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コーヒーを大量に飲むと危険か?医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
眠気覚ましにちょっと一杯くらいなら美味しいのだが(写真:アフロ)

去年の暮れ、カフェイン中毒による20歳代の日本人男性が死亡したというニュースが話題になりました。

カフェイン中毒死 血中濃度、致死量…短期間に大量摂取か(毎日新聞2015年12月21日)

この事件では、男性がエナジードリンクを飲んでいたことに加え、解剖すると胃からカフェイン剤という錠剤型のカフェインが出てきたそうです。

カフェインとは何か?

コーヒーに含まれる「カフェイン」という物質の名前を耳にしたことがある人は多いと思います。この物質はコーヒーや緑茶、ウーロン茶に含まれるほか、流行のエナジードリンクと言われる飲み物(古くはリポビタンDやユンケル、今ではレッドブルやモンスターなど)に入れられていたり、ほかにも風邪薬など医薬品の中にも配合されています。コーヒーを飲むとリラックスするような気がしますが、実はカフェインは精神を興奮させる作用があります。また、利尿作用(りにょうさよう)という、ちょっと飲んだだけでも尿が増えるという作用もあります。

カフェイン中毒って?

このカフェイン、実は体に入れすぎると中毒になり、ひどい時には死亡に至ることがあります。中毒とは、体に影響を及ぼす物質を多く取りすぎた結果、体の機能がどこか悪くなるというもの。アルコール中毒、麻薬中毒という言葉は「アルコールや麻薬がなければ手が震え落ち着かない」というイメージがありますが、あくまで中毒とは体の機能が悪くなるという意味なのです。

コーヒーやエナジードリンク、何杯で危険?

まず致死量について考えねばなりません。致死量とは、「この量を超えたら死亡する」という量です。

さまざまな論文などを検索した結果、カフェインの致死量は5gと考えてよいでしょう。報告によっては10gというものもあります。

さて、何をどれくらい飲めば5g(=5000mg)に達するのか。いろいろな物に含まれるカフェイン量を示します。

小さい缶コーヒー(ボス レインボーマウンテン);130mg・・・39本で致死量

エナジードリンク(レッドブル);80mg・・・63本で致死量

ウーロン茶(サントリーウーロン茶)100mg・・・50本で致死量

(各商品のリンク先にはカフェイン量が示されています)

現実的に、缶コーヒーを39本飲むことは不可能に近いので、缶コーヒーだけで致死量にいたる可能性は低いでしょう。

事実、これまでに自殺を企図していないカフェイン中毒で死亡に至ったのは冒頭のケースが初めてだったようです。

カフェイン剤は危ない

ところで、カフェインだけが詰め込まれた飲み薬が、普通の薬局で市販されていることをご存知でしょうか。筆者も徹夜で仕事をする時など何度かお世話になったことがありますが、これには大体1日量で200〜500mgのカフェインが含まれています。用量を守って使用すれば致死量の5000mgには程遠いのでさほど心配はいりませんが、これを大量に使い、さらにコーヒーやエナジードリンクを飲んでいると危険なことになります。

具体例を挙げましょう。筆者の友人が、「コーヒーの飲み過ぎで調子が悪い」と相談をしてきました。詳しく聞くと、仕事があまりに忙しくて寝ている時間が無く、カフェイン剤とコーヒー、エナジードリンクに頼っているとのこと。「何をどれくらい飲んでいるの?」と聞くと、以下の通りでした。

・Amazonで購入した「海外のカフェイン剤」を5錠

・コーヒーを5~6杯 

・レッドブルを3本

これを1日に飲んでいるとのことでした。「海外のカフェイン剤」はどれだけカフェインが含まれているか不明ですが、安全のため多めに見積もって1錠200mgとすると、1日に1000mg。コーヒー6杯で780mg、レッドブル3本で240mgですから、合計で1日2000mg程度です。

つまり、致死量の半分近くを飲んでいるという訳です。論文の報告の中には2000mgでも嘔吐や不整脈などの症状がでたというケースもあり、これは大変危険な状況でした。さらには不眠不休で働いている人がこのような大量カフェイン摂取をしている訳ですから、命に関わる不整脈が発生する可能性だって十分にあります。この友人には一刻も早くカフェイン摂取を減らし、体を休めるようにと伝えました。

医師の視点

今まで見てきたように、コーヒーを飲むだけで死亡するほどのカフェイン中毒になる可能性はそれほど高くなさそうですし、そういう医学論文の報告もこれまでにはありませんでした。しかしカフェイン剤の大量服薬などで死亡に至ったという報告は散見されます。また、カフェインはその覚醒作用を目的として摂取することが多いという状況をあわせ考えると、カフェイン剤やコーヒーを大量に取らねばならないような生活は生命にも危険と言わざるを得ません。過労がときに命を奪うという事実は、30歳代などで若くして過労死した医師たちが証明してくれています。もし同僚や上司、部下などがこのような生活をしていたら、いかなる理由があろうとも制止すべきです。死んでしまったら、仕事も何もありませんから。

最後になりましたが、カフェイン中毒で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。同じことが二度と起こらぬよう祈りつつ、稿を閉じたいと思います。

※本記事は主に医学論文からの情報を基に作成されており医学的に妥当であると考えますが、一人一人の身体および臓器機能には大きな個人差があり、文中で示した致死量よりはるかに少量(カフェイン1gなど)でも致死的になる可能性があります。本記事では「この量なら大丈夫」という保証をするものでは無いため、カフェインを取りすぎて調子が悪い時には早めに医療機関を受診してください。

※専門家の皆さんへ

カフェインはアデノシン受容体のアンタゴニストで、中枢神経系への興奮作用を持つ。意識を覚醒させ心拍数を増加させるとともに利尿作用がある。

以下は論文からの引用です。

半減期は健常人で 3 ~ 6 時間とされているが,過量服用の場合の半減期は約16時間と報告されている。致死量については諸家の報告で一致していないが,内服量としてはカフェイン量として約 5 ~10g,150~200mg/kg,血中濃度においては70~80mg/l との報告がある。

出典:致死的大量服薬から救命し得た 急性カフェイン中毒の 2 例

(参考)

西村 洋一ら. 急性期に血液透析を施行し救命しえたカフェイン中毒の1例日本救急医学会雑誌 Vol. 24 (2013) No. 9 p. 787-792

佐藤 孝幸ら. 致死的大量服薬から救命し得た急性カフェイン中毒の2例日本救急医学会雑誌 Vol. 20 (2009) No. 12 P 941-947

公益財団法人 日本中毒情報センター

日本中毒学会

内閣府 食品安全委員会

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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