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若くしてがんになるということ〜「がんになったら不幸ですか?」〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
山下弘子さん(右)と、鈴木美穂記者(左・カメラ)の取材中の一コマ

若いときのがんは進行が早い?

20代でがんにかかる。

どのくらいの確率か、ご存知だろうか。

厚生労働省によると、がんにかかる割合(罹患率)は25-29歳で約2500人にひとり(39.0人/10万人)、35-39歳で約900人にひとり(110人/10万人)だ。

筆者は大腸がん手術を専門とする外科医で、年間200-250件の大腸がん手術に参加している。そんな診療の中で、年間に数人、10代や20代の大腸がん患者さんにお会いする。そして30代の患者さんはそれほど珍しくはない。「今日は同い年の方の手術だな」などと思いながらの執刀もたまにある。

「若い人のがんは進行が速い」とよく言われるが、実際に証明されているわけではない。がんの進行スピードは、がんの種類によって違うし、また個人によって全く異なる。

これは、「がん」と確定診断された時にはかなりの進行がんになっている、というのが現実のようだ。若い人にはがん検診もないし、人間ドックにかかる人もいない。

実際のところ、若い人は腹痛や咳などの症状が出ても、医者も本人もまさかがんとは思わないので、発見が遅れてしまう。咳の患者さん全員に肺がんを疑ってCT検査を行うようなことをしていたら、おそらく国家予算は医療費で破産するだろう。でも、その咳の患者さんの中には確実に肺がん患者が潜んでいる。

現段階では、若い人のがんを早期に見つける手立ては残念ながら無いといって良いだろう。

そんな若年性のがん。

10代でがんにかかった人がいる。山下弘子さん、22歳。

19歳の時に肝細胞がんにかかり、「余命半年」と言われた。19cmもの巨大な腫瘍だったそうだ。それを聞くだけで、医師はこう想像する。「いつrupture(破裂)してもおかしくないし、もしruptureしたらおそらく数分でshockから死に至り、救命は不可能だっただろう」と。

それから複数回にわたる手術、抗がん剤治療、RFA(ラジオ波凝固療法)を経て、現在も治療を続けている。

「がんになった今の方が幸せ」

山下弘子さん(左)と鈴木美穂記者(右)
山下弘子さん(左)と鈴木美穂記者(右)

こう言い切る山下弘子さんを見つめカメラを回したのは、日本テレビの報道記者、鈴木美穂氏(31)。記者である彼女は、実は24歳の時に乳がんにかかっていた。Stage IIIだった。

手術、抗がん剤治療を経て、再発なし。現在はホルモン療法のみで元気に働いている。

そんな彼女が企画・編集し、自らの闘病をも描いたドキュメンタリー番組が、7/4(土)午前10時半から日本テレビで放送された。

番組では、鈴木記者の闘病の様子がありありと流される。手術室に向かうシーン、「死んじゃうー!」と泣き叫ぶシーン、抗がん剤でほとんどの髪が抜けて落ち込むシーン。あまりに生々しい映像に、目を背けたくなる。鈴木記者自身も、その壮絶さに編集作業中に寝込んでしまったほどだ。

二人の若年性がんの患者。姉と妹のように仲の良い二人。二つの人生が交錯する。

若くしてがんにかかるということ。そして立ち向かうということ。

がんにかかった二人は、それぞれ自らの死と直面する。

自らの死を想うことで、「生きるとは何か」「幸せとは何か」を自問する。

自らの死を想うことは、人生を変える最高のトリガーなのである。

筆者は、拙著「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと  若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日」(幻冬舎 2014/3/25)で、「死を想う」ことの大切さ、そして「死を想う」ことによって聞こえてきた「自分の本音」を知り、それに従って生きることの大切さをお話ししてきた。それがあなたの最期のときの無念や悔いを、少しでも減らすことになると考えるからだ。

がんと宣告され、本当に「死を想」った彼女たちだからこそ、いまなにをすべきか、いまどう生きるべきなのか、自分の本音に従って歩んでいけるのであろう。そこに筆者は、目がくらむような魅力を感じ、誤解を恐れずに言えば「幸せそうだ」とさえ思い、この記事を書くに至ったのである。

拙著を読んでいただいたことで筆者は鈴木記者と繋がり、山下弘子さんを知った。そして山下弘子さんの著書「人生の目覚まし時計が鳴ったとき」(KADOKAWA 2015/2/24)に強く共感し、このドキュメンタリー番組の企画を知り取材させてもらったのだ。

がんの宣告。

そんな人生の目覚まし時計が鳴ったとき、あなたは何を想うのだろう。

番組放映はすでに終了しているが、全国からの反響が大きかったためホームページから動画を無料で配信中だ。

動画はこちら

番組ホームページはこちら

二人が出会い、一年が経つ。

七夕を目の前にして、二人の想いは混ざりあい、ゆっくりと天に昇っていく。

画像

(参考・出典)

国立がん研究センターがん情報サービス

http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#incidence

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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