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台風17号 ハリケーンが”越境” 過去には寿命0時間の台風も

饒村曜気象予報士
平成27年の台風17号の発生(ウエザーマップ提供)

ミッドウェー諸島近海を西進していたハリケーン(ハリケーン名はキロ「Kilo」)が、日付変更線を越えたため台風17号となりました。ハリケーンなどの熱帯低気圧が東経180度線(日付け変更線)を超えて台風になったのは、今年7月の台風12号以来2回目のことですが、このようなことが起きるのは、10年に1~2回ですので、珍しい現象といえます。

台風の定義

気象庁では、台風の発生を、天気図上で北西太平洋(東経180度以西、赤道以北の太平洋で南シナ海を含む)に熱帯低気圧があって、その最大風速が毎秒17.2メートル以上であると認められたときとしています。気象庁では、北西太平洋を広くカバーする「アジア太平洋天気図」が6時間ごと、日本付近をカバーする「極東天気図」が3時間ごとに作られていますので、台風の発生時刻は、ほとんどが3時、9時、15時、21時で、日本付近に限っていえば、0時、6時、12時、18時の発生もあります。

同様に、台風の消滅は天気図上で確認できなくなった時ですが、日本に接近・上陸した台風については、特別体制で1時間ごとに「台風天気図」を作っていますので、前記の3時間ごとの時刻以外で消滅ということもありえます。

台風の寿命が0時間

図1 寿命0時間の台風
図1 寿命0時間の台風

台風の寿命は、台風が最初に天気図で確認された時から、天気図で確認されなくなった時までですので、3時間ごとに天気図が作られている場合は、最短の寿命は3時間ということになります。しかし、昭和45年(1970年)の台風13号(ドットDot)は、図1のように、東経180度線(日付変更線)上で発生し、その後は東に進んでいますので、9月2日21時だけが台風で、それ以外はすべて台風の範囲外で台風ではありません。

出戻り台風

図2 出戻り台風だった昭和34年の台風12号
図2 出戻り台風だった昭和34年の台風12号

台風が、東経180度を超えて東に進む場合は、勢力が衰えなくても台風ではなくなります。このようなことは、2年に1回位ありますが、中には、昭和34年の台風12号のように、勢力が衰えないのに、台風になったりハリケーンになったりするものもあります。この台風12号は、9月11日15時に東経180度以西で低気圧に吸収されています(図2)。

ベンガル湾まで旅した台風

図3 ベンガル湾まで旅した昭和47年の台風29号
図3 ベンガル湾まで旅した昭和47年の台風29号

台風と呼ばれる海域の東端の東経180線と同様のことは、西端でも起こります。ただ、境界線がアジア大陸ですので、台風が勢力を保ったまま越えるためには、アジア大陸が非常に狭くなっているところ、つまりマレー半島北部を通過する場合だけに限られます。それも、低緯度であるため上空には東風が吹いており、台風は東から西へ動きます。とはいっても、南シナ海を西へ進む台風は、ベトナムに上陸してしまうことが非常に多く、なかなかマレー半島北部には達しません。ごくまれな現象ですが、昭和47年の台風29号はマレー半島北部に上陸し、そのまま勢力を保ってベンガル湾にぬけています。

長雨のあとは、しばらくは台風情報に注意

秋雨前線が活発となり、日本列島は長雨が続いています。晴れたとしても、しばらくは地中には水分が溜まった状態になっています。このような状態のときに、台風によって大雨が降ると大規模な山崩れや崖崩れなどの土砂災害が起きますので、台風情報に注意し、早めの対策が必要です。

図の出典:饒村曜(1986)、台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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