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トランプの研究(番外):当選後、トランプ・タワーでトランプ次期大統領と会談した人の”不可解なリスト”

中岡望ジャーナリスト
トランプ次期大統領に不法移民政策で苦言を呈したビル・デブラシオ・ニューヨーク市長(写真:ロイター/アフロ)

内容

1.アメリカ社会はコネ社会

2.意外な人物がトランプ次期大統領に会っている

3. 安倍首相とトランプ次期大統領会談の意味は何か

4.最初の外国人政治家、英独立党党首ファラージも面会

5.閣僚候補も相次いで面接で訪問か

6.異色の訪問者たち候補も相次いで面接で訪問か

1.アメリカ社会はコネ社会

大統領選挙が終わってほぼ10日経つ。まだ“トランプ・ショック”は世界を揺り動かしている。ショックの波はさらに大きくなり世界を覆うのか、それとも選挙運動中の過激な発言も現実に対応して調整され、次第に落ち着きを取り戻してくるのか。このところ、メディアはトランプ政権がどのような構成になるのか注目している。予想通りか、予想に反してか、ホワイトハウスのスタッフと閣僚の今までの選考を見る限り、トランプ政権の右傾化は避けられないようだ。大統領顧問と首席戦略官に任命されたスティーブン・バノンは“white nationalist(白人国家主義者)”と呼ばれる白人優越主義者であり、司法長官に任命されたジェフ・セッションズは人種差別的発言で1986年に連邦判事の承認を得られなかった経歴の持ち主である。国家安全保障担当補佐官に指名されたマイケル・フリンは反イスラム、反ユダヤで知られる人物である。今後、相次いでスタッフと閣僚の名前が報道されるだろう。共和党穏健派の前大統領候補のミット・ロムニーを国務長官に推す動きもあり、党指導部との和解の動きが出始めているとの推測もある。

本ブログでは「トランプ研究」と題して、トランプ次期大統領の政策に関する詳細な分析記事を連載する予定である。今までアップした記事はいずれも1万字を越える長文で、必ずしも読みやすいものではないが、極力、歴史的・政治的背景に触れながら問題点を明らかにしてきた。現在、「バノン論」を準備中であるが、これも1万字を越える内容になりそうである。11月21日か22日にアップする予定である。今回のブログは「閑話休題」というか「番外」で、軽いタッチのテーマを取り上げた。

人々は権力に群れるものである。トランプ次期大統領のもとにも、この10日間、多くの人が訪れている。あわよくば良いポストを得られるのではないかと思う者もいれば、心から祝福するために訪れた人もいるだろう。ただ誰でも次期大統領に会えるものではない。アメリカは日本以上に“人脈社会”である。余談だが、アメリカでは推薦状は極めて重要である。推薦状を書いてもらう者から言えば、誰が書いてくれるのかが重要になる。推薦状を書く人もなおざりに書くことはできない。自分が推薦した人物が相手を失望させるような人物である場合、推薦状を書いた人の社会的評価も下がるからだ。人に会う場合も信頼できる人の紹介があれば会いやすい。筆者も記者時代、直接申し込んでも取材できない相手に有力な人物の紹介を得てインタビューしたことが何度かある。要するに、どの社会もある程度は“コネ社会”なのである。ましてや大統領選挙で当選したばかりの人物に会うというのは極めて近い関係でない限り不可能と言っても良い。さらに付け加えれば、アメリカ社会は多民族からできあがっており、相手の氏素性はなかなか分からないもの。それだけ推薦や紹介してくれる存在が重要になるということである。

この10日間にトランプ次期大統領が誰に会ったのかは興味深いテーマである。『Vanity Fair』誌のウエブ「HIVE」は「この一週間にトランプ・タワーを訪れたすべての人のほぼ完全で不可解なリスト」と題する短い記事を掲載している。トランプ・タワーの周りにはジャーナリストの溜り場ができており、トランプ・タワーに出入りする人物は、タワーの周辺にたむろする記者によってすべてチェックされている。HIVEの記事をベースにしながら、筆者の取材と解説を付け加える。

