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下痢や吐き気が続いたら、ノロウイルスかも?【ノロウイルス流行始まる】

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
下痢したり吐いたりするとつらいですよね・・・(写真:アフロ)

※この記事は大人の下痢や吐き気を対象とし、医師(消化器外科医)である筆者が書いています。

下痢や吐き気、おうとが続く人へ

下痢、吐き気が続く人へ。いまこういった人が増えています。今回はその対処法と、マメ知識をお話ししたいと思います。

下痢が1日10回以上あり、口からまったく水が飲めない人は、まずお医者さんへかかりましょう。近所の内科と看板を出しているクリニックや医院にかかると良いでしょう。

そうでなくても高齢の方や、何か持病を持っている人でそういった症状がある場合はかかりつけのお医者さんか、いなければ近所のお医者さんに相談しましょう。

これらに当てはまらず、下痢が続き吐いたり吐き気がひどい場合は、「感染性胃腸炎」にかかっている可能性があります。この「感染性胃腸炎」の説明はあとまわしにして、まずは対処法です。

<下痢や吐き気が続くときの対処法>

・仕事や学校は休む

・スポーツドリンクなどを飲む

・ご飯は食べられそうだったら食べても良いが、無理はしない

・トイレの後や食事の前は、必ずせっけんを使って手をよく洗う

→これらを2,3日やっても良くならないか、どんどん悪くなる場合は病院を受診する

です。

感染性胃腸炎って?

ここからは病気の説明になります。

「感染性胃腸炎」という病気は、なにか悪いものが胃や腸に感染してしまった状態をいいます。悪いもの、には色々あり、細菌とかウイルスなどの目に見えないくらい小さなものが多いのです。この病気には、怖いものだと命を奪ってしまうようなものもありますし、放っておいても数日で治るものもあります。ですが割合で言えば、ほとんどが放っておいても数日で治るものです。

お医者さんは、患者さんが診察室に来て「下痢や吐き気」を言ったとき、まず真っ先にこの「感染性胃腸炎」を思い浮かべます。よく「おなかのカゼ」なんて言い方もしますね。

この感染性胃腸炎にかかってしまった場合、原因がなんであれ、大体の場合は上に書いた<下痢や吐き気が続くときの対処法>でOKです。

ただ、一つだけ気になるもの、それは「ノロウイルス」というウイルスの感染性胃腸炎です。

ノロウイルスって?

変な名前ですが、はじめに見つかったのはアメリカのオハイオ州ノーウォーク州(Norwalk)というところだったので、実は正確な名前はノーウォークウイルスと言います。このウイルスの名前を決める国際機関が「ノロという名前の人によくない」という理由で、ノロウイルスではなくノーウォークウイルスという正確な名前を使うようにというお知らせを2011年に出したのですが、まったく浸透していません(※1)。これはお医者さんもあまり知らないことです。

それは置いておいて、なぜこれが気になるかというと、理由は2つあります。一つは今流行しているからで、もう一つはとてもうつりやすく、注意が必要だからです。

流行が始まったノロウイルス

ノロウイルスは毎年決まって、冬に流行します。今年ももう12月ですから流行が始まっていて、もしかすると例年よりも数が多いかもしれません。厚生労働省も感染性胃腸炎についてこんなお知らせを昨日(12月21日)に出しています。

12月5日~12月11日において、(中略)感染性胃腸炎患者の報告数は、直近5年間で最も流行した平成24年のピーク時に迫る水準となっています

出典:感染性胃腸炎の流行状況を踏まえたノロウイルスの一層の感染予防対策の啓発について 厚生労働省事務連絡(平成28年12月21日)

筆者の周りでも、ちらほらノロウイルスによる感染性胃腸炎になった話を聞くようになってきました。

うつりやすい、ノロウイルス

そしてこのノロウイルスは、とってもうつりやすいのが特徴です。うつる方法として多いのが、「ノロウイルスにかかった人の便や吐いたものが、人の手などを伝って口から入り、感染する」というもの。ですから、家族や同居人、職場の人が感染性胃腸炎になった場合は十分に気をつけなければなりません。残念ながらノロウイルス感染かどうかを確定するのは検査が必要で、病院での検査もときおり間違ってしまうのです(※2)。ですからお医者さんも、検査しだいでノロウイルス感染かどうか決定するというより患者さんの症状を聞いて診断をすることが多いのです。

では、どういうときに疑うか?

