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ニッポン俳優名鑑 戸田恵梨香 ミサミサから10年。謎の深夜ドラマ『タイムパトロールのOL』とは何か?

成馬零一ライター、ドラマ評論家

ニッポン俳優名鑑 Vol.7 戸田恵梨香 出演作品 『タイムパトロールのOL』(フジテレビ系)

テレビドラマに善く出ている俳優の人気の秘密はどこにあるのか? ドラマ評論家の成馬零一がゆるやかに分析する。

言及作品(ネタバレあり)

テレビドラマ 『野ブタ。をプロデュース』『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』『書店員ミチルの身の上話』『リスクの神様』『タイムパトロールのOL』

映画 『デスノート』『デスノート Light up the NEW world』

『タイムパトロールのOL』で戸田恵梨香を見た時の衝撃

フジテレビ系で木曜深夜から放送されている『♯ハイ_ポール』という番組をご存知だろうか? まだテレビでは無名の地下アイドルや文化人、マイナーなカルチャーの情報を積極的に紹介している情報バラエティ番組なのだが、この番組内で放送されているショートドラマ『タイムパトロールのOL』(フジテレビ系)が面白い。

本作は劇団「五反田団」を主宰し、小説や映画監督など多才な活動をしている前田司郎が脚本・演出を務める連続ショートドラマ。

ドラマがはじまると、屋外でピンクの制服を着た三人のOLが椅子に座って、どうでもいい無駄話をしている姿が映されるのだが、だんだん彼女たちが、時間旅行による犯罪を防止するための仕事をしているタイムパトロール隊員をサポートするタイムパトロール日本支社で働くOLであることがわかってくる。

つまりSF的世界観で、OLの無駄話が展開されているギャップが面白いコメディテイストのドラマなのだが、見ていてすごく気になったのは、真ん中のOLを演じている女優。

すごく美人で「戸田恵梨香に似ているこの美人は誰だ?」と思った。

10分弱のショートドラマで事前に情報がなかったので女優の名前を確かめたくてエンドクレジットを待ちわびたのだが、そしたら戸田恵梨香・本人だったので、もう一度驚いた。

今やテレビドラマは多様化しているので、人気俳優が深夜ドラマに出演していても、大して驚くことではない。

元々、前田司郎の小説が原作となっている『ファナモ』(フジテレビ系、『世にも奇妙な物語 2014年 秋の特別編』にて放送)に出演していたので、その縁もあるだろう。

それでも、本人だと気付かなかったのは、近年の戸田恵梨香のイメージがいわゆる美人女優という範疇から離れつつあったからだ。

ハスキーな声を武器に人気若手女優として活躍

戸田恵梨香は現在28歳。女優としてのキャリアは長く、連続テレビ小説『オードリー』(NHK)などの作品に子役として出演。その一方で、ヤングジャンプなどのグラビアにも出演し、アイドル的な人気を誇っていた。

女優として大きな転機となったのは2005年に出演したテレビドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)だろう。

本作で戸田は、主人公と付き合っている高校生の美少女・上原まり子を演じた。

それ以降、10代の若手女優としての知名度を高め、ティーン向けの学園ドラマの常連となる。

00年代後半には『LIAR GAME』(フジテレビ系)、『流星の絆』(TBS系)など、様々な連続ドラマに出演し若手人気女優として高く評価され、堤幸彦が監督を務めたオカルトテイストの刑事ドラマ『SPEC』(TBS系)で天才的頭脳を持った女刑事の当麻紗綾を演じたことで、その人気を不動のものとする。

女優としての戸田恵梨香の魅力はハスキーな声だろう。

前回、のん(能年玲奈)について考察した時も思ったのだが、女優にとって声の印象というものは予想外に大きい。

10代から活躍していると顔や体型は変化するが、声質はよほどのことがないと大きく変わらないため、俳優の最終的な個性は声が決定すると言っても過言ではないと思う。

若い時から彼女の演技が安定して見えたのは、年齢の割に大人びて見えるスレンダーなルックスと、キツイ目つきと色っぽい唇、そしてハスキーな声の力がもたらす迫力が、ただの美少女では終わらない力強さを彼女の演技に与えていた。

転機となった『書店員ミチルの身の上話』

おそらく『SPEC』までの彼女の評価は、“演技力のある”アイドル女優だろう。

彼女自身も自分は演技にこだわりがある女優だというアピールはあまりしていなかったと思う。

そんなアイドル女優的な印象が大きく変わったのはNHKで放送された連続ドラマ『書店員ミチルの身の上話』に出演してからだろう。

本作で彼女は地方で書店員として働きながら結婚を手前に控えた女性・古川ミチルを演じた。

ミチルは、ふとした偶然から失踪するように東京に向かい、二億円の宝くじに当選したことで運命が流転していくのだが、地方の親許で暮らしているかわいいだけの何も考えてない女が持つ浅はかさと無自覚な残酷さが全開で、こういう人いるよなぁという生々しさがあった。

