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バルサとレアルが惨敗の衝撃! ドイツ勢の勝利は偶然ではない

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

ヨーロッパ・チャンピオンズリーグ準決勝ファースト・レグは、ある意味、世界のサッカーファンに衝撃を与えた。

まず、ここ数年に渡って世界ナンバーワンの名をほしいままにしていたバルセロナが、アウェイとはいえ、バイエルン・ミュンヘンに対して大きな見せ場も作れずに0-4で大敗。

エースのメッシが故障明けで不調だったことを差し引いても、言い訳ができないような完敗ぶりだった。

一方、モウリーニョ監督率いるスター軍団レアル・マドリーは、若手中心のドルトムントに1-4で完敗。

クリスティアーノ・ロナウドが決めたアウェイゴール1点をわずかな望みとして来週のセカンド・レグに臨むわけだが、バルセロナ同様、こちらも逆転勝利の可能性は極めて低いという状況にある。

大方の予想では、バルセロナとレアル・マドリーというスペインの2大クラブが優勢と見られていたが、実際に蓋を開けてみれば、ドイツ勢の勢いばかりが目立ったファースト・レグ2試合だった。

気の早いメディアはバルセロナのサイクルがこれで終焉し、モウリーニョ監督の神通力もこれで終わったなどと分析しているほどだ。

それが正しいのかどうかを判断するにはもう少し時間を要するが、いずれにしても今回のバイエルンとドルトムントの勝利は、サッカー界にそれほどのインパクトを与えたことだけは間違いない。

しかしながら、近年のドイツサッカーの興隆と躍進ぶりを知る者は、今回の両チームの勝利をサプライズだとは感じていないはずだ。

そう、現在ドイツの2強に君臨するバイエルンとドルトムントが、スペイン2大クラブに勝利したことは、決して偶然ではないのだ。

若手育成プログラムの再構築がドイツ復活の出発点

ドイツサッカーがヨーロッパで復権を果たすまでのストーリーを探ると、その出発点はドイツ代表がユーロ(ヨーロッパ選手権)で大惨敗を喫した2000年にまで遡る。今から12年以上も前のことである。

当時90年のワールドカップと96年のユーロで優勝を果たしたドイツは、そこにあぐらをかき、ユーロ96以降はほとんど若手タレントを輩出できなくなっていた事実に目を伏せたまま名のあるベテラン中心でユーロ2000に挑んだ。

すると、それまではどんな大会でもグループリーグを突破するのは当たり前だったドイツが、1勝も挙げられずにグループ敗退。

ルーマニアにも勝てず、イングランドとポルトガルに負けたという事実は、誇り高きドイツ人にとって、決して受け入れられるものではなかった。

この惨敗を受けてドイツサッカー協会は徹底的に問題点を議論し、そこで導き出した答えが、それまで野放しにしていた若手の育成システムの再構築だったのだ。

地に落ちたドイツ代表そのものを改革するのではなく、未来を見据えて、若手の育成プログラムを新たに立ち上げたところが、ドイツ人のすごさだとも言える。

とにかく協会は、育成に多額の資金を投下し、長期プロジェクトに着手することを決断したのである。

綿密に練られたそのプロジェクトがスタートしたのは、2002年のことだ。

その画期的な育成プログラムを具体的に説明すると、ドイツサッカー協会が全国に366ヶ所の拠点を作り、11~17歳までの優秀なタレントを見落とすことがないよう、1000人の指導者によって直接指導。

さらにコーディネーターと呼ばれる29人の人材を派遣し、正しい指導が行われているかどうかをチェックし、366ヶ所の現場とサッカー協会の重要なパイプ役とした。

また、コーディネーターは各拠点で指導に当たるコーチのセレクションと指導を行い、選手全員の詳細なデータも管理する。

そして、協会が作り上げたトレーニング方法を紹介するだけでなく、逆に現場で起こった問題点を吸い上げ、協会に戻すという仕事も受け持っている。

現在、366ヶ所の拠点では1万人以上の優秀な子どもたちがエリート教育を受けているという。

近年、優秀な若手ドイツ人選手が急増している理由だ。

たとえば、今回のチャンピオンズリーグ準決勝を戦っている4チームで言えば、レアル・マドリーの司令塔エジル、ボランチのケディラがこの新しい育成システムから生まれた最初のタレントになる。

また、バイエルンではクロースが、ドルトムントで言えばフンメルスやゲッツェを筆頭にメンバーのほとんどがこの育成システムから生まれている。

ほんの数年前まではバラックぐらいしかドイツ国外でプレーするワールドクラスがいなかったという状況は激変した。今やヨーロッパのビッグクラブがドイツ人のタレントを奪い合うほどのタレントの宝庫となったのである。

しばらくドイツサッカーの勢いは止まらない

それだけではない。2006年ワールドカップも大きなターニングポイントだと言える。

まず、この大会でドイツが地元ファンの前で素晴らしいサッカーを見せて3位となり、しばらく遠ざかっていたファンが再びサッカーに戻ってきたという背景がある。

しかも2006年は開催国だったため、老朽化していた国内のスタジアムがワールドカップ仕様のモダンなスタジアムに生まれ変わったこともその勢いに拍車をかけた。

スタジアム整備で収容能力を増したスタジアムはどこも満員の観衆で膨れ上がり、グッズ販売も急増。

それまで厳しい財政を強いられていた各クラブの懐も潤うようになったのである。

今や、ドイツのブンデスリーガはイングランドのプレミアリーグを抜いて、観客動員数では世界ナンバーワンとなっている。

多くの日本人プレーヤーがプレーするので、ブンデスリーガの盛況ぶりは日本のお茶の間にも伝わっているはずだ。

すべてがポジティブに回転する現在のドイツサッカーは、しばらくその勢いを止めることはないだろう。

むしろ、イングランド、イタリア、フランスといった強豪がやや停滞している現状からすると、もはやヨーロッパで世界チャンピオンのスペインを打ち負かす最有力候補は、ドイツが筆頭と見て間違いない。

来週行われるセカンド・レグは、そういう意味でも実に興味深い試合となる。

スペイン代表を多く抱えるバルセロナとレアル・マドリーが敗れ去ったとすれば、多くのバイエルンとドルトムントの選手で構成されるドイツ代表が、来年のワールドカップで頂点に立つという予想も現実味を帯びてくるはずだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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