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アジアカップ準々決勝敗退は、偶然の結果ではない

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

UAE戦は典型的なジャイアントキリングの試合だった

「言い訳はしない。選手たちはしっかり準備していたと思う。今大会ではポストに当たった場面もあり、本田は4回くらいそれがあった。運がなかったと言うつもりはないが、今日のゲームで勝利に値するのは我々だった」

延長戦を含めた120分間で日本が放ったシュート数は35本。一方、PK戦の末に準決勝に駒を進めたUAEのシュート数はわずかに計3本。ポゼッション、パス成功率、コーナーキック数など、あらゆる数字で日本はUAEを圧倒していた。

その点からすれば、アギーレ監督が試合後に発言したように、勝利に値したのは日本だったと言える。しかしながら、サッカーはゴール数を競い合う競技であり、ゴール数で相手を上回らなければ勝利することはできないスポーツだ。

一方的に攻めたチームが、防戦一方のチームに敗れ去る。このような展開と結末は、サッカーの試合ではよくあるケース。いわゆる、ジャイアントキリングが起こる時の典型だ。そういう意味では、起こるべくして起こった結果。運という要素は別として、そこにハプニングやサプライズは見当たらないと見るべきだろう。

アギーレジャパンの守備意識は本当に高かったのか?

では、実力的には優勝候補のはずの日本が、準々決勝敗退という結末を迎えた原因はどこにあったのか? そこには、単なる運では片づけられない、それなりの要素があったと思われる。

中でも、個人的に今大会を通して最も合点がいかなかったことは、「アギーレジャパンになって守備意識が高まった」という認識、評価だった。これは、明らかに前任者ザッケローニ前監督との比較において語られていたことである。

確かにアギーレ監督の発言、そこからくるイメージからすれば、守備に対する意識の高さをうかがえないわけではない。実際、選手たちの口からも、監督から守備意識を強く言われているというニュアンスのコメントを度々耳にすることもできた。

しかし、実際にピッチで実践されていたのは、正直、とても守備意識の高いチームのディフェンスではなかった。無失点で抑えたグループリーグ3試合のディフェンスは組織的とは言えず、相手のイージーミスに助けられたものだったことは前回も書かせてもらったが、残念ながら、このUAE戦の失点シーンはそれを証明するものだった。

長友が高いポジションをとっている時に生まれる大きなスペース。おそらくUAEも研究していたと思われるその大きなスペースに対する危機意識がどれほどあったのか、あるいはどうやってその穴を埋めるのかという部分で言えば、前半7分にマブフートに決められたゴールは、まさに起こるべくして起こった日本のミスだった。

「立ち上がり、ケアレスなところから失点し、それを追いかける展開になってしまった」とは、試合後のアギーレ監督のコメントだが、それがこの試合の立ち上がりにおける単なるケアレスの一つだったのか、グループリーグ3試合で散見されたので注意を喚起したにもかかわらず犯してしまったケアレスだったのか、その真意は定かではない。

ただ少なくとも、同じような場面をグループリーグ3試合で何度も目にしたことは間違いなかった。そこで失点しなかったのは、相手の技術的ミスに助けられていたからに他ならず、UAEは技術が過去3試合の対戦チームより上だったこともあり、それがゴールという結果になっただけの違いだった。

もし高い守備意識を植え付けようとするなら、これだけ繰り返されていたミスに対して徹底して改善を施したはずだ。しかし実際は、同じミスが繰り返された。そこに改善の跡は見られなかったのだから、とても守備意識の高いチームとは言えない。

比較の話をすれば、少なくともザッケローニ前監督の最初の約2年においてはこのように最終ラインの背後を取られることは少なかった。またそのようなミスが起これば、たとえ失点につながらなかったとしてもすぐに修正のための指導が行われていたと記憶する。

その他、前任者は就任直後から正しい身体の向き、精密なポジショニング、カバーリングの方程式などディフェンスの基礎を徹底してチームに植え付け、それを試合で実践させるべくトレーニングを繰り返していたことを考えると、アギーレ監督よりも守備に対する意識はずっと高かったと見るべきだろう。

いずれにしても、グループリーグを無失点で首位通過したことが、少なからず隙を生んでしまったことは間違いない。落とし穴に引っかかってしまう時は、得てしてそういうものだ。もしグループリーグで、UAE戦の失点シーンと同じようなミスからひとつでも失点していたとすれば、もう少し対応が変わっていたかもしれない。内容と結果が伴っていない時は、だからこそ必要以上に注意をする必要があるのだ。

チーム作りに着手しないまま大会に臨んだツケ

敗因と思われる点は他にもあるが、総じて言えることは、今大会はぶっつけ本番で臨んだチームだったため、チームとしての完成度が低かったことが大きかったと思われる。これは、アギーレ監督が就任後の6試合を選手選考に費やしたために起こってしまったことで、おそらく指揮官もそれを承知でアジアカップに挑んだと思われる。

だから、前述した典型的な守備の綻びは、他にあるいくつかの綻びのひとつにすぎないと認識すべきだろう。チーム作りが手つかず状態なのだから、チーム戦術に綻びが生まれるのは当然だ。いくら日本の選手個々の能力がアジアの中で抜きん出ていると言っても、それだけでは頂点に辿り着くのは難しい。いつかはボロが出る。そこが、11人で行うサッカーという競技の難しさでもあり、奥深さでもある。

一方、今大会の数少ない収穫を挙げるとすれば、選手個々の力が明らかに4年前のアジアカップ時よりも上がっていたことが証明されたことだと思う。ぶっつけ本番で臨んだにもかかわらず、グループリーグを危なげなく首位通過したという事実は、アジアの中における立ち位置を示すに十分なものだった。とりわけ今回のスタメンは4年前を経験している選手が多かった点において、個々の成長ぶりは計りやすかったと言える。

しかしそこで出た結果は、あくまでも準々決勝敗退という落とし穴だった。サッカーは結果だけでは計れないが、仮にワールドカップというものさしで今回のアギーレジャパンを評価したとすれば、グループリーグで1勝するのも厳しいと見るのが妥当だろう。すなわち選手個々のレベルも「アジアでは上位だが、世界では中位以下」という評価になる。

個人的には、この結果を受けてアギーレ監督がどのように次のステップを踏んでいくのかを見てみたい気がするが、おそらく今後は、八百長疑惑の関係で進退問題の話題に一転してしまうのだろう。そして今大会の反省、教訓が水に流されてしまい、蓄積として残る可能性も低くなってしまうことが予測される。

今大会を無駄にするかしないか。さらに言えば、この半年間をどう消化するのかが、日本サッカー協会に問われることになりそうだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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