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ヨーグルトでカゼを予防できるって本当?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

カルシウムが豊富でお腹の調子を整える効果も期待できるなど、なにかと健康に良さそうなイメージのあるヨーグルト。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしてしまう人にも勧めやすいので、何かと重宝する食品です。最近は栄養や整腸作用の他にもカゼの予防効果があると話題のようで、身近にもインフルエンザ予防のために免疫力を高めるといわれているヨーグルトを毎日飲んでいる人もおります。

健康のためにとヨーグルトを毎日飲んでいるような人が期待するようなカゼの予防効果はあるのでしょうか、検証をしてみたいと思います。

■ヨーグルトの機能性

食品は医薬品ではありませんので、医薬品のような効能や効果をうたって販売することはできません。例えば、がんが治る、高血圧が改善する、細胞を活性化するというような表現です。例外として、特定保健用食品(以下特保)や栄養機能食品として認められている効果効能については表示や広告にうたうことは可能です。この決まりを守らなければ無承認無許可医薬品として取り締まりの対象となってしまいます。

なるほど、特保ならば効果や効能を認められている範囲で宣伝してもかまわないわけですね。カゼの予防が期待されるヨーグルトも特保として許可を得ているのでしょうか。特保には期待される健康増進効果によっていくつかの機能性を表示出来るのですが、ヨーグルトなどの発酵乳では、有用微生物によるおなかの調子を整える効果、食物繊維による血糖上昇の緩和、機能性ペプチドの血圧が高めの人に向いている旨の表示が認められています。

というわけで、今回のテーマであるカゼの予防であったり話題の花粉症予防効果は、特保として認証されているものではありません。当然、効果効能をうたえませんので、企業の宣伝ページを見てもこれを食べるとカゼが予防できるとかインフルエンザに効くというような表現はなく、体に良いというイメージで商品が紹介されていることがわかります。

■誰が効くといっているの?

では、効果があるといっているのは誰なのでしょうか。テレビ番組や雑誌の健康特集などで特定の食べものが良いとされると、次の日売り場からその商品がなくなってしまうという話がありますが、ヨーグルトや乳酸菌飲料を飲むとインフルエンザに効くのでは?と話題になったのもテレビのワイドショーが発端だったようです。

こうした番組では、効果の実証として実験・研究結果などを紹介し、専門家とされる人が登場しお墨付きを与える形式が一般的なのですが、それらの実験結果や専門家とされる人の発言が妥当なものであることが保証されていないのが問題です。

ヨーグルトを販売している企業はカゼに効果がありますとはいっていない、といことは押さえておきたいところです。

■効果があるというためには

医薬品であっても食品であっても、効果があるというためにはしっかりとした研究デザインをたて、検証をして効果を実証する必要があります。しかし、現状ではヨーグルトなどのプロバイオティクス食品を食べてインフルエンザなどの深刻な感染症を予防できるといえるような知見は十分とはいえません。

ところで、しっかりとした研究デザインとはどのようなものでしょうか?

人間は心理的なものが体にも影響をおよぼすことがあり、実際には有効成分が入っていなくても何か特別なものだと思って食べたりすると、体が反応をしてしまうこともあります。こうした反応は、日常生活ではあまり問題になりませんが、薬や栄養成分の効果を調べる上では邪魔になってしまうため、その影響を取り除いた実験方法を考えなければなりません。具体的には、効果をみたいヨーグルトと外見上の区別がつかないヨーグルト(プラシーボヨーグルト)を用意し、それぞれを飲んだグループの比較をします。また、利害関係も実験結果に影響があらわれることもわかっているので、研究参加者の利益相反なども問題になります。実験対象者も偏らないような配慮も必要ですし、飲ませる側も参加者がどちらを飲んでいるのかが分からないようにすることが求められます。

ヨーグルトの効果を実証したとされる報告をいくつか読みましたが、スポンサーが特定企業であったり、参加者が無作為に割り付けられていなかったり、プラシーボヨーグルトが用意されていなかったりと不備が多いものばかりでした。

もしかすると、ヨーグルトにはカゼを予防する効果があるのかもしれませんが、現時点ではあるとはいえない、というのが科学的な態度といえるでしょう。

■免疫力

こうした商品の宣伝によくあるのが、免疫力アップという言葉です。ヨーグルトを食べると免疫力が上がりカゼに強い体が出来るという理屈ですね。ところが、免疫力という言葉は専門用語ではありません。

生理学や免疫学の教科書を開いてもそのような言葉は通常出てきません。免疫力というもの自体が存在しないので、なにがどうアップしたのかを計測することもできないのです。免疫力という単語がでてきたら眉にツバをするぐらいで良いと思います。

■ナチュラルキラー細胞活性は免疫の指標?

免疫力のように曖昧なものではなく、ヨーグルトを食べると体内のナチュラルキラー細胞活性が高くなるから良いという主張はどうなのでしょうか。特定の指標であり、体外から侵入した異物に素早く対応する免疫系の大事な細胞です。

しかしよく考えるとこれもオカシナ話のように思えます。そもそも、健康な人のナチュラルキラー細胞の活性が高いのが良いことなのかどうかも微妙な話です。免疫というのは一つの細胞や物質だけで機能しているわけではなく、様々な免疫系が相互作用をして体の恒常性を保つとても複雑なシステムです。なので、一つの値だけ取り出して、高くなったから良い、低くなったから悪いと断定されるようなものではありません。あくまで指標の一つにすぎません。

■おまけとして期待するのはアリ?

色々と面倒なお話をしましたが、ヨーグルトが美味しくて栄養価も比較的高い有用な食品であることはまちがいないでしょう。さらに特保で認められているお腹の調子を整える作用や糞便の臭いを改善する効果は期待してもよさそうです。普段あまり食べない人がカゼの流行シーズンになんとなくヨーグルトを手に取ったり、整腸目的に食べたときちょっぴりカゼ予防の効果を期待するのは悪い事ではないと思います。

問題とされるのは、実際にあるかないのか分からない効果を実際に期待される以上に広めることでしょう。企業がいくら効果をうたっていませんといっても、カゼを予防できると思って購入している消費者が実際にいるのです。

何度も繰り返しますが、ヨーグルトはあくまで食品であって医薬品ではないのです。

■今回のまとめ

・ヨーグルトの特保として認められている効果は整腸作用などです

・販売企業はカゼ効果があるとはいってません

・ヨーグルトのカゼ予防効果をうたうにはまだまだ研究データが足りません

・免疫力という言葉がでたらご用心

・ヨーグルトは美味しくて栄養価の高い食品ですが薬ではありません

最後になりますが、カゼにかからなかったらラッキーぐらいの期待で食べると良いのかな、と私個人は思っております。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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