医者が「この人はノロウイルス感染かな?」と思うとき

お医者さんが下痢や吐き気の患者さんを見て、ノロウイルスかな?と思うのは、こんなときです。

・二枚貝(カキやアサリ、ホタテなど)を十分加熱していない状態で食べた後、下痢などが始まった

・家族や同居人など近い人が下痢・おう吐など同じ症状を持っていた

・2,3日で良くなった

だいたいの場合、ノロウイルスによる胃腸炎は2,3日以内に自然によくなります。そしてもし病院に行っても、多くの場合治療はされないことになります。理由は特効薬が存在しないからです。特殊な例として、あまりにひどく体の中の水が減っている高齢者に点滴をするくらいで、後はお医者さんは「ゆっくり休んで、スポーツドリンクを飲んで」と言うくらいでしょう。整腸剤くらいは出す医師もいるかもしれませんが。

便や吐いたものの処理に気をつけましょう

ですが、家族などにこのノロウイルスをうつさないために、このような対策をしましょう。

・トイレの後はしっかり石鹸で手を洗う

・下痢や吐いたものは、飛び散らないように注意してすぐに袋に入れ捨てる。処理する人はマスクをし、終わったら石鹸で手をよく洗う

・下痢や吐いたもので汚れたら、ハイター(花王)を薄めて拭く。ハイターの使い方には注意する。

ハイターでなくても、次亜塩素酸ナトリウムであれば良いです。ハイターなどの漂白剤は他のものと混ぜると有毒ガスが出たり、色が落ちてしまったり金属が錆びるため、使用するときは十分注意してください。人の肌に触れるようなものはハイターで拭くのはよくありませんので、捨てた方がよいでしょう。詳しくはこの厚生労働省のページにあります。

迷うなら病院へ

ここまで色々と説明をしましたが、人によって症状が強く出たり、そのような症状に弱いことがあります。どうすれば良いかわからないときや、体がどうしてもきついときは病院を受診してください。なお、病院に来て「点滴をしてください」という人はとても多いのですが、基本的に口から水が飲めていれば点滴の必要はありません。点滴は、口から飲むのとほぼ同じ効果だからです。そして点滴で病状が劇的に良くなることもありません。

2016年も年の瀬になり、年末の忙しい時期になりました。体も疲れがたまってきますから、十分な休養をとり、手洗いをしっかりするようにしましょう。

※本記事は分かりやすさを優先したため、医学的な厳密さを欠いている部分があります。また、医師により多少の意見の相違はあり得ます。

(※1) ICTV Newsletter #9, November 2011

file:///Users/nakayamayujiro/Downloads/ICTV-Newsletter-9_2011%20(1).pdf

(※2) 医師や専門家へ、「ノロウイルスかどうかを確定するのはそれほど簡単ではなく、病院での検査もそれほどあてにはならない」について

現在ノロウイルスを検査するキットはいくつかあるが、例えば「クイックナビ ノロ2」ではRT-PCR法との一致率について、陽性一致率: 92.0%、陰性一致率: 98.3%、全体一致率: 94.2%であった(添付文書より引用)。

ノロウイルスは、インフルエンザウイルスにいくつかの遺伝子型が指摘されているのと同様、Genotype I(GI)とGenotype II(GII)という2つに分かれており、さらに各遺伝子群には多数の遺伝子型が存在する。今年流行している可能性があるGII.2変異株については、このような指摘がある。

流行が確認されているノロウイルスGII.2変異株については、現在市中で使用されているノロウイルス迅速診断検査キット(イムノクロマト法を用いたキット)では、他の株より更に感度が低い可能性があることが、国立感染症研究所より指摘されています。

出典:感染性胃腸炎の流行状況を踏まえたノロウイルスの一層の感染予防対策の啓発について

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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