担が軽減する。

一緒に住むことで、電気・水道・ガス・電話・NHKといった公共料金系の支払い、さらに食費の軽減効果等も加われば最低でも1万~2万円程度は浮くだろう。低めに見積もって軽減効果を月に1万円とすれば、家賃の軽減効果と合わせて月に3万円、年間36万円となる。節約しようと思えばもっと負担は減らせる。

日本学生支援機構のパンフレットには、奨学金を毎月5万円、4年間借りた場合の借入額は240万円、これを15年で返した場合の返済額は月に14,017円となっている(利息負担ありの二種、固定金利0.63%の場合)。この返済額は上記でシミュレーションをした生活費軽減の効果を上回る。夫婦ともに240万円、合計で480万円を借りている場合でも、返済額は毎月2.8万円と、先ほど低めに見積もった軽減額を下回る。

こういった生活費の軽減効果は子どもの大学進学時に、実家から通う場合と一人暮らしをする場合を比較すれば容易に分かる。地方に住む家庭から東京の大学に通うために上京する場合、学費以外に生活費の負担も発生する。これは重く家計にのしかかる。つまり複数の人が一緒に暮らす場合とバラバラに暮らす場合の生活費を考えれば、一緒に暮らす方が当然少ない。

また、奨学金の返済はあくまで個人に紐付いたものであり、例えば夫の収入が減って返済が出来なくなった場合でも、妻の側に返済の義務はなく返済の減免措置もあるが、一緒に暮していればそうも言ってはいられない時もあるだろう。そんな時でも、共働きで収入源が2つあれば返済が滞らずに済む可能性を高めることは可能だ。夫婦であれば一時的に相手に頼る事はなんら恥ずかしいことではないだろう。

■奨学金があるのに結婚するのは非常識?

この程度の話は延々と説明するまでも無いと思うのだが、先ほどの調査結果のみならず「奨学金 結婚」で検索すると、ネット上にある各種相談サイトで奨学金が残っているから結婚できない、あるいは相手が多額の奨学金を抱えているから結婚に踏み切るのが不安といった書き込みが多数ヒットする。中には奨学金が残ってる状態で結婚するなんて非常識と主張する人もいて、ずっこけそうになってしまった。

すでに説明したように、奨学金は結婚の障害にはならず、それどころか結婚をした方が返済はラクになることはちょっと計算をすれば簡単に分かる。奨学金があるから結婚できない、という話は「気分の問題」でしかない。借金が無く、収入も増えて安定した状態で新婚生活を迎えたいという考えは当然誰でもあると思うが、それはあくまで理想の話だ。大学生の3人に2人が奨学金を借りる現在、奨学金があるからこそ結婚して返済の負担を減らした方が良いということになる。

■結婚生活にお金はかからない。

収入が低くてとても結婚出来ない、という人は大抵の場合大きな勘違いをしている。上記の通り一緒に生活すれば生活費は軽減する。

結婚に伴う費用についても、現在ブライダル業界は「ナシ婚」と言って、結婚式を挙げないカップルが半数にのぼる事が死活問題になっている。数万円程度で小規模な結婚式を挙げられるサービスも人気を博している。結婚式や新婚旅行に何百万もかけるカップルは決して多数派では無いし、当然義務でもない。

子どもが生まれれば妻の収入は一時的に途絶え、子育て費用の負担も発生する。しかし、結婚したらすぐに子供をつくらないといけないという決まりがあるわけでもない。奨学金の返済にめどが付いたら子供の事を考えよう、ということで問題は無いだろう。

二人とも収入が低くて独立して生計を立てることが厳しいというのであれば、奨学金の返済が無くても生活は苦しいだろう。問題は収入が低いこと、多額の学費をかけて大学に通ったのに収入に結びついていないことであり、奨学金の有無が問題ということにはならない。

なぜ奨学金が結婚の障害になるかのような誤解、勘違いがまかり通っているのかを考えると、これはやはり借金という仕組みに対する無理解が根底にあると思われる。

※この記事では奨学金の功罪や返済義務があるのはおかしいといった議論には触れず、既に返済義務を負った人がどのように行動すべきか、という視点で話を進める。奨学金の仕組みに関する議論は「奨学金の取り立てを強化すべき理由」を参考にされたい。

■損得と資金繰りの違い。

奨学金を含めた借金には返済義務がある。可能な限り借金が少ない方が良いことは間違いない。自分は普段ファイナンシャルプランナーとして住宅購入の相談に乗っているが、一番多い相談は、そもそもこの予算で家を買っても大丈夫か?というものだ。

多くの人はギリギリの予算で購入を検討しているため「返済をラクにする方法、リスクを減らす一番簡単な方法は予算を減らすこと」と説明している。5000万円の物件を買うより、4000万円の物件を買う方が借入額は減り、返済は楽になる。小学生でも分かる理屈で、ここまでは誰でも理解できる。しかしこの後の話を多くの人は理解していない。

一度借金を借りた後はゆっくり返した方が良いということだ。借りる前は借金は少ない方が良い。しかし借りた後も同じように考えて、借金を少しでも早く減らす、つまり慌てて繰り上げ返済をすると、かえってリスクが高まる。