2.意外な人物がトランプ次期大統領に会っている

同記事が最初に挙げている訪問者の名前はフロイド・メイウエザー(Floyd Mayweather)である。彼は17日にトランプ次期大統領と会っている。彼はアメリカのボクシング界ではレジェンド的な人物である。フェザー級、スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級、ウエルター級など多くの階級でチャンピオンになっている。トランプ次期大統領は息子のドナルド・ジュニアとメイウエザーの3人が並んだ写真をツイッターに掲載している。トランプ次期大統領は、ツイッターに「過去最高のボクシングのレジェンドの一人である」と、メイウエザーを称賛する文章を書いている。昨年、メイウエザーがフィリピンの英雄マニー・パッキャオと対戦したとき、トランプ次期大統領は妻メレニアと一緒にリングサイドで対戦を観戦していた。トランプ次期大統領が格闘技が好きかどうか分からないが、当選後すぐに訪れた人物の一人に元ボクサーがいたのは興味深い。

同じく興味深いのは、オーストラリア生まれの世界的な“新聞王”と言われるルパート・マードック(Rupert Murdoch)の名前があることだ。多くの人はマードックが18日にトランプ・タワーでトランプ次期大統領の娘のイヴァンカと一緒にロビーを歩いているのを目撃している。政治専門誌『ザ・ヒル』は、マードックがトランプ次期大統領に直接会ったかどうかは確認できないと書いているが、会ったことは間違いないだろう。マードックは記者団に何も語らずタワーを後にしている。選挙運動中、マードックが経営する「フォックス・ニュース」はトランプ候補を批判し、対立な関係にあった。バノン大統領顧問もマードックに対して批判的だと言われている。トランプ陣営からすればマードックは歓迎すべき客ではないのかもしれない。しかしマードックがトランプ次期大統領に会ったとすれば、その意味するところは大きい。マードックは保守派のメディアを多く所有する人物で、極めて大きな影響力を持つ人物であるからだ。所有する会社には、映画会社の「21世紀フォックス」、ケーブルニュースの「Fox News」、「Fox Business News」などのフォックス系列の会社。さらにテレビ局「Fox Television」、「Fox Broadcasting Company」、新聞社の『ニューヨーク・ポスト』、『ウォールストリート・ジャーナル』の持株会社「ダウ・ジョーンズ」、イギリスの『ザ・サン』、『ザ・タイムズ』、ネオコンの週刊誌『ザ・ウィークリー・スタンダード』などがある。同氏は伝統的な保守主義者で、トランプ次期大統領の極右的発言に批判的であった。今回の訪問は、ある意味では保守主義者のマードックが早々と極右的なトランプ陣営の軍門に屈したということなのかもしれない。あるいは両者から何のコメントも出ないということは、和解ではなく、決裂したことを意味するのかもしれない。

HIVEが次にあげているのが、ジェニー・ピロ(Jeanine Pirro)で、12日にトランプ次期大統領に会っている。ピロがトランプ・タワーのセキュリティを通るところがYouTubeに載っている。彼女はフォックス・ニュースの「Justice with Judge Jeanine」という法律関係の番組のコメンテーターを務めており、同時に地方検事の職にもある。2006年にニューヨーク州司法長官に指名されたこともある。彼女は、保守系の雑誌『ザ・ナショナル・ジャーナル』がトランプ候補を批判した時、トランプ擁護に回ったことで知られている。離婚した夫アル・ピロは有名な不動産関係の弁護士で、トランプ次期大統領と密接な関係にあった。彼女がニューヨーク州司法長官に立候補したとき、トランプは2万ドルの政治献金をしている。そうした関係を通して両者の間に緊密な関係があると予想される。付け加えれば、彼女は美人で、女性好きのトランプ次期大統領を十分に魅了するものを持っている。

