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Jリーグ「2ステージ制」の本当の目的と、それを受け入れられない理由

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

Jリーグが、2015年シーズンから「2ステージ+ポストシーズン制」を導入することを決定した。

これについては、かねてからサポーターの反対の声が際立っていたため、各メディアでもこれを導入することについて賛否を問う議論が重ねられている。

と、言いたいところだが、残念ながら議論が重ねられている状況とはほど遠いというのが実情だ。むしろ、やや一方的な報道によって、問題の本質がすり替えられてしまった印象さえある。

おそらく、議論が早くも収束しつつある最大の理由は、そこにあるのではないだろうか。

個人的には、2ステージ制導入は反対の立場にあるが、その最大の理由は「公平性を欠く」とか、「世界のスタンダードから逆行する」といった類のものではない。

それだけに、本当に議論すべきことがなされないまま、まるで導入することが既定路線かのように正式発表されたことに違和感を覚えてしまうのだ。

いや、正直に言えば、違和感というよりも「またか……」という、どこか絶望感に近い気持ちに襲われてしまうのである。

レギュレーション変更の発端はどこにあるのか?

そもそも、このタイミングでリーグ戦のレギュレーション変更に踏み切るに至った理由、原点は何なのか?

これについてJリーグ本部(この案件では主に中西大介競技・事業統括本部長がスポークスマン役を務めている)は、ひと言でまとめてしまえば「観客動員の微減に歯止めをかけたい」という危機感によると説明している。

もちろん、それに付随するさまざまな理由もある。

たとえば、日本人タレントの国外流出であったり、日本代表人気のリターンが薄くなっていることであったり、社会全体として人口が減少していることだったり……。

要は、それらさまざまな理由によってJリーグの将来を不安に感じているからこそ、今回の改革に踏み切ったわけである。

普通に考えれば、危機感を覚えて立ち上がり、勇気を持って現状を改革するということは、高く評価されるべきだし、自ずと説得力を持つものだ。

少なくとも、毎週のようにスタジアムに足しげく通う熱心なファンやサポーターたちなら、スタジアムの温度が下がっていることを肌で感じていたに違いないのだから、今回の改革に賛同する人がもっと多くいていいはずである。

しかし、説得力のありそうな言葉を改革の理由として並べているにもかかわらず、聞いた者がその必死さや努力に賛同し、それを素直に評価でないのはなぜなのだろうか?

サッカーを誰よりも愛してやまないファンやサポーターたちがそれを受け入れないのは、どうしてなのだろうか?

おそらくその原因は、Jリーグ本部が問題の本質を覆い隠すための装飾として、綺麗に見える言葉を並べているからだと思うのだ。

なぜそう思うのかと言えば、Jリーグ本部は観客動員数の微減について十分に認識していて、数年前から対策を打ってきたという経緯があるからだ。

分かりやすく言えば、今回レギュレーション変更で並べられた理由は数年前から言われてきたことであって、2ステージ制移行の理由としては説得力を欠いている。

実際、鬼武前チェアマン時代の2007年に掲げられた一大観客動員キャンペーン「イレブンミリオン・プロジェクト」は、Jリーグが打った対策のひとつだった。

これは、2010年までに通算1100万人の観客動員を目指そうというキャンペーンで、なぜ2010年までなのかという理由が公に示されないまま、結構な予算を使って繰り広げられたキャンペーンである。

しかしいざ蓋を開けてみれば、少々乱暴な言い方をすれば、Jリーグ本部が多額な予算を使ってPRをして、実際は各クラブが実働隊としてノルマを課されただけのものだった。

それにより、ノルマ達成を果たすために某クラブが観客動員数を水増ししてしまうという事態に発展したことは記憶に新しいところだ。

しかも、このプロジェクトは目標をはるかに下回る数字となって大失敗。しかし、そのときJリーグ本部は、あれだけの予算をどのように使って、なぜ失敗に終わったのかなどを、クラブやマスコミやファン・サポーターに明確に伝えることをせず、いわば反省や謝罪のないままうやむやな格好でフェードアウトさせてしまった過去がある。

言っておくが、Jリーグ本部が使っている予算は、あくまでもクラブが存在するからこそ集まるお金である。スタジアムに通う熱心なファンやサポーターたちは、クラブにお金を使っているのであって、Jリーグ本部のためにお金を使っているわけではないはずだ。

もちろん、Jリーグ本部も予算確保のために日々努力をしていることは認めるが、その予算確保のために各クラブを消耗させてしまうのでは本末転倒も甚だしいと言わざるを得ない。

