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側近が語る「ピース」又吉、底なしの優しさ

中西正男芸能記者
お笑いコンビ「井下好井」の好井まさお

お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの芥川賞受賞小説「火花」を初めて映像化したネットフリックス向け連続ドラマ(配信中)で一躍注目を集めているのが、お笑いコンビ「井下好井(いのしたよしい)」の好井まさおさん(31)です。主人公を演じる俳優・林遣都さんの相方役で、感情が燃え上がるような演技を見せています。両親を亡くした好井さんに、又吉さんが「オレが親やから」と言葉をかけるほど、強い絆で結ばれている2人。好井さんだからこそ知る“本当の又吉直樹”への思いを語りました。

僕が汚すわけにはいかない

実は「火花」に出演するお話をいただいた時、一回、スタッフさんにお断りしたんです。

もちろん、めちゃくちゃ大チャンスやし、文字どおり有り難いお話です。ただ、ホンマに大切な人の、ホンマに大切な作品。そこを芝居もやったことがない、芸人としても売れてない僕が汚すわけにはいかない。心底、そう思ったんです。それくらい、特別な人なんです。こんなん言うたら、又吉さんは嫌がるでしょうけど(笑)。

最初の出会いは、僕が吉本興業の養成所・NSCにいた時でした。大阪から出てきて東京のNSCに入ったんですけど、大阪NSCと東京NSCの選抜メンバーが対決するというイベントがあって、僕は出演者、そして、司会が「ピース」さんやったんです。

その時に、又吉さんから「出身どこなん?」と話しかけてきてもらったんですけど、当時の僕は「先輩なんて、関係あるかい!!」と、とんがってた時期でして(笑)。又吉さんにも「…ま、大阪ですけど…」みたいな感じでそっけない返事をしてたんです。それやのに、すごく優しく、すごく楽しげに、しゃべってきてくれる。なので「えっ、この人ナニ!?」と思ったのが、最初の出会いでした。

そこから、僕は母親が末期がんになって大阪に帰ることになったんです。母親が亡くなり、少し落ち着いてきたら、またお笑いがやりたくなって、1年後に東京に戻った。久々に東京の吉本の本社で又吉さんと会った時、僕のことを覚えてくれていて「お前、イベントの時にしゃべったヤツやんな?」と話しかけてきてくれたんです。それから頻繁に遊ぶようになって、それ以来、一番仲のいい先輩はずっと又吉さんなんです。

そんな中、忘れらない言葉もいただきました。

一気に胸がいっぱいになった

又吉さんと遊ぶイコール散歩。歩きながら、ネタのこと、仕事のこと、悩みとかグチとか、ま、悩みとかグチは僕が一方的に言うだけですけど(笑)、あとは大喜利をしたり。いろいろなことを話しながらブラブラするんです。

ある日、吉祥寺の井の頭公園を歩いてて、当時、僕がイラついたことをグチってたんです。そこで、僕が「オレ、父親も母親も死んどんねん!身寄りないねん!優しくせえや!」みたいなことをボケ的に言ったんです。そしたら、又吉さんが「じゃ、オレが親になったるわ」と。最初、ボケやと思って「ナニ言うとんねん!」とつっこんだんですけど、真顔のままで「いやいや、ホンマに親やから」と。「うわ、これはマジや」と分かった瞬間、一気に胸いっぱいになりました。今から8年くらい前のことですけど、あの時のシチュエーションは鮮明に覚えています。

当時の又吉さんって、まだ全然売れてなくて、多分ですけど、月の給料も10万円いってなかったと思います。それでもね、僕、先輩との付き合いとかしたことがなかったので、又吉さんが「飯食いに行こか?ナニ食いたい?」と聞いてくれたら、「刺身!!」とか即答してたんです。でもね、金ないのに、そんなことは一切出さず、当たり前みたいに刺身を食いに行くんです。今から思ったら、オレがとんでもなくアカン後輩なんですけどね(笑)。

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とんでもない優しさ

又吉さんの好きなところですか。人を思いやる心だったり、器の大きさだったり、ストイックにものを考えるところだったり…。スミマセン、なかなか一言で言いにくくて申し訳ないんですけど、突き詰めて言うと、とんでもなく優しいです。いつでも、誰に対しても。

ある時ね、僕の奥さんに別の男が言い寄ってきてるみたいなことがあって、「一回、その男と会ってガツンといったろうかと思ってる」と又吉さんに話をしたことがあったんです。そうしたら、又吉さんが「じゃ、それはオレが行けということやな。オレが代わりにいくわ」と言ったんです。普通に考えたら「又吉さんは旦那でもないし、関係ないやないですか!!」ということなんですけど、そこには、優しさがいっぱい含まれてるんです。

一つは「いやいや、キレてガツンといっても、何にもエエことなんかない。とにかく、今一度、冷静に考えろ」と諭す意味。もう一つは、これは感覚で分かるんですけど、又吉さん、ホンマに行くと思います。例えば、僕が「すみません、行ってもらえますか」って言ったら、確実に、その男のところに怒鳴り込んでいくと思います。言葉だけじゃなく、そこが本気だというのが分かるから、こっちとしたら、さらに冷静になると言いますか…。

あと、僕を含め「パンサー」の向井(慧)とか、可愛がってもらっている後輩がたくさんいるんですけど、“又吉軍団”とか言われるのを嫌がるんです。又吉さんの考えでは、軍団と名乗ると、僕とか向井とか、そこに入ってる人間は、必然的に又吉さんよりも下になると。となると、僕のことを好きでいてくれるファンの人は、又吉よりも下のヤツを応援しているということにもなる。それを「申し訳ない」と思う人で、だから、軍団とかではなく、後輩も“友達”って言うんです。優しさが深いというか、一つ一つ、いろいろ教えてもらっています。

コイツ、どう思ってんねん!

ただね「この人は何を考えているんだ…」ということもあります(笑)。

まだ、又吉さんが「火花」を書いていた頃、喫茶店に呼ばれたんです。そして「オレの周りで漫才師って考えた時、まず浮かぶのがお前や。だからこそ、聞きたいことがある。漫才師という職業、どう考えてる?」って言われたんです。

小説の内容が漫才師の話とは聞いていたので、自分が思っていることを素直に、正直に、力を込めて言ったんです。「漫才“師”と言っているということは、プロとしてお金をもらっていないとダメ。お金をもらっていて、なおかつ、それを一生やっていく人間が漫才師だと思います」みたいなことを10分くらいバーッとしゃべったんです。

で、実際に「火花」が世に出て、出来上がった本を読んで、ビックリしました。セリフで「“漫才師とは”というようなことをダラダラ語る奴は、一生漫才師にはなれない」と書いてあったんです。その瞬間「オレのこと、コイツどう思ってんねん!」と(笑)。

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生きてるうちは無理ですわ

若い頃から、僕は先輩につくということをしてこなかったですけど、又吉さんには心底「弟子にしてほしい」と思うことが多々ありました。そして、うれしいことでも、悲しいことでも、自分の感情がグチャグチャになった時、一番にそれを言いたいのは又吉さん。オーディションに受かった時、落ちた時、フラれた時、カノジョができた時、結婚を決めた時、子どもができた時、全部、一番に言ったのは又吉さんでした。

何をしたら恩返しになるんですかね。う~ん、何でしょうね…。又吉さんが死んで、命日とか何回忌とか、節目には墓の花を替えてくれる人っていると思うんですけど、ぜんぜん月命日とかじゃない普通の日とかに、何回忌でもない16年後とか、22年後とかに自分が花を替えに行くくらいですかね。生きてるうちはね、無理ですわ。むしろ、逆に、又吉さんがしてくれようとするんで…。何十年経っても、花を替えるくらいしか思いつきませんわ。

…あ、この話をしてる時点で、又吉さんがだいぶ早死にする設定になってますね。やっぱり、アカン後輩です(笑)。

■好井まさお(よしい・まさお)

1984年4月27日生まれ。大阪府枚方市出身。本名・好井正雄(読みは同じ)。東京NSC11期生。2006年に、井下昌城とお笑いコンビ「井下好井」を結成する。2013年に結婚し、昨年に双子の女児が誕生。動画配信サービス・ネットフリックス向け連続ドラマ「火花」(配信中)では、主人公が組む漫才コンビ「スパークス」の相方として感情がほとばしるような芝居を見せている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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