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「GReeeeN」の素顔が出ない理由とは

中西正男芸能記者
ノンフィクション作家の小松成美さん

デビュー10周年を迎えた4人組バンド「GReeeeN」。歯科医師としての生活を守るため、顔も名前も、詳しいパーソナルデータも明かさないまま、ヒットナンバーを連発するというオンリーワンの活動を続けています。菅田将暉さん、松坂桃李さんが出演し、同バンドをモデルにした映画「キセキ-あの日のソビト-」も大きな話題に。また、1月24日に発売された初のシングルコレクション『ALL SINGLeeeeS~&New Beginning~』もオリコン週間アルバムランキング1位を獲得し、4人の実話に基づいた青春小説「それってキセキ GReeeeNの物語」も版を重ねる売れ行きを見せています。小説の執筆にあたり、4年以上にわたってメンバーに迫ったノンフィクション作家の小松成美さん(54)が分厚いベールに覆われた「GReeeeN」の“素顔”について語りました。

今も限られた人しか知らない

いったい、GReeeeNの素性をどこまでの人が知っているのか。取材時には私も気になってメンバーに聞きました。実際、治療している患者さんも知らないそうです。本当に限られた人しか知らない。ただ、昔からの友達や家族はもちろん知っています。このご時世、何でもSNSで瞬時に拡散する時代、秘密が守られないことが当然でもあるのに、GReeeeNの素顔は明かされないままですし、広まらない。これって、本当にすごいことだと思うんです。

なぜ情報が出ないのか。取材をして心底感じたのは、周りに「善き心の人たち」が集まっているということでした。4人が大切に守っているものを壊そうとする人がいない。さらに言うと、4人がそれだけキラキラした友情を育んできた賜物だと思うんです。そして、周りの人を裏切ったり、出し抜いたりせずに生きてきた証だと痛感もしました。それでしか、この時代でこんな希な状況が生まれることはないな、と。何年も取材をしたから身内びいきで言うのではなく、純粋にそう思いました。

取材するきっかけは…

そもそも、彼らを取材するきっかけになったのは、カドカワの担当編集者がアーティストの本を作る担当でもあったんです。その方はあらゆるアーティストの関係者と日ごろから話をしていて、ユニバーサルのGReeeeNを担当するプロデューサーさんと話をした時に「顔も名前も出していない中でGReeeeNのことを広く、正確に、伝えていくにはどうしたらいいのか」という話題になったんだそうです。それならば、しっかりと取材をして、本というツールはどうか。そして、ありがたいことに「ノンフィクションを書いてもらうなら小松成美しかいない」と言っていただき、2011年の秋に取材をしないか、というお話をいただいたんです。

彼らの代表曲『愛唄』や『キセキ』は大好きでしたし、アルバムも聴いていて、もちろん楽曲の大ファンでした。情報として、全員が歯医者さんで顔も名前も隠しているというくらいのことは知っていました。ただ、世の中にそれ以上の情報が出ていないわけですから、私もそこまでしか知らなくて。そんな状況の中、「彼らと一度会いましょう」ということになったんです。名前も顔も明らかにしないアーティストをどう描くのか、それは未知のチャレンジでしたが、彼らの楽曲の素となっているドラマやストーリーを、もし描けたらと胸が高鳴っていました。

オシャレな青年たち

ユニバーサルのプロデューサーさんがセッティングをしてくださいまして、私と、担当編集者で、当時彼らが暮らしていた福島県郡山市へ出向いたんです。郊外の静かなカフェレストラン。その一番奥の個室に通されて待っていると、メンバーがそれぞれ車でやってきたんです。私服を着ていたメンバーはみんな、ファッショナブルで本当にハンサム。映画の中でGReeeeNをモデルにした「グリーンボーイズ」が登場しますが、ヒデ役の菅田将暉さん、ナビ役の横浜流星さん、クニ役の成田凌さん、ソウ役の杉野遥亮さん、みんな雰囲気、似てまいすよ(笑)。とにかく目の前に現れたのは、白衣の歯科医師ではなく、オシャレな青年たちでした。

まず、こちらが「作家の小松成美と申します」と挨拶をしたのですが、誰もニコリともしない。一番端っこに座ったリーダーのHIDEさんはずっと体が斜めのままでした(笑)。それぞれ挨拶はしてくれるんですけど、4人とも伏し目がちなんです。

それは、当然と言えば当然ですね。彼らにしたら、“自分たちにノンフィクションなんて一番そぐわない。だって、素性は明かさないんだし、この先も歯科医師をやっている限り、自分たちの真実を話すこともできない”というのが一貫したスタンスなわけです。そこにノンフィクションを書いてきた作家がやって来た。そもそも自分たちにとっては、一番遠ざけたい存在と会わされている、という緊張感だけがありました。きっと「何をどうしようとしているの!?」という懸念もあったと思います。その表情で当たり前なんですけどね。警戒心、恐怖心が見て取れました。それくらい、歯科医師とGReeeeNを両立するために自分の人生を秘め、歯科医療にも音楽にも邁進していたわけですから。