観客動員数減少で困っていたのはJリーグ本部

来年からスタートする予定のJ3導入もしかりである。

ここ数年で急激にJクラブの数を増やし、さらに半分アマと言えるようなハードルでJ3クラブを作ることに意味はあるのか? その本当の目的はどこにあるのかを明確に示さないまま、ただクラブ数だけを増加させているというのが現在のJリーグ本部の方向性になっているのだ。

確かにクラブ数が増加して日本全国に広がれば、Jリーグ自体のバリューは向上するかもしれない。それによって、全体の観客動員数の減少を一時的に抑制することができるだろうし、テレビ放映権料やスポンサー契約料などを維持することはできるかもしれない。

しかしその一方で、育成システムさえも確立されていない中でそれをやれば、選手の供給が間に合わずリーグ自体のレベルが低下することは目に見えているし、そうなれば試合自体の魅力が低下して客離れが起こるのは当然のことだ。

最初にジリ貧状態に苦しむのが各クラブになることなど、現時点でも想像に難くない。

100%とは言わないまでも、観客動員数の微減が続いているのはJリーグ本部自らがまいた種、失政の結果であって、決して各クラブの営業努力が足りないから起こったわけではないということを、まず明確にしておく必要がある。

そもそも各クラブは、Jリーグの理念に沿って地元密着型の身の丈経営をポリシーに今も地道な歩みを続けているわけで、それを考えれば、実はこのタイミングで観客動員数の減少で困っていたのは、各クラブではなくJリーグ本部だったことがはっきりと見て取れるはずだ。

結局、今回のレギュレーション変更の中で出てきたポストシーズン制で得られる約10億円という収益が、すべてJリーグ本部の予算(育成費や広告宣伝費)となってしまうことが、あらゆる疑問に対する明確な回答となっている。これが、絶望感の最大の原因である。

要するに、スーパーステージやチャンピオンシップに出場するクラブ、つまりそこでプレーする選手はタダ働き。その事実を、選手、現場のスタッフ、そして彼らを応援するファンやサポーターたちは、どんな気持ちで受け入れればいいのだろうか?

問題の本質にメスが入るまで議論を続けるべき

問題の本質とは、そういうことだと思うのだ。

つまり、本来リーグ活性化のために改革すべきは、リーグシステムの変更ではなく、体制システムの変更であるべきなのだ。

確かにJリーグがこれまで歩んできた20年の歴史は、決して各クラブだけでは成しえなかった。Jリーグ本部の力による部分は大きかったと思う。

かじ取り役がしっかりしていたからこそ、ここまで発展できたことは誰もが認めることだと思う。

しかし、いつまでもリーグ本部ありきの体制システムを維持しようとすれば、いずれクラブはこのシステムの矛盾に耐え切れず、消耗して消滅する可能性は否定できない。

本部からの分配金頼りのクラブ経営は、中央政府の地方交付税交付金に頼る地方自治体の構図そのものであり、今回の議論の中で各クラブの代表者がメディアの前であまり発言していないのは、そんな見えない力が働いているからなのだと想像してしまう。

極論、2ステージ制なのか1シーズン制なのかという部分については、今の日本ではどちらも決め手を欠いているというのが実情なので、どちらが正しいということはないのかもしれない。

事実、これを決断したJリーグ本部は「1シーズン制がいいことは認識している」うえでの改革だと言っている。だとすれば、彼らはおそらくこの変更によってレギュラーシーズンの価値が著しく低下することも承知しているのであろう。

もっと言えば、この変更で観客動員数が大して伸びないことも十分理解しているということなのだろう。

彼らが今必要としているのは目先の利益であって、Jリーグの将来ではないということなのだろう。

とにかく、本質が置き去りになったままそれぞれのレギュレーションのメリットデメリットを語ったところで、問題の解決にはならないということだけは肝に銘じておくべきだ。

このままでは、Jリーグはまた5年後に同じような問題に直面することは火を見るより明らかである。

2ステージ+ポストシーズン制が導入されるのは、2015年。

確かに正式決定を覆すことは難しいのかもしれないが、議論は問題の本質にメスが入るまで続けるべきである。

仮にそれができるのであれば、今回のレギュレーション変更という悪政にも何らかの価値が生まれるというものだ。それが、100年の歴史につながると思うのだ。

それぞれが、できることは何か?

少なくとも、日本で最もJリーグの将来を考えているであろうJリーグ本部の人たちには、自らの体制をリストラする勇気を持っていただきたい。そして、Jリーグ、サッカーにかけるその情熱を、目先の利益ではなく、本来目指すべき未来とその方向性にエネルギーを注いでいただきたい。

世界的にも稀に見るような発展と成長を遂げ、ヨーロッパや南米でも高く評価されているJリーグは、そうやって地道にこの20年の歴史を作ってきたのだから。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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