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『勇者ヨシヒコ』から『スーパーサラリーマン左江内氏』へ。笑えるドラマを作り続ける福田雄一の魅力。

成馬零一ライター、ドラマ評論家

来年一月から始まる日本テレビ土曜夜9時枠(土9)の最新作が発表された。

タイトルは『スーパーサラリーマン左江内氏』。

URL→スーパーサラリーマン左江内氏 オフィシャルホームページ

原作は1977~78年に藤子・F・不二雄が漫画アクションで連載していた漫画『中年スーパーマン左江内氏』(双葉社)。

冴えない中年サラリーマンの男性が無理やりスーパーヒーローの座を譲られて右往左往するコメディタッチの物語となっていて、思春期の娘と鬼嫁と息子を持つお父さんが世界平和と家庭問題の間で板挟みになる大人向けのヒーローものである。

主演は堤真一と小泉今日子。

子ども向けのドラマ枠である土9枠とは思えない大人のキャスティングである。

元々この枠は岡田惠和・脚本の『泣くな、はらちゃん』や『ど根性ガエル』など、子ども向けの寓話の裏側に哲学的テーマを隠し味として持つ傑作が多いため、大人も楽しめる面白い作品になるのではないかと、期待している。

唯一無二。もはや、福田ドラマというジャンル

キャスティングの豪華さに目が行きがちだが、もっとも注目すべきは演出・脚本が福田雄一だと言うことだろう。

少年ジャンプで連載中の『銀魂』と『斉木楠雄のΨ難』という人気漫画二作の実写映画の公開が控えている福田は、大学生時代に劇団「ブラボーカンパニー」を立ち上げ、その後は、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)や『いきなり!黄金伝説』(テレビ朝日系)といった人気バラエティ番組の放送作家として活躍。

近年は深夜ドラマを多数制作しており、現在はテレビ東京系のドラマ24にて24時12分から『勇者ヨシヒコと導かれし七人』が放送されている。コントとドラマの境界が曖昧なそれらの作品は、福田ドラマと言っても過言ではない唯一無二のものとなっている。

版権処理の問題を笑いのネタにした『勇者ヨシヒコと導かれし七人』

多作で知られる福田雄一だが、彼の本領が発揮されるのは、脚本と演出をいっしょに手掛けた時だろう。中でも『勇者ヨシヒコ』シリーズは演出と脚本を全話手掛けることで、福田ワールドとしか言いようのない世界を自在に展開している。

本作は低予算を逆手にとって、国民的人気の某RPGの世界をチープに表現することで脱力的な笑いを誘うドラマだが、結果的に昔のドット絵にあったチープだが温かい雰囲気の再現になっていることに感心する。

とはいえ、流石に三作目となると、『水戸黄門』(TBS系)のようになってしまうのではないかと懸念したが、むしろギャグの切れ味は前作より増していると言える。

第三話では、“エフエフの村”にヨシヒコ一行が迷い込むことになるのだが、エフエフの村で出会うメンバーがヨシヒコ達に較べるとビジュアルが派手でスタイリッシュなのが、ギリギリのネタとなっていて、面白かった。

その後、ヨシヒコたちは、どこかで見たことにあるゲーム世界を次々と移動することになるのだが、面白かったのは、某作品の世界に行って赤い衣装を着て戻ってきたヨシヒコがモザイクまみれになっていること。

つまり、テレビドラマにおける版権処理自体をギャグにしているのだが、本作を見ていて思い出したのは、逆に細かい権利関係を丁寧にクリアしていくことで八十年代の漫画・アニメ文化を忠実に再現していた『アオイホノオ』(テレビ東京系)だ。

80年代の青春を描き切った『アオイホノオ』

『勇者ヨシヒコ』シリーズと同じように全話の脚本と演出を担当した2015年の『アオイホノオ』(テレビ東京系)は物語としても完成度が高く、個人的には福田雄一の最高傑作ではないかと思っている。