3.安倍首相とトランプ次期大統領の会談の意味は何か

3人目に挙げられているのがヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)である。筆者から言えば、極めて意外な人物がトランプ次期大統領と会っているといえるといえる。キッシンジャーは現実主義の立場に立つ安全保障問題の専門家で、共和党主流派を代表する論者である。ニクソン政権の安全保障担当補佐官を務め、フォード政権では国務長官を務めた人物である。冷戦時代、“デタント政策”でソビエトとの共存政策を主張したことでも知られている。ネオコンのように体制転換を目指すのではなく、力のバランスを前提に現実を安定的に維持することを主張した学者である。キッシンジャーはトランプ次期大統領の外交政策には厳しい態度を取っていた。そのキッシンジャーが自分の方からトランプ次期大統領との面会を求めたとは想像しがたい。トランプ次期大統領が外交・安全保障政策で同氏の意見を求めるために呼んだと考えるほうが自然だろう。とすれば、トランプ政権の外交・安全保障政策は選挙運動でのレトリックとは違った現実的なものになるかもしれない。

4人目に挙げられているのが安倍晋三首相である。以下は筆者の印象である。安倍トランプ会談に対する日本のメディアのはしゃぎぶりには違和感を覚えている。トランプ次期大統領の報道責任者コンウェイは「政策および日米関係に関する深い会話は政権が正式に発足するまで待たなければならない」とCBSのニュース番組のインタビューで語っていた。言い換えれば、今回の会談では詰めた議論はされないということである。安倍首相は事前の準備をして会談に臨んだと伝えられるが、トランプ次期大統領から実質的な話は何も聞けなかったものと想像される。会談の後、首相は「相互信頼の基盤はできた」「トランプ氏は優れた大統領になる」といった発言をしているが、人はそんなに簡単には判断できないものである。外交政策で首脳間の信頼関係は極めて重要である。歴史を見ていると、外交交渉で最後の決断を迫られたとき、交渉担当者同士、あるいは首脳同士が信頼できるかどうかで交渉の行方が決まった例は多い。ただ、それは一般論で、共通の目的と価値観を持って初めて同盟関係は強化される。外交は友人関係で成立するわけではない。

最初に会うということに特な意味はない。日本のメディアが騒ぐほど、今回の会談はアメリカでは話題にはなっていない。報道されたとしても、それは次期大統領の行動の一つとしてであり、日米関係が注目されたからではない。そもそも多くのアメリカ人にとって日本に対する関心はそれほど高くはない。しばしば、日本のメディアは最初に訪れるのは、その国を重視している証だという書き方をする。今回も最初に会った海外の首脳だから、トランプ次期大統領は日本を重視するという主張はナンセンスである。ブッシュ大統領が最初に訪問したのはメキシコであった。理由は不明だが、おそらく知事を務めていたテキサス州はメキシコとの関係が強く、大統領の弟のジェブ・ブッシュの妻はメキシコ系アメリカ人であったことが影響したのかもしれない。またオバマ大統領の最初の訪問国はカナダであった。クリントン国務長官の最初の公式訪問国は日本であった。彼女は日本をアジア戦略の“コーナーストーン(要石)”と表現していた。だが最初に訪日したのはフィリピン、中国、韓国の4カ国訪問の一環で、旅行の行程から言えば、日本が最初に選ばれるのは当然であった。

報道では、トランプ安倍会談は、安倍首相がトランプ次期大統領に電話で祝辞を述べたときに「早く会いましょう」と語り掛けたのに対して、トランプ次期大統領が即座に反応して実現したと伝えられている。現国務省のジョン・カービー報道官は「次期大統領は複雑な外交手続きを経ずに外国の要人と会っている。要請があれば次期大統領と彼のチームを支援する準備をしている」と語っている。外交的なプロトコル抜きでの対応は、ビジネスマン的な対応である。会談での内容はお互いに秘密にするという約束のようだが、先に触れたようにトランプ次期大統領が具体的に何かを話せる状況ではない。これも想像だが、ゴルフ談義に終始したのではないかと、勝手に推測している。外交政策で重要なのは、いかにして政策オプションを確保するかである。日本の方からお願いするという話では、日本にオプションがないことを相手に伝えるようなものである。いずれにせよ、当選後最初の10日間に会った人物の“不可解なリスト”に安倍首相が入っているということである。

安倍首相に続いて掲載されているのは、ビル・デ・ブラシオ(Bill De Blasio)ニューヨーク市長である。会ったのは11日で、会談時間は1時間に及んだ。『ロサンジェルス・タイムズ』紙によれば、トランプ・タワーを出る際に同市長が「私は多くのニューヨーカーは恐れを抱いていること、この国を癒すためにより多くのことがなされなければならないこと、そして人々が尊敬されなければならないことを彼に伝えた」と記者団に語っている。これはお願いではなく、要請である。トランプ次期大統領が不法移民の強制送還を主張していることに対して多くの移民が住むニューヨークでは人々が将来に対して不安を抱いていることを伝えたのである。トランプ次期大統領は不法移民を擁護する都市(sanctuary city)には連邦政府の資金支援を打ち切ると語っている。幾つかの市長は、それに対して抵抗の意志を示している。ニューホーク市長は民主党のリベラル派でクリントン候補の支持者で、選挙運動中、不法移民の強制送還には協力できないと語っていた。反ユダヤ主義に対しても苦言を呈している。これに対して、次期大統領の報道責任者のコンウェイは会談の内容は明かさず、「非常に生産的な会合であった」と語っている。また「ニューヨークはアメリカ最大の都市の市長であり、トランプ次期大統領の隣人である市長の訪問を嬉しく思っている」と、表敬訪問であったことを間接的に強調している。

4.最初の外国人政治家、英独立党党首ファラージも面会

15日にトランプ次期大統領と会ったのは、共和党大統領予備選挙で最後までトランプ次期大統領と争い、最終的にトランプ支持に回ったテッド・クルーズ(Ted Cruz)上院議員である。トランプ次期大統領に会った共和党主流派の最初の有力議員である。会談の詳細は明らかにされていないが、クルーズ議員の報道担当官は「クルーズ議員はトランプ次期大統領に協力すること、オバマケアを廃棄すること、保守的な最高裁判事を任命することを伝えた」と語っている。簡単に言えば、トランプ政権の閣僚として入閣したいという猟官が目的であろう。

順序は逆転するが11日にトランプ次期大統領と会ったのはナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)である。彼はイギリス独立党党首でイギリスのEU脱会と主権回復を主張した右翼の政治家である。トランプ次期大統領はイギリスのEU離脱を高く評価していた。イギリスの新聞『ガーディアン』紙は、両氏は「自由と勝利(freedom and winning)」について話し合ったと報道している。彼はトランプ次期大統領が会った最初の外国の政治家である。ファラージは、今回の訪問は招待されたのか、またアメリカの政権移行に協力するのかと記者に問われて、「私たちは単なる旅行者だ」と記者を煙に巻いている。さらに「トランプ次期大統領は偉大な両国が何を一緒にやってきたのか十分に理解している。イギリスを嫌う大統領の時代は終わる」と、両国の関係改善を期待する発言も行っている。だが『ガーディアン』紙は、「米英の特別な関係はアメリカの新政権のもとで維持するのはより困難になる可能性があるとの報道があり、イギリスの金融界は先行きを懸念している」と伝えている。ファラージはツイートにトランプ次期大統領と一緒に映った写真を掲載し、「トランプ氏と会えたことは非常に光栄である。彼はリラックスしており、非常に良い多くのアイデアを持っている。私は彼が良い大統領になると確信している」と書いている。

また16日に実業家で億万長者のフットボール・チームのニューイングランド・パイレーツのオーナーであるロバート・クラフト(Robert Kraft)にも会っている。記者はトランプ・タワーに入っていく同氏を目撃しているが、それ以上の情報は報道されていない。トランプ次期大統領とクラフトは非常に親しい関係にある。クラフトはトランプ次期大統領の3度目の結婚式に参列した仲である。多くのメディアは、同氏のトランプ次期大統領との面談の目的は不明だと書いている。同じ実業家のウッディ・ジョンソン(Woody Johnson)も会っている。同氏はジョンソン&ジョンソンの創設の曾孫でもある。クラフトと同様にフットボール・チームのニューヨーク・ジェットの所有者でもある。トランプ次期大統領とは30年来の知り合いである。ミネソタ州の共和党の最大の政治献金者で、今回の大統領選挙でもトランプ候補の政治献金集めで活躍し、10億ドルの資金を集めている。まだトランプ候補の勝利が見えない5月段階で、同氏は「トランプ候補は党の大統領候補の指名を受けるだろう」と予想していた。「自分は長年スポーツ産業に携わってきた。スポーツ産業では常に勝ってきた。私はフアンを楽しませたい」と語っている。同氏はトランプ次期大統領の最大のスポンサーのひとりであり、自由に次期大統領に会える立場にいると想像される。