本作に出演したことで、戸田は女優として何かを掴んだように感じた。

おそらく、これ以降、本格的な演技派女優に路線を変えていくのではないかと思った。

だが、今考えると『書店員ミチルの身の上話』の成功はその後の女優業にとって足かせとなっているのかもしれない。

現在の戸田の出演作を見ていると、少し迷走気味で個性的な女優であろうとムリをしているように見える。

これはアイドル的な売り方をしていた俳優にはよくあることだ。

例えば男性俳優だと小栗旬がそうで、みんなに愛されるイケメン俳優のホープ的な立ち位置を自分で否定するかのような個性的な役を演じることで、脱イケメン俳優を目指していた時期があった。

女優が脱アイドルを図るというと、普通は激しい濡れ場を演じたりヌードになったりといったセクシー方面で大人への脱皮を図るのだが、戸田の場合は、アイドル的な魅力を封じて、地味な外見の女性を演じるようになった。

それが一番極まっていたのが2015年に放送された『リスクの神様』(フジテレビ系)だ。

本作で戸田は大手企業で起こる事故やクレームに対応する危機対策室で働く女性社員を演じたのだが、髪型も地味で、顔も痩せこけており、年齢以上に老けて見えた。

ハードな社会派ドラマでの役柄を考えると確かに彼女の華やかさは邪魔になるのだが、彼女の変貌が気になって役として冷静に見ていれない痛々しさがあり、視聴者が彼女に求めるものとは明らかにズレていた。

何というか彼女の場合、実力派的な立ち位置を意識しすぎると、女優としてのエゴが全面に出過ぎて空回りして見えてしまう。

逆に刑事ドラマやミステリーのような娯楽作に出演すると記号的な役割を超えた凄味が宿る。

おそらくエンタメ系の尖った作品に出演した時が一番輝くのではないかと思う。

その意味で最終的に彼女が落ち着くのは映画『駆け込みと駆け出し男』で共演した満島ひかりのような演技派女優ではなく、『BOSS』(フジテレビ系)で共演した天海祐希が演じているようなカッコいい刑事や弁護士役が似合うような大人の女性ではないかと思う。

実際、映画『予告犯』で彼女が演じた刑事役は迫力があって素晴らしかった。

しかし、天海祐希的な立ち位置になるには彼女はまだ若すぎる。

35歳くらいになれば違和感がなくなるのだろうが、今の彼女が苦しいのは、実年齢と得意とする役柄に大きなズレがあることだ。

『デスノート』の新作で10年ぶりに演じたミサミサ

そんな中、思った以上にハマっていたのが新作映画『デスノート Light up the NEW world』だ。

元々、『デスノート』は10年前に戸田がスクリーンデビューを果たした思い出深い代表作だ。

名前を書かれた人間は命を落とすという死神のノートを使って世界平和のために多くの人々の命を奪っていく夜神月(藤原竜也)の戦いを描いたピカレスク作品なのだが、戸田が演じたのはミサミサこと弥海砂(あまね みさ)という少女。

10年前のミサミサは新人アイドルという立場が、当時の戸田の立ち位置と近かったこともあってかシンクロする部分もあり、初々しい演技が夜神月に恋愛感情を利用されてノートを使った殺人に手を染めていくミサミサの純粋さにつながっていた。

対して、今作のミサミサは当時の面影を残したまま、落ち着きのある大人の女優へと成長している。

そんなミサミサの10年間が、そのまま現在の戸田恵梨香の変遷と重なって見えた。

再びデスノートを手にした彼女の結末は、哀れだが見ていてホロッとするものがあり、女優としての成長を感じさせるものだった。

しかし、美人だが、どこか疲れているように見えたミサミサを見ていると、戸田がまだ女優として迷っているように見えて、どこに向かうのか心配になる。

繰り返しになるが、おそらく戸田は30代になれば、大人の女性を違和感なく演じられるようになるだろう。

だから、ファンとしてはハラハラするものの、それまでは、様々な役を演じて演技の幅を広げるのも悪くないのかもしれない。

『タイムパトロールのOL』がよかったのは、設定こそSFだが、今の彼女の年相応のかわいさが出ているからだ。

OLの制服を着て、きれいな脚をアピールする彼女の姿は色気とかわいさのバランスが絶妙で、同じ会社にいたら絶対に好きになると思った。

こういう普通の女性の役を今のうちに、もっと演じてほしい!

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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