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敗戦という事実以上に見過ごせないザックジャパンの問題点

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

コートジボワール戦の敗戦は、誰が見ても論理的なものだった。

シュート数は20対7(枠内シュート数は10対4)、ボール支配率でも57%対43%。この手の数字だけではサッカーの試合内容は読めないが、最終スコアが2対1だったことを前提とすれば、ほとんどの人が納得するはずだし、むしろ、この試合を1点差でしのいだ日本は善戦したと言う人がいても、なんら不思議ではない。

しかも、攻め込みながら多くのチャンスを逃していたコートジボワールのパフォーマンスは、決して良かったわけではない。それ考えれば、日本とコートジボワールの差は2対1以上の差だったと言える。

だからこの敗戦について、必要以上に悲しみ、落ち込む必要はない。周囲の期待が大き過ぎただけの話だ。至って順当な結果。客観的に、世界はきっとそう見ているはずだ。

コートジボワール戦で露呈した見過ごせないポイント

ただし、これが順当な敗戦だったとしても、いくつか気になる点があったのも事実。それらは、残されたギリシャ戦、コロンビア戦を展望するうえでも、見逃せないポイントだと思われる。

まず、このコートジボワール戦を迎えるにあたって、指揮官ザッケローニの采配に変化が見られた点がひとつ。

ワールドカップ出場権を獲得して以来、それまで継続していた自身のコンセプトを放棄し、選手任せの部分が目立っていたザッケローニだが、その流れで「攻撃的に行く」と語っていた大会前とは違い、このコートジボワール戦は現実路線に回帰していたからだ(因みに、ここで言う現実路線は南ア大会での戦い方とはまったく異なるので注意されたい)。それは、スタメン表からも見て取れた。

吉田とCBコンビを組んだのは、今野ではなく森重。ダブルボランチは、故障明けの長谷部は間に合ったが、その相方には遠藤ではなく、親善試合でスタメンを飾り続けていた山口を起用。1トップも、柿谷ではなく、大迫だった。

もちろん、今野、遠藤、柿谷をベンチに置いた意味はそれぞれ異なるが、少なくとも、遠藤を攻撃的な駒とする前提であれば、長谷部と山口のボランチ2枚は守備的な度合を強めた選択だったと見て間違いない。また、1トップに大迫を起用したのは、最前線でポストプレーをして、キープできなくてもいいからある程度の時間を作ることにあったと思われる。裏に飛び出す柿谷の場合、裏を狙うハイリスクのパスを相手に奪われて速攻を食らう可能性が高いから、それぞれの特長を天秤にかけたうえで、守備面を考慮して大迫をセレクトしたのだろう。

実際、日本の立ち上がりは相手の様子を見ながら、むやみに高い位置からプレスをかけず、お互いの距離感を保ちながらコートジボワールの攻撃に網を張っていた。最終ラインと前線の距離をコンパクトにして、両サイドアタッカー(香川と岡崎)は出来るだけサイドのエリアを離れずに、相手の両サイドバックのケアをさせる。最終ラインとMFのラインが横2列に並べば、自動的に最終ラインと前線の距離もコンパクトになるからだ。

問題は、全体をコンパクトに保ち続けることができなかったことにあるのだが、そこは相手の実力も影響してくるので仕方ない部分もある。ジェルビーニョ、カルー、ボニーに加え、ヤヤ・トゥーレや両サイドバックが顔を出して来れば、最終ラインを高く保つことは難しい。

それでも、選手間の距離を保って、人数をそれなりにかけて守備をしていたため、多くのチャンスを作られながらも、結果的に相手のクロスやシュートの精度を低下させることは出来ていた。

失敗に終わった指揮官のアドリブ采配が意味するもの

もうひとつ気になったのが、1点をリードしている状況の後半54分に、遠藤を投入したことである。

もちろん、長谷部のコンディションの影響もあるのだろうが、遠藤を入れるということは、ボールをつなぐといった攻撃面の改善が狙いとなる。つまり、リズムの悪い日本を見て、ザッケローニは守備のバランスよりも、攻撃の部分に変化を与えようと試みたわけだ。そして、それが結果的に采配ミスとなってしまった。

この試合における選手交代については、ザッケローニ自身が「狙いが外れて失敗した」と試合後に後悔しているが、攻撃の改善を目論んだことで攻守のバランスが崩れ、皮肉にも、その直後に2分間で逆転を許してしまった。ドログバが投入されたのは、遠藤がピッチに入ってから6分後、日本が失点をしたのは、ドログバが入ってきたから2分後のことだった(このとき、コートジボワールは2トップにシステム変更している)。

さらに、逆転された直後に、大迫に代えて大久保を起用した際には、ベンチの指示が選手に正確に伝わらず、香川、大久保、本田、岡崎のポジションが明確になるまで3分ほどを要したという混乱もあった。最終的には、1トップに入ったのは本田で、トップ下が香川、左が大久保、右が岡崎という並びとなった(その後、柿谷を投入して本田はトップ下に戻っている)。

スムースにベンチの意図が伝わらなかったのは、この変更が事前に決められていなかったことの証拠。おそらく、遠藤投入のタイミングを誤ったことで逆転を喫したザッケローニが、焦って決めたアドリブ采配だったと思われる。

最後は、吉田を前線に残したパワープレーだ。もちろん、どのチームも最後にパワープレーに走るのは普通のことなのだが、しかしこのチームの場合、昨年の10月の東欧遠征のベラルーシ戦で、ハーフナーをパワープレー用に起用しながら一向にロングボールを使わなかった選手たちを見て、指揮官はそれを諦めたという経緯がある。

以降、パワープレーを使う機会はなかったし、少なくともハーフナーは、あの試合以来代表には招集されていない。にもかかわらず、この場におよんで、吉田を使ってのパワープレーを試みたのである。もちろん、普段やっていないことを急にやっても上手くいくはずがない。

このコートジボワール戦の敗戦は、当然だが、グループリーグ突破を考えるとダメージの大きい敗戦だった。しかし、そういった数字的な問題よりも、今はここに挙げたいくつかのポイントを整理してみることのほうが、ギリシャ戦、コロンビア戦を占ううえでは重要なことだと思われる。

突然自分の色を再び出し始め、采配が空回りした指揮官と、自分たちがやりたかったサッカーができなかった選手との間に横たわる、小さくないギャップ。これは、どちらのやり方が正しいかではなく、あくまでも目指す方向性の問題だ。勝敗は、その後についてくるもので、それをこの4年間積み上げてきたはずだというにもかかわらず……。

チームの中でそれをクリアにしない限り、ザックジャパンが奇跡を起こすことは不可能だろう。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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