まさかの50%ダウン提示に思う、中澤佑二の「本当の価値」。

来季年俸で50%減を提示された中澤。来季も横浜で彼の勇姿を見ることができるのか。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

38歳のセンターバックはチームで唯一、リーグ戦全試合に出場。

それも3年連続のフルタイム出場。

昨季ゼロだったイエローカードもわずか一枚だけ。

チーム失点数は38で18チーム中5番目に少ない(昨季は32で2番目)。

これだけの数字である。個人的に思うのは、チームの年間順位が昨季の7位から10位に後退したとはいっても、今季年俸1億円から来季年俸が50%ダウンの5000万円(※金額は推定)となる理由にはあたらないだろう。

もうひとつ、考慮しなければならないことがある。

中澤佑二は、横浜F・マリノスの功労者であること。

2002年に東京ヴェルディから移籍して以来、15年間にわたって最終ラインで体を張ってきた。03、04年のリーグ2連覇に大きく貢献し、2004年にはリーグMVPを獲得している。13年にはリーグのベストイレブンに選ばれ、「堅守マリノス」の象徴であり続けている。

足りないスピードには読みと経験で対抗して、絶対的な高さと強さは相変わらず。安心、安定の『中澤株』に陰りの色は見えない。実際のデータが、何より鉄人ぶりを証明している。

もし50%ダウンが事実とすれば現在進行形で活躍する彼に対してあまりにリスペクトを欠いた提示に思えてならない。「出ていけという意味なのか」と本人がそう受け取るのも無理はない。

中澤はマリノスの宝である。

今春、日産スタジアムでマリノスOBの安永聡太郎(現J3 SC相模原監督)とバッタリ出会ったことがあった。当時、サッカー解説者を務めていた彼の視察の目的は中澤だった。

「クロスに対するユージのポジショニングは、勉強になる。ホントに絶妙だから。きょうはユージを中心に見ようと思って」

マリノスは歴代の日本代表センターバックを輩出してきた。井原正巳、小村徳男、松田直樹、そして中澤、栗原勇蔵……。

若手時代の栗原は「マツさんとボンバーからは盗むことがヤマほどある」と言って2人から学ぼうとした。そして彼はのちに日本代表のセンターバックに成長している。栗原と同期のGK榎本哲也も「センターバックの威圧感という意味では、一緒にやっていてボンバーはめちゃくちゃ凄い。それにプレーで一切、手を抜かないから」と尊敬の念を抱いてきた。

チームの大黒柱・中村俊輔は2013年にリーグMVPを獲得した際のスピーチでこう語っている。

「私のなかでMVPは中澤佑二選手です。彼のここ数年のプレーを見ても、この賞にふさわしいと思います。サッカーに対する情熱、日々のトレーニングの姿勢……。若い選手に限らず自分にも刺激を与えてくれている」

ケガもない。ムラもない。ポーンと抜かれて失点したことがあっても、彼は同じ失敗を繰り返さないようにしてきた。

そう考えれば、50%ダウンの提示が何を意味するのか。プライドをズタズタにされた中澤の心中を察するに余りある。

今季のホーム最終戦、日産スタジアムにはサポーターからこんな横断幕が掲げられていた。

「タイトル奪取のために経験ある中堅 ベテランの力も絶対必要」

ひょっとするとマリノスは来季の編成で、大幅な若返りを図ろうとしているのではあるまいか。筆者にも届いたそのようなウワサをサポーターも聞きつけたのではないだろうか。

実際、6年にわたって右サイドバックでレギュラーを張った小林祐三が契約非更新を通達された。レギュラーの座を奪われてもいないし、出場機会が少なくなったわけでもない。また、チームの絶対的な存在である中村俊輔に対してジュビロ磐田が獲得に動くという報道も出た。マリノスを出ることなどないと思われている中村に対してである。一体、今マリノスに何が起こっているというのか。

戦力を見直そうと松田直樹、河合竜二、坂田大輔ら大量解雇してファン、サポーターの反発を買った2010年の教訓が活かされていないのではないかと心配になる。ホーム最終戦で日産スタジアムに鳴り響いたブーイングが、今も耳にこびりついている。

16年間、マリノスの第一線で働いてきた松田はある試合の後にクラブハウスに呼び出されて、非更新を伝えられた。松田はたまらず部屋を飛び出した。ケガから復帰して以降、レギュラーを張り続けていた。本人にしてみれば、思いもしなかった突然のクビ通告。直情タイプの松田を知っていればこそ、もっと配慮と敬意がほしかった。

マリノスは2014年にマンチェスター・シティFCのホールディング会社「シティ・フットボール・グループ」(CFG)とパートナーシップ契約を締結した。CFGが経営に参画して新しいマリノスをつくろうとしているのは分かる。しかし日産自動車サッカー部から受け継がれてきた名門の伝統を守ることも忘れてはほしくない。伝統をつくってきた功労者をないがしろにはしてほしくない。

功労者を大切にする。

功労者に敬意を払う。

厳しいプロ社会とは言っても、人を大切にしないで強い組織など成り立つであろうか。

中澤は現役の区切りを「40歳」に置いているという。

プロとして自分が納得できるパフォーマンスを、最低あと2年はやれる自信があるということ。しかしクラブが50%ダウンを提示したというなら15年にわたって期待を裏切ることなくチームに尽くしてきた彼を信頼していないとも言える。

若手には新井一耀という楽しみなセンターバックもいる。チームの将来に向けてもここで最高の教材を失うことがどれほどの痛手になるのか。

「できることなら僕はマリノスで引退したい」

いつしか聞いた彼の言葉を思い出す。

中澤佑二の価値を、中澤がずっと愛情を注いできた横浜F・マリノスが本当に分かっていないとしたら残念でならない。