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魅せ方重視も本田にぴったり? ミランとはどんなクラブなのか

中村大晃カルチョ・ライター

いよいよ、日本代表MF本田圭佑のイタリアでの挑戦が始まる。セリエAを代表する名門、ACミランに移籍した本田は、4日にミラノ入り。空港でのフィーバーぶりは、両国のメディアで大きく報じられた。8日には、本拠地サン・シーロでVIP待遇の入団会見が予定されている。

彼が選んだミランとは、どのようなクラブなのか。改めて振り返ってみよう。

■歴史

創設は1899年。ホームタウンはミラノ。長友佑都が所属するインテルと同じだ。ミラノ在住イギリス人が発足したクラブが元になっているため、「ミラノ」の英語「ミラン」がクラブ名に残っている。

ホームスタジアムはジュゼッペ・メアッツァ。80,018人を収容するイタリア屈指のスタジアムで、通称はサン・シーロ。インテルファンが「ジュゼッペ・メアッツァ」を、ミランファンが「サン・シーロ」を使うという説もあるが、実際には違いがなく、日常会話では「サン・シーロ」が基本だ。

クラブカラーは赤と黒。そのため、赤と黒を意味するイタリア語「ロッソネーロ」が愛称となっている。日本を発つ際から、本田が赤と黒を基調としたファッションだったのも無関係ではないだろう。なお、悪魔という意味の「ディアーヴォロ」もニックネームとして使われる。

リーグ優勝は18回。イタリア最大の人気を誇るユヴェントスに続き、インテルと並ぶ2位タイの記録だ。チャンピオンズリーグ(CL)は7回制覇。こちらも、レアル・マドリーの9回に次ぐ2位である。「クラブ世界一」を争う大会も4度制しており、世界で最も多くのタイトルを獲得している。まさに世界屈指の名門なのだ。

■シルヴィオ・ベルルスコーニ

100年以上の歴史を持つ伝統のクラブだけに、注目すべき時代は数少なくないが、近年のミランをつくったのは、現オーナーのベルルスコーニ氏だ。1986年のクラブ買収から、ミランは国内外あわせ実に28ものタイトルを獲得している。

1980年代終盤には2年連続で欧州を制覇し、1990年代前半に「グランデ(偉大な)・ミラン」とまで呼ばれた。その後、一時は混迷期もあったが、2000年代に入ってカルロ・アンチェロッティ監督(現レアル・マドリー)の下で再び黄金期を迎える。2003年からの5年間で、CL決勝に3度進出。2度の優勝を飾った。

■外への意識が強いクラブ

イタリアのメディア王でもあるベルルスコーニ氏のクラブだけに、乱暴に言ってしまえば、ミランは見栄えを気にするクラブだ。それを示す例の一つが、ベルルスコーニ氏のスター好きである。

現在もプレーするカカーのほか、元イタリア代表のロベルト・バッジョ、元ブラジル代表のロナウドやロナウジーニョ、元イングランド代表デイビッド・ベッカムと、日本でもよく知られるワールドクラスの花形選手がミランでプレーした経験を持つ。

ベルルスコーニ氏は選手たちにも洗練さや品行方正さを求める。現在のエースであるマリオ・バロテッリを獲得する前には、悪童で知られる同選手を「腐ったリンゴ」と表現。血気盛んな若手ストライカーたちのモヒカンに苦言を呈すなど、オーナーがルックスにも口出しするのだ。

ベルルスコーニ氏や腹心のアドリアーノ・ガッリアーニCEOが、ことあるごとに獲得したタイトルの数を強調するのも、対外アピールの一つ。近年は明らかにリーグ戦よりCLに力を入れており、イタリア国内より国際舞台での活躍を求める傾向にある。

ファッションに気を配り、発言する際の言葉にも重みやユーモアが感じられる本田は、そんなミランにぴったりかもしれない。少なくとも、ドルチェ&ガッバーナのスーツ姿はビシっとキマっていたではないか。

■現状はクラブ改革中

そんなミランだが、残念ながら近年はそんな華麗さが影を潜めてしまっている。イタリア経済の不況や、ベルルスコーニ氏個人をめぐる問題で、クラブに投資ができなくなり、この数年はスター選手の放出を余儀なくされてきた。時期を同じくして、2000年代に黄金期を築いたメンバーが高齢化で退団したこともあり、戦力的には欧州でトップを争えるレベルにはなくなっている。

特に今季は、開幕戦で昇格組にまさかの黒星を喫すると、5試合でわずかに1勝。その後も低迷が続き、17試合を終えて降格圏に勝ち点5差の13位と深刻な不振に陥っている。CLではベスト16に駒を進めたが、とても優勝は期待できない状況だ。

ベルルスコーニ氏があまり気に入っていないと言われるマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、契約が切れる今季での退任が既定路線。すでにクラブは来季以降を見据えていると言われ、元ミランの選手であるクラレンス・セードルフが後任監督候補の最右翼と見られている。

クラブ内部も騒がしい。今季途中、ベルルスコーニ氏の娘バルバラが、オーナーの右腕であるアドリアーノ・ガッリアーニCEOから実権を奪おうとし、同CEOが辞意を表明する事態にもなった。結局はベルルスコーニ氏が仲裁に入り、両者がCEOの職を分担することになったが、今後バルバラ路線が強化されていくことは想像に難くない。

■本田への期待

そんなチーム改革の真っただ中にあるミランにおいて、本田はチーム浮上の原動力となることが期待されている。アッレグリ監督は、本田をバロテッリやカカーとともに攻撃陣の軸に据える考えをほのめかした。元バロンドール受賞者と、現イタリア代表のエースと一緒に、ミラン攻撃陣で本田がタクトを振るうのだ。

一方で、世界的なビッグクラブだけに周囲の目が厳しいのも事実。特に期待が高まっているだけに、なおさらだ。ワールドカップまでの半年で、目立った活躍を残せなければ、サポーターからもメディアからも容赦ない批判を浴びせられるだろう。

それでも、本田の重圧に負けない強い気質は、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督のお墨つき。残念ながら、前所属のCSKAモスクワでCLに出場しているため、今季は欧州の舞台でもうプレーできないが、リーグ戦での巻き返しに貢献し、来季の欧州カップ戦出場権を獲得できれば、世界的な舞台で本田のアピール力はさらに高まるはずだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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