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ハリルジャパンに余裕なし! 絶望感に襲われたカンボジア戦

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

来年9月に始まる最終予選の頃に息切れ必至

スターティングメンバーリストを見た時点で嫌な予感がした。そして、試合開始5分で絶望感に襲われた。結果的に3-0のスコアでカンボジアに勝利したわけだが、それでも試合開始直後に感じた絶望感は今も残ったままだ。

「勝利を要求し、我々はそれを手にした。選手にはおめでとうと言いたい。彼らも少しプレッシャーを感じていたと思うが、戦う意識はかなりあった。ただ、これだけ大きなチャンスをたくさん作って3点しか取れていないことにはまだ満足していない」

試合後の会見で、開口一番、ハリルホジッチはそう語った。

確かに彼個人にしてみれば、シンガポール戦でスコアレスドローという失態を演じ、東アジアカップでは3試合未勝利という状況だっただけに、久しぶりの勝利を手にしてホッとしたのだとは思う。また、周囲から漏れ伝わる不安の声をかき消すために、できれば大量得点で勝ちたかったのだと思う。

しかし、相手はカンボジア代表である。

確かに彼らに対するリスペクトは大切にしなければいけないが、それにしても、客観的に見て、長距離移動で疲れを残すヨーロッパ組を多数並べ、現時点でのベストと思えるようなメンバーで試合に挑む必要はあったのか。また、試合開始からエンジン全開でゴールだけを目指すことが、果たしてこの試合に対する正しいアプローチだったのか。

試合の勝ち負けとは別のところで、多くの疑問が残された。

最も気になるのは、今戦っているのはワールドカップ本大会アジア2次予選という点だ。言うまでもなく、日本代表が最初のターゲットにしているのは本大会出場権の獲得、すなわち来年9月に始まるアジア最終予選(3次予選)である。

従って、日本代表のアジアにおける立場からすれば、現在始まっているアジア2次予選はマラソンにたとえるとスタート前のウォーミングアップと見ていい。

にもかかわらず、シンガポール戦、そしてカンボジア戦と、明らかに格下と見られる相手に対して、ハリルジャパンはほぼベストメンバーで臨み、同じようにエンジン全開で戦った。最初のゴールに辿り着くためのペース配分も考えず、何を血迷ったのか、スタート前から全力で走り始めてしまっている。

もしこのペースのままで行けば、最終予選が始まる頃に息切れは始まる。そこから先、スパートをかける余力は残っていない。そう見て間違いないだろう。

そもそも格下格上に関わらず、毎回同じようなメンバーで試合を続けて、一体いつ新しい戦力を発掘し、チームにフィットさせることができるのだろうか。過去、4年間を任された代表監督は、いずれも最終予選をピークにトーンダウンし、本大会直前に息切れしてしまうというパターンが繰り返された。今回は、それ以上のペースで物事が進んでいる。そのことに危機感を感じる人はいるはずだ。

本来であれば、この2次予選は、最終予選に向けてこれまでの主力を脅かす戦力を育てる場を兼ねていなければいけない。なぜなら時間が進めば進むほど、実験を行う機会はなくなっていくからだ。

その時間軸について、協会と指揮官はどう見ているのか。これは、想像以上にゆゆしき問題である。

横だけでなく、相手を縦に広げる工夫も必要

もうひとつ気になった点が、カンボジア戦の戦い方。つまり、試合開始から終了まで、終始全員がゴールだけを目指し続けていたことだった。各選手が目指す方向を矢印で示せば、フィールド10人全員がゴール方向を指していた。ついでに言えば、ベンチ前の指揮官の視線もゴールだけを向いていた。

前回のシンガポール戦の反省を踏まえて、ハリルホジッチは左右の揺さぶりを強調していた。ゴール前に固まる相手選手を外に広げて、スペースを空けるという狙いである。

もちろん、それ自体は引いて守る相手に対する常套手段なので間違いではないと思う。しかし、これだけペナルティエリアの中とその周りに相手選手が並んでいると、いくらサイドを変えてクロスを入れても、相手のポジション移動は少なくて済む。

また、「選手には6秒~7秒でボールを奪うように指示していたが、彼らは3秒で奪っていた」と指揮官は日本の選手を称賛したが、この手の試合展開でそんなに早くボールを奪ってしまえば、相手は自陣ゴール前から離れる必要がなくなり、返って日本の揺さぶりに対応しやすくなってしまう。

必要だったのは、後ろ方向への矢印だったのではないだろうか。

相手がボールを奪ったら、すぐに奪いにかかるのではなく、敢えて自陣まで下がって相手を前におびき寄せ、縦に動かすことでスペースを作ることではなかったか。前が行き詰ったら、バックパスで自陣まで下がってそこから縦に揺さぶることも必要だったのではないか。

残念ながら、今の代表の選手にも、指揮官にも、そのような余裕はなかったというのがこの試合で見えたことだった。だからこそ、この先を考えると絶望的な気持ちになってしまったのだと思う。

日本サッカーがプロ化に踏み切ってもう20年以上の月日が経った。その中で、それなりの経験を蓄積してきたはずなのに、一体今の状況はどうしたことなのか。

協会は、冷静になって指揮官に過去の歴史をレクチャーし、しっかりと目標達成までのプランを練り直す必要がある。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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