私は、書かれたくない気持ちを抱えているGReeeeNのメンバーを前に、こうした思いだけは伝えたんです。「私には一つのルールがあります。黙って何かを書いて出版したり、守秘義務を破ったり、絶対にしません。そういうことを守って、これまで仕事をしてきました。もし、皆さんのことを書くことになっても、同じです。私自身、中途半端にGReeeeNのことを伝えるのであれば、わざわざ本にする意味はないと思います。それに、途中で皆さんが、やっぱりイヤだな、書かれたくないと思ったら、一切を中止するだけです。私は皆さんに会ったことすらも誰にも話しませんから」と。すると、彼らの表情がパッと変わりました。

前代未聞の注文をつけた

インタビューを重ねる以上は、しっかりと、きっちりと、本当のことを書く。ただ、思いや信念は伝えながらも、守るべきパーソナルデータもある。その落としどころとして「小説という形はどうですか?」と申し出たんです。HIDEさんの目がキラッと光って「そんなことできるんですか?」と、言いました。カミソリのように鋭敏で、子犬のように愛らしい瞳を持つHIDEさんの、その時の表情は今もはっきり覚えています。

ただ、私が今まで書いてきたノンフィクションと小説とでは執筆の技法も表現も違うし、帰り道に「本当にできるのかな…」と思ったのも事実です。ただ、担当編集者の中條基さんへは、はっきり「GReeeeNをモデルにした青春小説を書きたい」と伝えました。そして前代未聞の注文もつけました。「彼らが途中で『やっぱりイヤだ』となれば、そこでストップ。私が『やっぱり書けないな』と思ってもそこでストップ。それでいいですか」と。中條さんは、一言「分かりました」と言ってくれました。そこで、私も覚悟が決まりましたね。

今、本の出版は非常に厳しく、いくつもの条件をクリアしなければなりません。どのタイミングで発売するか、どれだけの部数を刷るのか、どんな宣伝活動かできるのか、どれだけ売れる見込みがあるのか・・・。そういう現実的な裏付けを重ねていって、やっと動き出せる。「取材しても、途中で辞めるかもしれない」というスタンスなんて、あり得ないんです。だからこそ、私も絶対にやり遂げようと思いました。

2つの“顔”で震災に向き合う

そこから福島に通いまして、メンバー一人一人と話をしました。ただ、やるとなったら、彼らも覚悟を持って何一つ包み隠さず、全てを話してくれました。本当に聡明な方たちなので、話も面白く、ワクワクしっぱなしでした。そうやってインタビューを重ねていくと、今度は生まれ故郷を見てみたくなったし、ご家族にも会いたくなったし、お友達とも会いたくなった。そういった周囲の方々も含め、3年かけて話をうかがい、そこから取材+執筆の時間が1年あって、出版に至りました。福島に住んでいた彼らは、東日本大震災の被災者でもありましたし、歯科医師としてボランティアにも貢献しました。その彼らの思いも込めて、震災から5年目の2016年3月11日に出版することにしたのです。

GReeeeNのメンバーはファンとファンの思いをすごく大切にしています。彼らが言う“ファン”というのはライブのチケットを買ってくれた人、CDを買ってくれた人だけではなく、GReeeeNの曲を口ずさんでくれた人、耳にしてくれた人、すべてなんですね。もっと言えば、家族や友人、音楽や自分の表現、そうしたものを大切にしている人たちすべてを想っている。歯科医師でありながら、空いた時間を最大限に活用して常に曲作りを続けている。アーティストとして楽曲を生み出すだけじゃなく、歯科医師としての確かな目標も持っています。

「それってキセキ GReeeeNの物語」では泣きながら書いた箇所が何カ所かありました。その一つが、彼らが被災者となりながら、歯科医師としてできることに勤しんだ第7章「キセキ」です。リーダーのHIDEさんは歯科医師として、南相馬の津波で亡くなった方の検視も担当しました。そして、アーティストとしても震災と向き合った。HIDEさんは「このために歯科医師になったのかもしれない。そしてGReeeeNになったのかもしれない」という思いがこみ上げてきたそうです。私自身、そうしたHIDEさんの姿と胸の内を記すために、この本を書いていると、思っていました。

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先生たちからの熱い感想

今、GReeeeNのことを書いて本当に幸せだなと思っています。それくらい、素敵なメンバーなんです。彼らを描いた本には多くの反響をいただいています。中高生からOLやビジネスマン、子育てをする親御さんたち。中でもうれしかったのが、学校で教壇に立つ先生たちからの熱い感想です。生徒たちにこの本に込められたメッセージを届けたい、と授業の“教科書”“教材”にしたいという問い合わせが、いくつもあり、実際、学校で授業が行われました。GReeeeNの本をテキストに授業を行ってくださった先生たちは、まさにGReeeeNと同世代。彼らの存在は単なるJポップアーティストを越えています。

20代・30代を疾走し、やがて40代になっていくGReeeeNを、これからも追い続けたいと思っています

■小松成美(こまつ・なるみ)

1962年2月25日。神奈川県横浜市生まれ。専門学校で広告を学び、82年毎日広告社へ入社。放送局勤務などを経たのち、89年から執筆活動を開始する。主な著書に「中田英寿 鼓動」「勘三郎、荒ぶる」「YOSHIKI/佳樹」「五郎丸日記」など。近著「それってキセキ GReeeeNの物語」は中学や高校の授業で教材としても使われるなど、多方面で話題となっている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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