預金金利より借り入れ金利の方が通常は高い。早く返した方が得だと多くの人は考える。これは「損得」という視点で考える限り間違ってはいない。では損得とは別の視点は何かというと「資金繰り」だ。

資金繰りとは「支払いが問題なくできるだけの資金が手元にあること」を意味する。企業では資金繰りに問題が生じて各種の支払い・返済が出来なくなることを「資金がショートする」と言って、実質的な倒産状況にあると言える。これは個人でも同じで、支払いが出来なくなると自己破産の一歩手前だ。

例えば貯金がたまり、これから結婚する人が「結婚した後も借金が残るのは気持ちが悪いし利息の負担ももったいないから」と奨学金を一気に繰り上げ返済して、貯金がゼロになったとする。しかし、その直後に会社が傾いて職を失って生活に困窮してしまったらどうか。繰り上げ返済なんてしなければ問題なく生活出来たのに、いうことになる。

これは得をするためにした行動が、かえってリスクを高めてしまった状況だと言える。資金繰りを無視するとこういった状況に陥る。企業経営では資金繰りが生き残るための生命線だと経営者は理解しているが、家計でも資金繰りが生命線だと理解している人はほとんど居ない。

■借金の目的は資金繰りの改善。

借金の仕組みは、今支払いが出来ない買い物をするために、支払いを先送りすることが目的だ。そのための手数料が利息だ。つまり手元に貯金が無い、あるいは貯金はあるけど残したおきたい場合にお金を借りることになる。これは「損得」を犠牲にして「資金繰り」を優先する取引だ。

すでに説明したとおり、借りる前は額が少ない方が得だが、借りた後も同様に考えて少しでも早く借金を減らそうとすると、かえってリスクは高まる。これは住宅ローンでも繰り上げ返済のやり過ぎで多くの家庭が陥っている罠だ。ゆっくり返していく権利を得た以上、借金が残っている事は何ら問題ではないということだ。

先に挙げた奨学金を毎月5万円借りた場合の借入総額は240万円、返済総額は利息負担も含めて約252万円と大きな額になる。これだけ多額の借金を背負って社会人になることはもちろん大きな負担である事は間違いないが、毎月の返済は1.4万円と決して多くは無い。実家に住んでいればフリーターでも問題なく返済出来る額であり、結婚すれば生活費の軽減効果で相殺できる程度の額だ。結論としては奨学金は結婚してからもゆっくり返せばいい、ということになる。

結局、奨学金の返済が最も苦しい人は独身で収入が低い人であり、こういう人こそ早く結婚した方が良い。

奨学金を返済が出来ない人には減免措置もあり、相談も可能で返済条件は緩い。はっきり言えば他の借金と比べて相当に甘い仕組みだ。それでも連絡もせず放置をすれば強硬手段を取られるのは当然で、返済の訴訟を受けている人の中には一部そういった人も含まれている。

■結婚すれば奨学金の返済は楽になる。

年収240万円で子育てをしながら普通に暮らす方法」という記事で、結婚すれば世帯収入は2倍になると書いたところ、そんな低い収入で結婚なんて出来ない、というコメントがあった。

これはそういう意味ではなく、今回書いたように、結婚したいと思う人が居て相手も同意しているのに、収入が低いとか奨学金があるからという理由で結婚をしないのは合理的に考えて間違っているという意味だ。収入が低い人も奨学金の返済が苦しい人も、相手が居るのなら躊躇なく結婚した方が良い。理由はすでに描いた通りだ(もちろん、借金を抱えた状態での結婚は気持ちが悪いことは理解できるが、気分の問題の解決まで他人に求められても困るとしか言いようが無い)。

■原因と結果を取り違えないように。

最近では度々奨学金の問題が取りざたされるが、本当の原因は奨学金の有無ではなく、制度面では教育費へ投じられる税金が少ないこと、そして個人の問題としては収入が低いことが原因であり、マクロな視点で見れば日本の生産性が低いことや、一人当たりのGDPが世界で27位と日本が豊かな国ではなくなっている事が原因である。これは「なぜマクドナルドは時給2000円を払えるのか?」でも書いた通りだ。

大学教育が個人の収入アップや国の経済成長に結びついているのか?という根本的な問題を無視して、奨学金を論じることは出来ない。奨学金の返済に苦しんでいる人が多数いることは間違いないが、これは問題の原因ではなく結果であり、原因と結果の取り違えをしている限り正しい解決方法に着手することは出来ない。

とりあえずマクロな問題を横に置くのなら、奨学金はギャンブルや浪費が原因の借金では無いのだから問題は無い、奨学金を抱えているカップルは周りの雑音を気にせず結婚をしてゆっくり返済をすれば良い、というアドバイスを伝えておきたい。

【参考記事】

年収1100万円なのに貯金が出来ませんという男性に、本気でアドバイスをしてみた。

奨学金の取り立てを強化すべき理由。

最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。

お金で解決できる問題はお金で解決した方がいい、という話。

大学で簿記3級を教える事は正しい。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー