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新布陣で初勝利のミラン、4-2-3-1はアンチウィルスになるのか?

中村大晃カルチョ・ライター

「ウィルスにかかっているかもしれないが、今、アンチウィルスが届いているところだ」

低迷する名門を救うため、現役を引退してミランの指揮官に就任したクラレンス・セードルフ監督は、初戦を前にこう語った。そしてミランは、苦しみつつもエラス・ヴェローナに1-0と勝利した。

「サッカーへの喜びを取り戻すことが大事」という37歳の青年指揮官は、チームを正しい方向へ導けるだろうか。

■4-2-3-1は機能したのか

セードルフ監督が打ち出したアイディアの一つが、4-2-3-1の新フォーメーションだ。「優れた攻撃陣の質を生かすため」である。宣言通り、ミランはマリオ・バロテッリを頂点とし、2列目に本田圭佑、カカー、ロビーニョを並べた新布陣でヴェローナ戦に臨んだ。

立ち上がりは悪くなかった。本田のクロスからカカー、カカーのスルーパスからバロテッリと、決定的なチャンスをつくることに成功。本田も17分、惜しい場面に顔をのぞかせた。だが、守りを固めたヴェローナをなかなか崩せず、最終的にはPKによる1ゴールで何とか勝利をもぎ取った形だ。

試合翌日、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』はこう書いた。「アタッカーを4、5人起用することが、常に勝利やゴール量産につながるわけではない」。『コッリエレ・デッロ・スポルト』も、「4-2-3-1が機能したのは、試合の序盤だけ」と指摘している。

ジャーナリストからの不満の声もあった。マリオ・スコンチェルティ氏は「完全に変わっていたのは布陣だけ」と述べ、フランコ・オルディネ氏も「攻撃に割く人数がゴールや輝くようなプレーにつながるわけではないことを示した」と書いている。新布陣が万事順調だった、というわけではないようだ。

■問題はボールの持ちすぎ?

セードルフ監督の就任で効果がなかったわけではない。選手たちの意識の変化が感じられたことはもちろんのこと、『ガゼッタ』は戦術分析記事で、ボールタッチ回数やボール奪取の位置が高くなったことをデータで示している。ハイプレスやポゼッション志向は今後も軸となるだろう。

ミランOBのアレッサンドロ・コスタクルタ氏は、「中盤の枚数を減らし、アタッカーを増やすことで、ゴールチャンスは増える。ディフェンスも苦しまない」と話した。攻めの姿勢やハイプレスなどが、今季の課題の一つである守備にも良い影響を及ぼすとの見解だ。

だが問題は、前線の4人がそれぞれボールを足元に持ちたがることにあるようだ。『ガゼッタ』は「前線4人の動きがシンクロすることが必要だが、足元でパスを待ち、スペースに飛び込まない」と指摘。ミランOBのズボニミール・ボバン氏も、「4人のうち、ボールを持たずに狙う選手がいない。誰かがそれをすることが必要だ」と話している。

■薬は飲んでみなければ分からない

それでも、バロテッリが試合後のインタビューで、「本田とカカー、ロビーニョが近くにいるこのシステムは気に入った」と、新しいフォーメーションでの手ごたえをうかがわせたのも事実だ。

いずれにしても、誰もが共通して言っているのは、「時間が必要」ということ。まだ1試合なのだから、当然だろう。前述の問題点も、あくまでヴェローナ戦の評価でしかない。そもそも、評価は主観で異なるものだ。『ガゼッタ』でミランのベストプレーヤーだったDFマッティア・デ・シリオが、『コッリエレ』では及第点以下だったことがそれを示している。

確実なのは、薬は飲まなければ効果があるか分からないということ。コッパ・イタリア準々決勝ウディネーゼ戦、リーグ次節のカリアリ戦と、今週は短い間隔で試合が続く。その中で、「セードルフ」という薬が効いてくるかどうかが見えてくるはずだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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