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「2つじゃダメなんでしょうか!?」民進党と蓮舫代表についての一考

にしゃんた社会学者/タレント
「2つじゃダメなんでしょうか!?」(写真:アフロ)

民主党の代表選が行われ、投票結果、蓮舫議員が選ばれた。今回の民進党代表選の報道がはじまるなり、メディアを賑わせたのは、蓮舫議員の「二重国籍」の情報である。日本最大野党の党首選であったにも関わらず、メディアにおいての扱いが寂しい印象は否めない。「国民の関心がない」からと片付けようしているメディアだが、関心をもたせるのも、なくすのも、メディアの報道次第ではないだろうか。しかも今回、少ないなりに取り上げられていた党首選の報道だが、その大半は蓮舫議員の「二重国籍」関連の内容で占められていた印象もぬぐえない。日本のメディアが、国民に関心をもたせるどころか、野党第一党の党首選を本質論から大きく外して報道することに徹した。

蓮舫議員の立場としてこのタイミングで「二重国籍」が話題にされることについて、悪意を感じられても仕方がない。しかし今回の代表選にまつわる報道全体を通して、見えてくる景色は、蓮舫議員本人に限らず、日本全体にとっても如何なものかとこの際、少し考える必要もあるのではないだろうか。蓮舫議員と言えば、有名な台詞に「2位じゃダメでしょうか!?」が思い出されるが、ここで浮かぶキーワードは、むしろ「2つじゃダメなんでしょうか!?」である。

今回の「二重国籍」については、第一に法的な違反は認められない。あくまでも道義的な内容である。にもかかわらず、野党の政策などに耳を傾けることなく、国籍のことをまるで「鬼の首を捕った」かのような深刻な次元の内容かのごとく報道において扱い、騒ぎたてる必要があったのだろうか。日本においても他の多くの国でそうであるように、国籍選択の際に、もう一つの国籍を手放すことは、あくまでも努力義務である。

しかも実際には、二つの国籍を同時に使いこなせるわけではない。例えば出入国の際も、出国と入国のパスポート(国籍)が統一されなければならない。その点、二重国籍のデメリットとして報道されている、外国での外交上の保護の困難の可能性は考えにくく、入国した際の国籍(パスポート)が保護する国家になるという目安になる。しかも、外国における人命の保護であれば、一つの国より、二つの国によって保護のために努力された方があらゆる面においてメリットが多いのではないか。人命救助の目的達成の確率が高まると同時に、関わる国家間の関係進展にもつながる。

さらに、二重国籍者は、戦争になった際のどちらの国に忠誠を誓うのかが問題視されているが、当事者の立場でいうと、自分たちに関係のある国同士が争うことは、最も望まない。そのため、二重国籍者はむしろ、戦争を起こさせることを事前に止める有難い、貴重な存在であると言えよう。2008年の時点で日本国籍と関係のある二重国籍者が58万人程度いたが、現在はさらに増えていると考えられる。

これは日本だけの現象ではなく世界ではむしろ常識と化しているのである。2000年に発効された「国籍に関するヨーロッパ条約」において、出生や婚姻などによる二重国籍を認めるよう定めたことも大きく影響している。

一般の民衆に限らず、政治家でも二重国籍者は、少なくない。有名な政治家で言うと、カルフォルニア州知事だったアーノルド・シュワルツェネッガーは、オーストリアとの二重国籍であった。イギリス外相で前ロンドン市長、そして次期首相と黙されていたボリス・ジョンソンも、アメリカ国籍を有している。さらに、今回の米大統領選においてトランプと共和党の代表選を最後まで争ったテッド・クルーズもカナダ国籍を持っていた。その点、今回の二重国籍を騒ぎ立てたことによって、日本が欧米諸国の国際感覚から遅れをとっていることを、さらには日本周辺諸国と同質であるという印象を抱かせたに違いない。

さらには、蓮舫議員が日本国籍を申請した年は1985年であったことにも大きな意味がある。日本は84年に国籍法改正が行われるまでは、「父系血統主義」であった。日本人の母と台湾の父の間で生まれた蓮舫だが、日本では、84年までは父が日本人でないと子が日本国籍になれなかった。男女平等が叫ばれている日本だが、子どもの日本国籍取得の条件が「父母両系」に変わったのはわずか32年前の話である。男女平等に関する国際感覚についての国際社会の中での遅れと、急ぐ必要性をこんなところでも感じとれる。

ここで、蓮舫議員の二重国籍について「2つじゃダメなんでしょうか!?」という切り口で触れてきた。しかし今回の問題を通して見えてくる日本社会の最大の問題は、二重国籍ではない。「二大政党制」についてである。つまり「2大政党制じゃダメなんでしょうか!?」と言うことである。

言わずして日本の政治における最大の貧しさは、選択肢のなさである。にも関わらず今回の蓮舫バッシングの根底には日本の与党はもちろん、メディアや国民までもが「二大政党制を望まない」という気持ちがあると言うことが一番の問題ではないだろうか。単一性(一つ)にしか美徳を見いだせず、複数のものに対するアレルギー反応と、現状維持バイアスに取りつかれた社会全体としての問題こそが今回の野党党首選を通して見えてくる「日本の最大の問題」である。

一つに慣れてしまった日本人の私たち。「2つではダメなんでしょうか?」この際、一人一人が自問自答する必要があるだろう。

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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