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アルコールはエンプティカロリーだから太らないって本当?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

私たちの生活を潤してくれるアルコールではありますが、急性アルコール中毒や肝疾患など、飲み方を誤れば大切な健康を損なうこともあります。春の新入社員歓迎会やお花見、ゴールデンウィークとつづきお酒を飲み過ぎてしまった人も多いのではないでしょうか。

今回は健康のために知っておきたい、肥満とアルコールの関係、おしっこが近くなる理由についてお話をしてみたいと思います。

■アルコールって太るの?

アルコールはすぐに熱になってしまって体にたまらないので太らない!ときいたのですが本当ですか?と、お酒好きの人からたまに質問されることがあります。これは「アルコールはエンプティーカロリー」と表現されることがあるので生まれた誤解なのかもしれません。実際にはアルコール摂取によっても体重が増加することが確認されております。アルコールがエンプティーカロリーと呼ばれるのは、アルコールには体に役立つような栄養を持っていないという意味合いで、エネルギー(カロリー)が空っぽという意味ではないのです。

ではアルコールにはどれぐらい体重を増やす力があるのでしょうか? これについてはまだまだ議論があるようで、少しの飲酒量では体重増加にはつながらないという報告もあります。

そのため、1gのアルコールは体の中で7.1kcalの熱量を持つとされているのですが、実際に体で活用されるエネルギー量はそこまで多くないのでは?と考えられております。これについては次の項目で解説いたします。

■栄養素としてのアルコール

おいしく飲んだアルコールは体内でどのように利用されるのでしょうか?

アルコールは飲むと速やかに胃や小腸から吸収されて体の隅々まで行き渡ります。血中濃度が高くなると体に害悪を及ぼしますので、アルコールは肝臓で分解されることになります。まずはじめにアルコール脱水素酵素(ADH)でアセトアルデヒドに酸化*1され、これがさらにアルデヒド脱水素酵素により酢酸に代謝されます。この酢酸が体内でエネルギー源として利用されます。この酢酸は速やかに燃焼されるので、アルコールを飲んだ後に体がぽっぽと熱くなります。

■じつは脂肪にもなります

飲んだら分解されすぐにエネルギー源となるアルコールですが、あまり飲み過ぎると脂肪がつきやすくなる事が知られております。それはどうしてでしょうか?

アルコールが分解してできる酢酸は血流にのって末梢組織でのエネルギー源として利用されます。これらの組織は安静時には脂質分解しエネルギー源として利用しているのですが、この酢酸が代わりに使われるようになるため、体の脂肪分解は抑制されてその分を蓄える方向*2にかわってしまうのです。この時に同時に油たっぷり、糖質たっぷりのおつまみを食べたらどうなるでしょうか? アルコール飲料を飲むと脂肪がつきやすい体の状態になるのです。

ちなみに、熱になって発散しやすいと説明した酢酸ですが、酢酸もアセチルCoAという体の中で脂肪をつくる元になる物質にも変換されるので、アルコール自体は中性脂肪にならないという説明も実は正しくない(アルコールから脂肪になる量は少ないですが)のです。アルコールの体内での利用のされ方は脂質に似ているといえるでしょう。

糖質の含まれていないお酒を飲んでいれば太らないということはありませんので要注意です。

■お酒の飲み方でどれぐらい違う?

体重にあたえる影響では議論があると説明しましたが、お酒の飲み方で太りやすさが違うという研究があります。

女性の少量飲酒ではほとんど体重が増加に影響せず、ある程度の量を飲むとその分だけ体重が増えるというデータがあります。また、男性では少量から中等度くらいの飲酒では、アルコール摂取によって増えたエネルギー量に相当する分の体重増加がいろいろな調査で観察されております。

アルコールを飲んだ後に体がぽっぽすると書きましたが、体内では摂取したエネルギー(カロリー)量の20%程度余計に代謝が亢進*3することが報告されております。人間は通常時でも体温を36℃前後に保つ必要がありますが、その体熱の産生に糖質や脂肪酸がエネルギー源として使われております。お酒を飲んだときにはアルコールは積極的に熱を産生してくれますから、その分のエネルギー(糖質、脂質等)を節約できる事になります。アルコール摂取時には体の中での使われ方が似ている脂肪を控えた食事にすることが太らないコツと考えられます。

では、お酒を飲み過ぎる人では飲んでいる量の割に太らないという話はどうなのでしょう。これは多量の飲酒により胃や腸などの消化系が障害され下痢を起こすことで、栄養素吸収を妨げたり、体の代謝機能がおかしくなるなどの不健康な理由で体重が減少する*4ためと考えられます。

■飲んでいるのに脱水?