本作は漫画家の島本和彦の大阪芸術大学時代の思い出を描いた自伝風漫画をドラマ化したもの。

島本が同級生だった庵野秀明を筆頭に『新世紀エヴァンゲリオン』を作ることになるアニメスタジオ・ガイナックスの立ち上げメンバーが登場することで、八〇年代に漫画やアニメに関わった人たちの青春譚として笑って泣ける作品なのだが、あだち充や高橋留美子といった漫画家の名前や、実在する漫画やアニメが多数出てくるため、版権関係の処理の難しさから映像化は困難だと言われてきた。

しかし、福田はその権利関係をほぼクリアし、クリアできなかった部分は創意工夫で突破して、漫画にもあったマニアックなネタを忠実に再現することで、熱狂的な支持を獲得した。

原作者の島本和彦を師匠と仰ぐ、福田は、自身の作風を島本メソッドと語っている。

島本メソッドとは、カッコいい主人公に真面目に熱く、くだらないことを言わせることで、それ自体をボケとして見せてしまう方法論だ。『アオイホノオ』の焔モユル(柳楽優弥)も、『勇者ヨシヒコ』のヨシヒコ(山田孝之)も、本人はいたって真面目なのだが、その姿は周りから見るとズレていて、その落差が笑えるものとなっている。しかも柳楽優弥や山田孝之といった実力のあるカッコいい俳優が普段は見せない滑稽な姿を演じるのだから、たまらないものがある。

また、『アオイホノオ』が素晴らしかったのは、青春の闇がしっかりと描かれていたことだ。

そのため、コメディでありながら八〇年代を舞台とした暗い青春ドラマとしてもしっかりと成立していた。

福田は自身の中にある暗い部分をこれ見よがしに見せようとはしない。

だが、そんな福田だからこそ、いざ、笑いの影に切なさややりきれなさをにじませると、物語性に深みが生まれる。

本当の作家性とはどれだけ隠そうとしてのにじみ出てしまうものだ。笑いながらもチクチクと刺さる痛みが福田作品にはあり、そこにドラマ性が生まれる。

『スーパーサラリーマン左江内氏』は中年サラリーマンの悲哀がベースとなるのだろうが、笑いの中にある悲哀がより際立てば、『アオイホノオ』のような傑作となるかもしれない。堤真一と小泉今日子という名優をそろっているからこそ、そんな新境地を期待している。

福田雄一がゴールデンに再進出することの意義

「笑い」が難しいのは、脚本家がどれだけ面白い本を書いても、役者の演技や編集のリズム次第でまったくの別モノになってしまうことだ。その齟齬をさけるためには、自分で書いた脚本を自分で演出するのが一番いいんだが、作品の規模が大きく分業が徹底している連続ドラマで、演出と脚本を一人で担当することは、とても難しい。

『スーパーサラリーマン左江内氏』のホームページを見ると、クレジットでは「脚本・演出 福田雄一」となっている。

他のディレクターが参加するかどうかはまだわからないが、おそらく深夜ドラマの方法論がそのまま持ち込まれることになるのだろう。

2009年に放送された月9の『東京DOGS』(フジテレビ系)以来、久々のゴールデンタイムでの連ドラとなる福田だが、ドラマに限らずテレビ全体の平均視聴率が低下している昨今、深夜からゴールデンへと舞台を移したからといって、本人の中では大きな違いはあまりないのかもしれない。

しかし視聴者としては喜ばしいことだ。

近年の福田の快進撃を見ていると、制約が厳しい地上波のゴールデンでドラマを作るよりは、『龍馬伝』(NHK)の大友啓史や『モテキ』(テレビ東京系)の大根仁のように、いずれテレビドラマから映画に活躍の舞台を移すと思っていたのだが、これは予想外だった。

今のテレビドラマに必要なのは、スター・クリエイターだ。

脚本家では『黒い十人の女』(日本テレビ系)のバカリズムや『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の野木亜紀子といった新鋭が頭角を現しつつあるが、脚本と演出を担当し、時に全話演出もおこなう福田雄一の才能は稀有なものである。

小規模だが自由にできる深夜ドラマから、制約は厳しいかもしれないが、より大きな舞台となる民放のゴールデンに作る時、福田の作品にどのような変化があるのか、あるいはまったく変わらないのか。今から楽しみである。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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