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【防災の日】大地震が来ても生き延びるために〜医師の視点〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
ハイヒールで数十キロ、歩けますか?(写真:アフロ)

9月1日は防災の日。この日にあわせて各地でいろいろな防災イベントなどが行われています。本記事では医師の立場から、災害時にどう生き延びるか、そのためにどうすべきかをまとめました。自分のいのちと大切な人を守るため、考えてみましょう。

いつどこに来てもおかしくない大地震

内閣の発表によると、今後30年の間に70%の確率でマグニチュード7の大地震が首都に来ると言われています。また、この2016年度版のマップでは、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率をこう示しています。

今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(地震調査研究推進本部2016)
今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(地震調査研究推進本部2016)

このマップでは可能性が低い地域でも、大地震が起きる可能性はあります。事実、熊本はもともとの確率はかなり低かったのですが、それでも大地震が発生しています。つまり、残念ながらどこでいつ大地震が起きてもおかしくないということをまず認識する必要があります。

地震以外にも、台風や噴火なども

また、地震以外にも昨年は鹿児島の口永良部島で大噴火があり、島民の方は全島避難を余儀なくされました。さらには先日上陸した台風11号・9号では死者2名を含む負傷者60名と800戸の床下浸水以上の被害がありました(詳細はこちら)。

地震がなくとも、いろいろな災害が定期的に発生しているのです。

生き延びるために

災害時に一番大切なことは、当たり前ですが生き延びることです。圧倒的な災害であれば備えは無意味かもしれませんが、きちんとした備えはある程度の災害による死亡率を下げると考えてよいでしょう。この30年の間で70%の確率で起きるとされている首都直下型地震では、最大で23,000人の死者、61万棟の住居被害が出ると予測されています(首都直下地震対策検討ワーキンググループ最終報告の概要による)。東日本大震災の死者は22,010人(行方不明者数含む、データは「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について (第 153 報)」)ですから、同じくらいのかなり厳しい数字です。

筆者は東日本大震災で被災した病院に勤務する医師にお話を伺ったことがありますが、災害時には病院もまったく機能しなくなります。病院だけ特別に優先して物資が運ばれたり、優先して救助活動が行われるということは皆無だったそうです。

災害発生直後から

大規模な災害、特に地震が発生すると何が起こるのか、考えてみましょう。即死の危険、それは家具の倒壊による圧死です。

阪神・淡路大震災や新潟県中越地震などでは、多くの方が倒れてきた家具の下敷きになって亡くなったり、大けがをしたりしました。

出典:政府公報オンライン「災害時に命を守る一人一人の防災対策」

ですからこれを防ぐためには、小さい子に倒れかかるような大きな家具の場所を変えたり、倒れないようにL字型金具やワイヤで止めておきましょう。

次に起きうることは、火災です。火災がおきたら建物にはいられませんから、一刻も早く脱出する必要があります。非常用出口のルートはわかりますか。それから停電、断水になります。もちろんガスも使えません。そして救助のない状態が最大で3日間くらいは続くと考えた方が良さそうです。元気な人であれば飲まず食わずだけですぐに命の危険があるわけではありませんが、ご高齢の方や怪我をして出血していたり体が濡れていて体温が奪われやすい場合などには、死亡するリスクがあります。食料や飲料の備蓄は命を伸ばすでしょう。

とはいえ防災を今する気になれないあなた

これほどリスクが高いことを知っても、「では備蓄しよう」と買い物に行く人は少ないでしょう。若い一人暮らしの方であればなおさらです。事実、筆者の周りの20歳代若手医師4人に「備えを何かしているか」と尋ねたら、なんと一人もしておらず、防災への意識は極めて低い状況でした。

防災を身近にする「防災ガール」という試み

特に若い人にとっては、防災と言われても「いま必要ないのでは」「また機会があったら考えます」と思う方が多いと思います。そこで、防災をおしゃれに考えるこんな試みをご紹介しましょう。

防災をもっとオシャレにわかりやすくして防災があたり前の世の中をつくるということを目標に活動している団体です。

出典:防災ガール ホームページ

具体的には、普段部屋に置いていても違和感のないほどおしゃれな防災ラジオ(詳しくはこちら)をコラムで紹介したり、20歳代〜30歳代をターゲットとした防災イベントを行うなどしています。最近では熊本大地震への支援もしているそうです。

始めた人にインタビュー

防災ガールを始めた、代表理事の田中 美咲さんにインタビューを行いました。

Q. 防災ガール、なぜ「ガール」にしたのですか?

A. 始めはシンプルに「山ガール」「森ガール」が流行っていたので、ファッションとしての「防災ガール」があってもいいのでは、と思いました。始めてから、あまりに防災というものが広まっていないことがわかりました。なぜ広まらないのか。防災グッズがダサかったりお金がかかったりで、私も周囲の人も誰もやっていなかったのです。二十代、三十代という若い世代には防災が特に広まっていなかった。それより若い世代と上の世代にはたくさん啓蒙がされていたのに、エアポケットのように若い世代だけがアプローチされていなかったのです。そこで、若い世代をターゲットとしたこの「防災ガール」を始めました。防災ガールは現在110名ほどが全国各地におり、いろいろな活動をしています。

防災ガールHPより
防災ガールHPより

Q. どう防災を始めるのが良いですか?

A. わざわざ新しく防災だけのためのグッズを買うのはハードルが高いですよね。だから、日常生活に一体となったような防災グッツが求められていると考えています。例えばこのおしゃれなのに化学防護や耐水性にすぐれたウェアなど、普段から使えそうなものがよいでしょう。

私たちは生活に防災を付け加えるのではなく、ライフスタイルの中に防災が含まれるような形が良いと考えています。

たしかにわざわざゴツゴツした防災ラジオや服を買うより、普段使っているものがそのまま災害時に使えるととても良さそうです。

9月1日は防災の日。この機会に、ちょっと考えてみませんか。

※筆者と防災ガールに利害関係はありません。

(参考・出典)

「全国地震動予測地図2016年版」の概要

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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