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御嶽山噴火への対応、後手に回るな

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
噴火によって引き起こされる災害は多岐にわたる。

まだ何が起きるか分からない!!

長野、岐阜県境にある御嶽山が噴火した。東日本大震災以降、地震活動が火山噴火を誘発するのではないかとの懸念はあったが、小笠原諸島の噴火と立て続きに起きた今回の御嶽山の噴火で、その可能性はさらに高まったと言える。

27日22時現在、30数人が大けがをして、うち10数人が意識不明。さらに複数の登山客が降灰に飲み込まれたまま救出されていないとの情報もある。女性一人が死亡したとの報道があったが、その後、取り消された。今後もしばらくは情報が錯綜するだろう。

気象庁によると、御嶽山の噴火は2007年3月の小規模噴火以来7年ぶり。現在、5段階ある「噴火警戒レベル」を1(平常)から3(入山規制)に引き上げ注意を呼び掛けている。これまでの情報をもとに、今後の対応において、注意すべき点をまとめてみた。

なぜ予知ができなかった?

御嶽山は、9月11日に1日80回を超える地震が観測され地震活動が活発になっていた。ただ、山の表面が膨らむといった地下からマグマが上昇してくるようなデータは確認されておらず、気象庁では、これらの地震が噴火の前兆とは認識していなかった。

一方、過去を振り返ると、2000年3月の有珠山噴火では、地震活動が活発化したことから、直前に噴火を予測する緊急火山情報が発表され、これを受け周辺住民の避難が行われたことから一人の犠牲者も出さなかった。2009年2月の浅間山の噴火でも、噴火前に警戒レベルを上げ、これにより道路規制などが行われ噴火被害を最小限に抑えることができ、いずれのケースでも噴火予知は機能した。

なぜ今回、地震の予知がなぜできなかったのか。

現在、国内で選定されている110の活火山のうち、常時観測されているのは47のみ。これらの火山は、気象庁が2009年6月に、中長期的な噴火の可能性および社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視観測体制の充実等の必要がある火山」として選定したものだ。御嶽山は常時観測の火山に含まれていたが、それでも予知ができなかった。

以前、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長に火山予知について取材したことがあるが、藤井氏は「火山の観測ができているからといって、火山噴火予知がすでに確立しているというわけではない」と指摘していた。山の中でマグマの状況がどうなっているかは、残念ながら現在の科学レベルでは完全に把握できないという。今年3月には箱根山で活発な地震活動が観測されたが噴火に至らなかった。噴火活動の発生確率は、地震のような100年単位ではなく1万年単位で考えなくてはいけない。それだけ、火山には、まだまだ未知な部分が多いということだ。

先手の対策を

大切なことは、これ以上対応が後手にまわらないようにすることだ。当然、登山者らの救助活動は最優先されるべきだが、同時に考えておかなくてはいけないことがいくつもある。

噴火によって引き起こされる災害は多岐にわたる。直接的な被害では、火口から流れ出す溶岩流や、火山ガス、火山灰、噴石、さらに溶岩の破片や火山ガス、火山灰が一団となって山の斜面に流れ出す火砕流火砕サージと呼ばれるものなどが挙げられるが、火口の場所や規模、種類、時期、継続期間などにより、災害の姿はまったく違ってくる。

一度目の噴火が小規模でも、再び大規模な噴火が起きる可能性も否定できない。雨量の多い時期なら、土砂と水が一緒に斜面や川筋を流れ土石流を引き起こす。火山灰も、雨が降れば、コンクリートのように重くなる。河川に流れこめば洪水を引き起こす要因にもなりかねない。

もう1つが、噴火の継続時期。数時間で終わるものから数年間、数十年間続くものなどさまざま。やっかいなのは、一度噴火をしてもその継続時間や、その後の推移を簡単には予想できないことだ。

灰が降る場所によっても被害は異なる。農地なら、長期間、農作物が作れなくなるし、都市部では、わずか5mmの灰で公共交通機関の停止や自動車のスリップなど、多くの障害を引き起こすと指摘されている。直後の火山灰には有毒なガス成分が吸着していることから、健康への被害も懸念される。川が汚染され浄水場に入れば、その除去でも大変な被害になる。

人が少ない場所でも例えばデータセンターがあればコンピューター機器が灰を吸って被災することもあり得る。そして社会機能が高度化した現在の都市部では、飛行機などの物流が途絶えて被害を拡大させるなど、まだまだ想定できない様々なリスクが潜んでいる。

こうした二次災害や複合災害が起こり得ることも視野に入れた上で、救助活動における安全確保、人命救助、二次災害の防止、そして財産の保護の優先順位で、対策を講じていくことが重要だ。

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最大の課題は連携

最大の課題は連携だ。噴火の影響は広範囲に及ぶため、市町村、県、国、さらには、消防、警察、自衛隊らが連携して対応にあたることが求められる。政府および、現地自治体には既に災害対策本部が立ち上がっているが、今後はこれらの災害対策本部の調整をいかに図っていくかが重要なポイントになる。

遠く離れた自治体も無関心であるわけにはいかない。河川に灰が流れ込めば、流域全体の問題になる。物流の途絶は、全国的な影響を引き起す。そして、特に活火山を有する自治体については、今後、御嶽山以外の火山が噴火するケースについても検討を進めておいた方がいい。

火山噴火予知連絡会の藤井氏によると、過去に世界で発生したM9以上の地震では、すべてその後に噴火が起きている。地震は、地殻内に存在するマグマだまりに影響を及ぼし、火山噴火を誘発する危険性があると指摘されている。過去に地震が火山噴火を誘発した例としては、300年前の宝永地震約(M8.6)と富士山宝永噴火が挙げられる。1707年10月28日、遠州灘沖から紀伊半島沖を震源として発生した宝永地震の49日後に、富士山が噴火したのだ。

東日本大震災でその名を知られることになった約1100年前の貞観地震(869年)でも、その5年前に富士山と阿蘇山が噴火している。貞観地震の前後には、さらに新島や神津島、伊豆大島、三宅島、新潟焼岳、鳥海山、阿蘇山なども、わずか20〜30年の間に立て続けに噴火をしており、伊豆大島と神津島など、複数の火山がほぼ同時に噴火していることも確認されているという。

噴火対策については、過去にリスク対策.comで特集をしたが、コンテンツを公開しているので、対策に役立ててほしい。

http://www.risktaisaku.com/sys/magazine/?p=001286

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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