5.閣僚候補も相次いで面接で訪問か

次の人物はピーター・ティール(Peter Thiel)である。彼はトランプ政権移行チーム執行委員会メンバー(Presidential Transition Team Executive Committee)である。一時はクリス・クリスチー委員長に代わって委員長に就任するとの噂もあった。結局、委員長はペンス次期副大統領が務めることになった。ドイツ生まれのアメリカ人で、ヘッジファンドを運用する億万長者のマネジャーである。2014年の富裕層の「フォーブス金持ちランキング」で、純資産は22億ドルで、第4位にランクされている。フェイスブックの取締役も務めている。トランプ候補に反対するシリコンバレーの企業家と対立してトランプ候補を支持し、共和党全国大会の演説でトランプ支持を訴えた実績がある。政治的立場は極右に近い。

インド系アメリカ人女性のニッキー・ヘイリー(Nikki Haley)サウスカロライナ州知事は17日にトランプ次期大統領に会っている。彼女はトランプ政権の閣僚候補に名前が挙がっている。今回の会談は、そのための面接かもしれない。ただ、現在の時点では、特に彼女の閣僚指名の発表はない。同州の広報官は「ヘイリー知事はトランプ次期大統領に会ったことを喜んでいる。二人は良い会話を交わした。彼女は次期政権と、同政権がワシントンにもたらす新しい方向に非常に勇気づけられた」という内容の声明を発表している。同様に次期財務長官の呼び声の高いスティーブン・ムンチン(Steven Mnuchin)も14日にトランプ次期大統領に会っている。ゴールドマン・サックスのパートナを務めたことのある投資銀行家である。ゴールドマン・サックスを辞めた後、シアーズやソロス・ファンド・マネジメントで働き、映画「Xメン」などを制作した映画会社RatPac-Dune Entertainment社を設立している。ウォール街の金融マンがトランプ候補に背を向けた時も、彼はトランプ候補を支持し続けた。忠誠心を重んじるトランプ次期大統領が、彼を閣僚として登用する可能性は大きい。過去にゴールドマン・サックスから閣僚になった人物は多い。ゴールドマン・サックスの社是に「社会的貢献」があり、元ゴールドマン・サックスのスタッフは政治を含む様々な社会的分野に進出している。

6.異色の訪問者たち

異色なのはファッション・デザイナーのトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)である。彼は15日にトランプ次期大統領と会っている。同氏が経営するファッション・ショップは日本でも渋谷や自由が丘などにもある。アメリカのメディアは、同氏がトランプ次期大統領に会ったことは確認しているが、その理由は不明としている。また2番目の妻マーラ・マップルス(Marla Maples)も会いに来ている。最初の妻の話はどこにもない。また右派の論客レオナード・レオ(Leonard Leo)も16日に会っている。彼は弁護士で『フェデラリスト・ソサエティ』の副会長を務めている。同会は保守派やリバタリアンの弁護士の団体で、憲法解釈は建国の父たちの意志に沿って行うべきだとするオリジナリストの立場から法制度改革を求めている。要するに右派に人物である。

『ニューヨーク・タイムズ』紙(11月17日)によれば、今後、トランプ次期大統領が会談を予定しているのは、イラク戦争増派を計画したジャック・キーン退役将軍(Jack Keane)、国家安全保障局のマイケル・ロジャース(Michael Rogers)局長、オハイオ州の前州務長官のケン・ブラックウエル(Ken Blackwell)などである。HIVEは、ボクサーのマイク・タイソン((Mike Tyson)もトランプ次期大統領を訪問すると予想している。どうもトランプ次期大統領はボクサーがお気に入りのようである。

政権移行チームのメンバーは頻繁にトランプ・タワーを出入りしている。タワー以外でもトランプ次期大統領は人と会っている。この“不可解な”リストを見ることでトランプ次期大統領の一面を知ることができるかもしれない。

(文中敬称略)

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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