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「医龍」「ドクターX」「A LIFE」...外科医ドラマ流行で、外科医は増える?

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
外科医ってドラマにしやすいんですよね(ペイレスイメージズ/アフロ)

最近、外科医を主人公としたTVドラマが増えています。「私、失敗しないので。」という決めセリフで話題となった「ドクターX」は高視聴率で話題になり、さらにはこの1月から木村拓哉さんが外科医役をするドラマ「A LIFE」が始まります。

医者と言っても中には色々な科があり、眼科、耳鼻科、皮膚科、内科などいろんな科がありますが、特に「外科」ばかりドラマの主人公として使われています。

TVドラマは流行を反映したり作ったりしますから、さぞ外科医という職業は人気なのでは・・・と思われる方も多いでしょう。果たして外科医は増えたのでしょうか?外科医の立場からお話します。

外科医は減っています

結論を言えば、外科医は増えるどころか減っています

日本全体で外科医の数はおよそ28,000人です。この人数は増えるどころかわずかに減っているのです。ところが、医師全体の数は増えています。毎年8,000人の新しい医師が生まれ、リタイアする医師が少ないため、日本全体でみると医師数は毎年3%ずつくらい増え続けています。現在は約31万人で、沖縄の那覇市の人口と同じくらいですね。

医療に対する社会のニーズが増え、結果として医師数は増えていますが、外科医数はわずかに減っているのです。相対的に考えても、減っていることを意味しますね。(引用1)

人気はそこそこある「医師」という職業

TVドラマにもなりますし、医師という職業自体は子供からも人気があります。全国の幼児・児童1,100 人を対象に行った、「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果です。(引用2)

男の子、お医者さんは第5位
男の子、お医者さんは第5位
女の子 お医者さんは第4位
女の子 お医者さんは第4位

こんな風に、子供からもまあまあ人気がある医師という職業。職業全体としては人気があり人数も増えているのに、なぜ外科医は増えないのでしょうか?

なぜ増えないのか?

外科医が増えない理由を説明しましょう。

・そもそも医者は自分の専門の「○○科」を自由に選べる

あまり知られていませんが、医師は必ず内科とか外科とかいう風に、専門を決めます。街の医院やクリニックにも「○○科」と書いてありますよね。その専門の決め方は、実はまったく個人の自由なのです。だいたい医学部生の終わり頃や2年間の研修医のあいだに決めるのです。私が外科医になることを決めたのも医学部6年生の時でした。ときどき途中で「○○科」を変える医師もいて、「4年間精神科をやったんだけど、外科にチェンジした」という医師も知っています。

・「○○科」によって全く違う人生がある

そして、選んだ「○○科」によって全く違う人生を歩むことになります。

まず、生活が全く異なるのです。例えば救急科を選んだ医師であれば、毎月7回も8回も徹夜で働くことになります。そして眼科や皮膚科であれば、多くの医師は日中だけの勤務時間になり、夜中に呼び出されることはほぼないでしょう。

異なるのは生活だけではありません。給料もかなり異なってきます。

・なかでも「外科」は最も仕事の時間が長く給料が安い

外科であれば、毎日何時間も立ちっぱなしで手術をし、腰を痛めることになります。夜中に呼び出されることも多くなります。そしてあまり多くは語りたくありませんが、外科医の給与が少ないのは医師ならば誰でも知っていることです。

外科医の待遇の悪さを象徴することとして、こんなことがありました。日本外科学会という外科医の団体が、「外科専門医」という資格を取るための病院に課す条件として検討した項目です。それは

「連続36時間勤務を上限とする」

「2週間に1日以上休暇を与える」

「時間外勤務に対する手当を支給する」

というものでした。(引用3)

え、何かの間違いじゃない?と思いたくなるような「当然すぎる」条件。これを満たしていない人が多いのです。なお、同記事によると「外科医の労働時間は一週間に78.5時間」。厚生労働省の過労死ライン(時間外労働80時間/月)をはるかに超えます。

さらに特記すべき点は、訴訟を起こされるリスクが高いという点です。同記事では「85.1%で医療訴訟リスクが治療に影響したと感じ、5人に1人が示談あるいは訴訟を経験する」そうです。

・だから医学生や研修医から人気がない

つまり外科医は、異常に忙しくて訴えられるリスクも高く給料は安いという仕事です。医学生や研修医はそのことを病院実習や研修で直接見て知っていますから、外科医になるという選択肢を取らないのです。当然です。

将来どうなるか?

これが続けばどんなことが起こるか。たとえば「あなたは大腸がんですが、外科医がいないので手術は半年後です。進行してしまったらすみません」となったり、「盲腸(=虫垂炎)でお腹がめちゃくちゃ痛いと思いますが、外科医がいないので隣の県まで2時間かけて車で行ってください。週明けに」となったりします。

どうすればいい?

外科医は正直なところ、こういう現状を訴える時間もないほど疲弊しています。まずはこの状況を知ってもらい、国から直接外科医の業務負担を減らすような取り組みをすべきです。

取り組みはすでに微かにされており、病院には「外科医の負担を減らすように」というお金が出ていますが(平成24年度診療報酬改定時、外科の手術点数が引き上げられた)、残念ながら外科医の負担軽減に使わず新しい機器を購入するなどしている病院がほとんどです。

ドラマが流行って外科医のイメージが向上しても、それだけでは誰も外科医という職を選ばないという現実を、我々外科医はしっかり見つめる必要がありそうです。

(注)記事中の医師の勤務スタイルや生活は個人により差があり、病院や役職によっても異なります。

(参考)

(引用1)

「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」厚生労働省

(引用2)

文中の図は第一生命保険株式会社 第28回「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果より 一部変更)

(引用3)

外科医の未来が暗いと日本の医療も危うい 高い医療水準維持に外科医の待遇改善は不可欠2016.06.01 Medical Tribune

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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