旅館業法の怪

先日起きた旅館業法に関連する不可解な事案について書いておきたい。

長野県にある別荘の管理を請け負っている不動産管理会社が今年の4月に一つのサービスを立ち上げた。彼らが委託を受けて管理している別荘はオーナーが実際に使う期間は短く、建物として遊休になっている期間が長い。その期間について賃貸借契約を締結した人に対して貸与できるようにするというのがその内容であった。借手にとっては、別荘を建物や庭を含めて使うことができ、貸手にとっては遊休不動産の有効利用ができ、地域にとっては観光に訪れる人が増えるというメリットがある。新聞記事などでも取り上げられて話題となった。

順調に申し込みも始まっていたが、ニュースを見た観光庁からどのような仕組みになっているのか知りたいという問い合わせが入ってきたところから事態が変わっていく。問い合わせに対して説明をする過程で、観光庁は旅行業法などの自分たちが所管する法令についての問題はないが、旅館業法上は問題があるかもしれないと告げてきた。観光庁から旅館業法を所管する厚生労働省に対して連絡が行われたのかどうかは分からないが、その後、長野県から不動産管理会社に対して事情を聞きたいという連絡が入った。旅館業法は厚生労働省所管であるものの執行権限は都道府県にあるため、厚生労働省の指示を受けた長野県が調査に乗り出したということである。長野県は、当該不動産管理会社に対して、名目の如何に拘らず宿泊料を徴収して宿泊させるのは旅館業に該当し、賃貸借名義であっても旅館業の届出が必要であると判断した。しかし、その不動産管理会社が管理を受託している別荘が存在している地域は旅館業の許可が認められない地域であったため、旅館業の届出が必要だということはサービスを停止しろということを言われたに等しいものであった。

旅館業法は宿泊費をとって宿泊サービスを提供するものを対象としている。「宿泊」とは「寝具を使用して宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を行っている施設を利用すること」となっている。一方、賃貸借契約は人を宿泊させるための契約ではなく、対象となる建物の使用、収益を相手方にさせることを約束して対価を得るという契約である。賃貸借契約期間についての下限の定めはない。不動産についての賃貸借は不動産を利用する権利を許諾するものであるため、収益もできるが返却の場合の原状回復義務をもともなうものであり、利用期間中についての寝具など必要な物の準備、清掃、食事の手配なども全て借手が自らの責任で行うこととなる。一般に宿泊約款と言われるものは当然のことながら賃貸借は前提としていない。不動産についての使用・収益を委ねる意思が旅館等にはないからである。つまり典型的な賃貸借契約と「宿泊させる営業」とは別物である。賃貸借契約の形での別荘の貸し出しは、件の不動産管理会社が発案した訳ではなく、以前からその地域で行われてきたものであり長野県も問題視してこなかったものでもあった。

確かに、宿泊の提供という目的を不動産賃貸借という形式で行うことを完全に否定することはできない。不動産の賃貸借が短期、長期を問わずに居住を目的する場合には、曖昧な「宿泊」の定義から境界を画することが簡単ではないためである。そのため、実務的にはどこが境界線であるのかは他者が行っている事業形態などを参考にしながら個別に判断せざるを得ない状況に置かれている。そして、こういった背景に基づいて不動産管理会社はサービス提供を始めたのであるから、長野県からの指摘は予想外のものであった。

観光庁が厚生労働省に連絡したかどうかは定かではないが、上記のようなことになり地域における観光の振興にもつながるサービスを中止せざるを得なくなったことについて、観光庁はどのように考えているのであろうか、聞いてみたい気がする。長野県は、不動産管理会社に対して同じ形態のものがあれば当然のことながら同じ指導をすると言っているようだが、積極的にはそうする気配はみられない。

実は、昭和33年の国民体育大会(国体)以来、多くの開催県において国体の開催期間中の宿泊場所が不足することから、旅館業の許可取得に関わらず期間中有料で民家に宿泊させる(民泊)ことを認めてきている。この事実との整合性はどう考えれば良いのか、非常に難解である。

さらに、近年はAirbnb(日本語のサービス https://www.airbnb.jp)というサービスが米国から参入してきている。個人が所有している部屋を有料で宿泊希望者に貸すというものである。既に、多くの新聞でも取り上げられており都内だけでも1000を越える部屋が登録されている。長野県の件について観光庁は「新聞記事になって目立ったので調査をした」ということを説明しているが、Airbnbも既に多くの新聞や雑誌で取り上げられており、行政庁の委員会などでも言及されている。しかし、いまのところAirbnbやAirbnbに宿泊場所を登録している人たちに対して行政庁が働きかけをしているというような動きは見当たらない。もしや、Airbnbは米国のサービスであるため日本国政府は口出しできないということだろうか。そうであれば、日本国内のルールに従っている国内事業者だけがサービスを提供できない一国二制度状態(日本の国内に海外ルールでビジネスをする者と日本のルールでビジネスをする者がいる状態)となる。

長野県の不動産管理会社、国体における民泊、Airbnbといったいくつかの件を並べてみると整合性は感じられず、何を指針として事業を行えばよいのか見えづらい状態にある。地域の観光振興にもつながる様々な試みに対応できるよう、旅館業法の怪を解くべく、観光庁には厚生労働省に働きかけてもらいたいものである。

なお、旅館業法の所管は観光庁ではなく、厚生労働省であることを改めて断っておきたい。