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「コーヒー浣腸」って健康に良いの?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

先日、医薬的な効能をうたい「コーヒー浣腸」器具を販売したとして販売会社の役員らが逮捕されたというニュースを目にしました。多くの方は、なんでコーヒーを浣腸するの?と、疑問に感じたのではないかと思います。コーヒー浣腸を行う目的やその安全性についてなど簡単に解説してみたいと思います。

■代替療法としてはおなじみのもの

食べものに含まれている有害物質や宿便にたまった毒素が腸から吸収され、それががんなどの様々な病気の原因になる、と考えられていた時期があり、毒素を排出するために腸内洗浄を行われることがありました。これを応用した治療法がコーヒー浣腸です。ドイツ出身のゲルソンという医師が、野菜ジュースを中心の動物性食品、食塩を抜いた特殊な食事と、コーヒーで腸内洗浄を行う治療法でがんが治ると提唱たもので、ゲルソン療法と呼ばれております。

さて、肝心のがん治療としての効果ですが、コーヒー浣腸を用いた治療と標準的な治療を比較した試験があるのですが、生存期間も患者の生活の質ともに劣っているという結果が報告(※1)されています。

こうした代替療法は極端な食事療法とセットですすめられることが多いので注意が必要です。

■デトックスやダイエット効果は?

がんの代替療法としてだけではなく、最近ではダイエットやデトックス目的でコーヒー浣腸を利用している人がいるようです。以前、取材目的で自然食品を販売する店を訪れたとき、コーヒー浣腸セットのチラシが積んであり、体験談のポップもあったことを思い出しました。少し前にベストセラーになった医師の書いた健康本でも紹介されたことが日本でも広まる切っ掛けになったように思います。

コーヒーで洗浄することで現代的生活でたまった腸の老廃物や宿便を排出すので健康になれると説明されます。しかしながら、医療的には毒素のかたまりという意味合いの宿便というものはありませんし、コーヒーで腸を洗浄することで病気が良くなることを実証した研究もありません。デトックス効果というもっともらしい言葉に惑わされないよう気をつけましょう。

■本人が満足なら良いの?

では、自己満足であったり、効果をうたって販売しないのであれば問題はないのでしょうか。確かに、法律的な面では問題はなさそうです。しかし、何の良い効果もなさそうなのにコーヒー浣腸をあえてやろうとは思わないでしょう。そこには効果を期待する思いがあるはずです。末期のがんなど、貴重な時間とお金が意味のない代替療法で失われてしまうのは問題であると思います。

また、安全性の面でも問題があります。気休めでも代替療法をというニーズの人もいらっしゃいますが、それを行うのであれば安全性が確保されたものであってほしいと思います。過去にはコーヒー浣腸を行っていた人が細菌感染を起こし、菌血症で死亡した事例(※2)もあります。素人が直接腸内に何かを注入するのは腸を傷つけたり、電解質異常をおこしたりと、それだけでリスクが高い行為なのです。

■繰り返さないで

実は今回の件、私は既視感を持って記事を読んでおりました。

10年以上も前にも、エステで腸内洗浄を行い、医師法違反で摘発されたというニュースがありました。この件が日経メディカルの特集記事で採り上げられたのが2004年のことです。

日経メディカルの記事ではコーヒー浣腸の持つ危険性と無意味さがしっかりと言及をされております。コーヒー浣腸のような根拠のない健康法で、病気の人が余計に苦しむことがないようにこうした有用な情報が多くの方に共有されて欲しいと思います。哀しい思いを繰り返さないためにも、マスメディアの方々には健康に関わる根拠のあいまいな情報を流す前に、その情報は確かなものなのか調べていただければと思います。

■今回のまとめ

・コーヒー浣腸はがんの治療効果もなく、健康に良い効果もありません

・コーヒーに限らず素人が直腸から何かを注入するのはたいへん危険です

・宿便やデトックスという言葉をきいたら用心しましょう

・健康に関わるあやふやな情報は安易に他の人に広めるのはやめましょう

脚注の参考文献

(※1)Cassileth B. Gerson regimen. Oncology (Williston Park). 2010 Feb;24(2):201.

(※2)K A Margolin and M R Green Polymicrobial enteric septicemia from coffee enemas. West J Med. 1984 Mar; 140(3): 460.

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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