次はアルコールと尿意の関係についてのお話です。

個人差はありますが、お酒を飲むとトイレが近くなるという現象をたいていの方が経験したことがあると思います。筆者は特に敏感で、ビールを続けて飲むと、10分に1度くらいトイレに行きたくなることもあるぐらい敏感です。

これはアルコールの働きで、抗利尿ホルモン(バソプレッシン)という体の水分を適度に保てるように尿量を調節するホルモンの分泌が妨げられて必要以上の尿がつくられてしまうためなのです。

これにより、水分たっぷりの飲み物を摂っているのにもかかわらず脱水状態になってしまう危険があるのです。二日酔いの症状にはこの脱水も関わっているので、お酒を飲んだ後には水分補給が大事になります。このときに体内のミネラルバランスも崩れるので、ただのお水ではなく少し薄めたスポーツドリンクや果汁飲料などで補給するのがおすすめです。

余談になりますが、お酒の利尿効果について調べた中に、ビールはカリウムを含んでいるので利尿効果が高いという記述がありました。確かにカリウムは利尿作用を持つミネラルですが、試しにビールのカリウムを成分表で調べてみたところ、100gあたり34mg程度で、ビールを1リットル飲んだとしても、約350mgで、これは茹でたほうれん草70gに含まれる量と同程度です。カリウムは生鮮食品にはまんべんなく含まれているミネラルなので、ほうれん草にかぎらず食事をしながらお酒を飲むときにはビールでなくてもかなりのカリウムを摂取することになります。ビールの利尿作用が強いというのはカリウムの影響よりも、グビグビと短い時間にたくさんの量を飲めるという特徴によるものではないかと筆者は推測しております。コーヒーのカフェインにも同じく利尿作用がありますが、尿量はカフェインの有無しか影響しなかったという報告*5もあり、カリウムの利尿作用については即効性は低いと考えられます。

■今回のまとめ

アルコールは熱になってしまうから太らないというお話は一部はあてはまるものの、体に脂肪のたまる原因になると考えて良いでしょう。アルコールは栄養面でのメリットはありませんので、通常の食事を摂ったうえで、少量たしなむ程度というのがやはり望ましいようです。

・エンプティーカロリーというのは栄養的にからっぽという意味でちゃんとエネルギー(カロリー)になります

・アルコールは熱になるだけというのは間違いで、一部は中性脂肪になります

・アルコールを飲むと体は脂肪を蓄えやすい状態になります

・いろいろな面でお酒は飲み方が大事です

・脱水しやすいのはアルコールが尿量を調節するホルモンに影響を与えるためです

・飲酒後は脱水予防に薄めた果汁やスポーツドリンクなどをとりましょう

次回はアルコールと病気・栄養素欠乏を中心に書いてみようと思います。

  • 1 習慣的にアルコールを飲む人は別のミクロゾームエタノール酸化系も働くようになるのでお酒をよく飲んでいると酔いにくくなると考えられる
  • 2:アルコール代謝により生じるNADHの増加は結果的に糖新生は抑制し、TCAサイクルも回りにくくなり脂肪酸合成も進むと考えられる
  • 3:Suter PM, Schutz Y, Jequier E.N The effect of ethanol on fat storage in healthy subjects. Engl J Med. 1992 Apr 9;326(15):983-7.
  • 4 そのほか、アル中のような大量飲酒では食事が少なくなる傾向がある
  • 5 Nussberger J, Mooser V, Maridor G, Juillerat L, Waeber B, Brunner HR. Caffeine-induced diuresis and atrial natriuretic peptides. J Cardiovasc Pharmacol. 1990 May;15(5):685-91.
管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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