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Apple Watchはダイエットに寄与し、寿命を延ばし、月に1日分の時間を与えてくれる

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
ある日のApple Watchとの会話

(背景)

Apple Watchが世に出て2ヶ月が経過した。筆者は実際に購入し、1ヶ月着用してみた。さまざまな使用結果、感想が報告されているが、医学的に検討されたレポートは少ない。筆者は医学的見地から利点、欠点を挙げてみたい。

(結論)

利点

・ダイエットができる

・寿命が延びそう

・スマホ依存が少し治る

欠点

・45歳以上の人は文字が見えない

・スマホ依存が加速する危険性

・視力が低下する危険性

(方法)

筆者が使用したApple Watchは「Apple Watch Sport 42mm」。もっとも廉価なタイプで、バンド代と合わせ税込で52,704円だ。Apple Store店で試着した上で、Appleのホームページからオンライン上で購入した。クリックしてからちょうど3週間で手元に届いた。これを1ヶ月間、業務時間外に装着した。自腹で購入し、Apple社など、すべての利益相反はない。

(結果)

以下の結論が得られた。

ダイエットができる

筆者はBMI25程度の健康な35歳男性。外科医という劣悪な生活環境・食環境(アルコール量・食事スピードと内容・運動不足)のため少しでも気を抜くと体重が跳ね上がる。Apple Watchの一つのウリ、「ヘルスケア」はその点で優れている。一日の歩数、ウォーキング&ランニングの合計距離、階段を上がった階数、そしてNike+というアプリを私は使用しランニングをしているため、同期して消費カロリーなどを計算してくれる。そしてあらかじめ設定しておいた目標(筆者は800kcal/日で設定)にどれだけ達成しているか、あるいはしていないかを一日に何度も通知してくれる。

一時間座ったままだと、このようなアラートが出る。
一時間座ったままだと、このようなアラートが出る。

ここで大切なことは、使用者の日常生活の運動量を「オートマティックに記録」し、その結果を「フィードバック」してくれる点だ。まるで専用のパーソナルトレーナーが一日中ずっとついて回り、「もうちょっと歩いてください」「今日はよく動けてますね」なんてコメントをくれるかのようだ。

もしあなたがダイエット中であれば、少し設定をきつめにして、Apple Watchの言うがままにすればいい。ぼんやりと通勤しているだけでも、「あ、そういえばここで階段を昇っとこう」「今週はランをしていなかったから一駅歩こう」なんて具合に、あなたの中の意識が変わるのだ。意識が変われば生活が変わる。生活が変われば体型が変わるのである。

事実、筆者は購入後1ヶ月で体重1kg減に成功した。

寿命が延びる

上記の理由で、Apple Watchを買い装着するだけで必ず運動量は増える。運動量は増え、健康になる。高血圧や脂質代謝異常症、糖尿病など多くの生活習慣病はこれでリスクが減るだろう。

運動を日常的にしている人は、していない人と比べて様々な疾患に対して「強い」ことを、実は医師たちは知っている。データにはなりにくいが、実感するところである。同じ疾患に罹患しても、治る過程やスピードが異なるのだ。

運動ではなく日常生活動作のレベルだが、がんに対する抗がん剤治療だって、ECOG Performance Statusという概念で「この患者さんに抗がん剤を投与できるかどうか」を決めている。それ以外にも、手術後の合併症率などに明らかな差があることを筆者は強く実感するし、多くの医師が賛同するところだろう。

そういう総合的な意味で、Apple Watchをつければあなたの寿命は伸びるだろう。

もし私がApple社の社員だったら、あるいは生活習慣病の専門家だったら、糖尿病患者、高血圧患者でApple Watch装着の有無と疾患改善に関するn=1000くらいの前向き研究を行うだろう。効くんだか効かないんだかよくわからない「トクホ」よりもはるかにインパクトのある結果が出るように推測する。

スマホ依存が少し治る

実は筆者が最も効果を感じたのは、これだ。

筆者はかねてより無数のiPhoneの通知に悩まされていた。iPhoneに来るさまざまなメッセージ(メール、LINE、facebook messengerなど)、そしてSNS系(facebook、Twitter、Instagram、google+、755)、ニュース、To Do、リマインダーなどから無数の通知が一日200回以上は来ていた。なにせメールだけで100通ほど来るのに、その度に通知が来ていた。

それが、Apple Watchを使用し始めてから本当に必要なものだけをWatchの方に通知onとすることで、かなりの数を減らすことができ、今では一日50くらいの通知だ。さらには、Watchにきた通知は、手首をこちらに向けるだけで一度もタッチすることなく目で確認できるし、手首を回外するだけで終了することができるのである。いわば最強の「既読スルーマシン」だ。

少し計算をしてみよう。

これまでiPhoneを一日200回ポケットから出して確認していたとする。iPhone6だからまだ指紋認証で早いが、それでも筆者の実験では一度の通知をポケットから出して確認するのに13.94秒(LINEの場合)かかった。

13.94×200=2788秒、これは実に46.5分くらいに相当する。短めに見積もってもこれくらいの時間を、「その通知を確認する」ところまででかかっていたのだ。

それがWatchだと約1.8秒。通知は激減し、一日50回ほどだから、1.8×50=90、つまり一分半だ。

筆者の場合、Apple Watchを買うことで単純に46.5分-1.5分=45分がういた結果になった。しかもその45分は、「iPhoneを取り出して起動させ、アプリを起動させるまでの待ち時間」の45分だ。筆者の人生の中の、完全に無駄な45分だ。

一ヶ月では、45分×30日=1350分=22時間半。筆者はどうやらApple Watchを買って、月に一日の休暇をゲットしたようである。

どんぶり勘定で恐縮だが、あくまで私の場合はこんな結果であった。

欠点について、次回レポートしたい。

(考えうるバイアス)

出版バイアス、筆者がAppleファンであるバイアス、自分で購入したためその代金分は「買ってよかった」と思いたいバイアス

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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