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マーガリンやホイップクリームは食べるプラスチックって本当?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

マーガリン、ショートニング、ホイップクリームには病気の原因になりやすいトランス脂肪酸が多く含まれている危険な食品である、という話題は雑誌やネット上でよく見かけます。それだけ食べものと健康の話題に多くの方が興味を持っているということなのでしょう。今回はその中でも印象の強い「トランス脂肪酸はプラスチックに似ているから危険」という話の妥当性について考えて見たいと思います。

■プラスチックだから危険という話はどこから来たの?

マーガリンやショートニングは液体の油を原料にして、バターのような常温で個体の食品を工業的に安定供給したいという要望からつくられるようになった食品です。常温で液体の多価不飽和脂肪酸という油に【水素添加】という操作を行うことで、常温で個体の飽和脂肪酸の割合を増やすことでバターのような食感が得られます。この水素添加を行う時、飽和脂肪酸と一緒にトランス脂肪酸もできるのです。ようするに副生成物ですね。

このトランス脂肪酸はLDLという血中脂質(高くなりすぎると循環器系の病気を引き起こすおそれのあるリポたんぱく質であり、いわゆる悪玉コレステロール)を上げやすいため、マーガリンやショートニングなどを沢山つかうのは望ましくないと考えられております。

こうした体への悪影響が心配される加工食品については、その危険性を実際よりも誇張して広められる傾向があるように思います。マーガリンは危険である・・・だから健康のために私たちがすすめる○○を食べましょう、というように利用されることが多いのです。トランス脂肪酸がプラスチックに似ているという話も、J・フィネガン博士の著書を今村光一さんが翻訳したとされる「危険な油が病気を起こしてる」という本の中に、「脂肪専門の化学学者たちは実際に、オイルをプラスチック化する、という言葉を使っていますよ」という表現がみられます。

プラスチックは食べものでありませんから、プラスチックのような食品という表現が与える印象はとても強いものと思います。他にも、常温で放置しても腐らないしカビもしないので、食べものではないとも表現されています。

おそらくこの話が元ネタとなり、トランス脂肪酸の多い油脂はプラスチックだ、腐らないのはオカシイ、という説が広まったのではないかと思います。

■本当に似ているの?

ではトランス脂肪酸を多く含む油脂は本当にプラスチック(合成樹脂)によく似ているのでしょうか?

結論から先に書いてしまうと、大きさも構造もあまり似ていないということになります。

まず、プラスチックは高分子化合物であり、同じような構造が長く連なった物質で、含まれる炭素の数も数百以上にものぼりますが、トランス脂肪酸を含む食品中の脂肪酸は炭素の数は多くても22個程度で比べものになりません。次にトランス脂肪酸も含む脂肪酸には端っこにカルボキシル基という構造がありますが、プラスチックにはありません。この構造があるので脂肪酸は体内でエネルギー源として利用できるのです。

トランス脂肪酸は栄養素として体内で消化吸収して利用できますが、プラスチックは消化吸収できません。これほど大きな違いがあるのに似ているというのはあまりにも強引すぎないでしょうか? むしろ、プラスチックと違って消化吸収できるので代謝をされて良い作用か悪い作用かはさておき、体に何らかの影響があらわれるのです。

■油脂はもともと腐らない

腐らないから食品とはいえない、だからプラスチックのようなものだという批判もあるようです。しかし、元々純粋な油脂はカビたり腐ったりする物質ではありません。それは工業的につくりだした油脂も天然の油脂を精製したものも同じです。油脂に不純物(水やたんぱく質や糖質)が含まれていれば腐ることもあるでしょう。食べものの安全性に警鐘をならす人が食品の性質についてあまり理解していないのは残念な話です。

■プラスチックの意味

こうした極端な話が広がってしまう原因の一つにプラスチックという言葉の意味も関係しているように思います。

バターやマーガリンのような固体の物質に外から力を加えると形がかわりますが、力を加えるのをやめても元に戻りません。こうした性質のことを可塑性といいます。ロウや粘土などは代表的な可塑性物質です。この可塑性のことを英語では【plasticity】と表現し、可塑性(熱可塑性)のある合成樹脂を【plastic】と呼びます。つまり、プラスチックという言葉は可塑性という性質から来たものなのですね。

バターやマーガリンの性質である可塑性を表現する英語の論文などの文章に【plasticity】という単語が出てくることがマーガリンはプラスチックという話に結びついた可能性も十分ありそうです。

■今回のまとめ

・トランス脂肪酸とプラスチックは特に似ていない

・トランス脂肪酸を多く含む食品が問題なのは血中のLDL濃度を高くしやすいから

・腐らない食べものは危険というのは誤解

・plasticという単語は可塑性のあるという形容詞でもあり名詞では合成樹脂も意味する

・プラスチックだから危険、というような極端な話にはご用心

トランス脂肪酸についての健康影響が気になる方には拙ブログで詳しく解説した記事が参考になると思います。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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