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「平成27年9月関東・東北豪雨」 現在の命名基準は平成16年に相次いだ災害の直前から

饒村曜気象予報士
福井豪雨時の気象衛星赤外画像(平成16年7月18日6時)

気象庁は、顕著な災害を起こした自然現象について名前をつけていますが、平成27年9月9日から11日に関東地方及び東北地方で発生した豪雨について、「平成27年9月関東・東北豪雨」と命名しました。これは、過去に発生した大規模な災害における経験や貴重な教訓を共通の名称で後世代に伝承するとともに、防災関係機関等が災害発生後の応急、復旧活動を円滑に実施することが期待されるからです。

最初の命名は昭和33年の「狩野川台風」

戦前の昭和9年9月21日に高知県室戸岬付近に上陸した台風が、当時の世界で一番低い気圧を記録したことから室戸台風と呼ばれましたが、気象庁が最初に命名したのは、昭和33年9月26日に関東地方に来襲し、記録的な大雨をもたらし、静岡県狩野川が氾濫した台風第22号についてで、「狩野川台風」と呼称しました。

このとき、昭和29年の台風第15号も「洞爺丸台風」と遡って呼称しました。

命名の根本方針は昭和36年の「第二室戸台風」から

命名の根本方針を決めたのは、昭和36年9月18日で、大阪地方を「第二室戸台風」が大阪地方を襲った2日後でした。

現在の命名に関する考え方は「平成15年十勝沖地震」から

現在の命名に関する考え方は、平成16年3月15日に決められたもので、前年9月に北海道で震度6弱を観測した地震を「平成15年十勝沖地震」と命名したときに、2ヶ月前に東北地方で発生した震度6強の地震も命名すべきではとか、北海道より青森県の被害の方が大きいのに北海道の名前はふさわしくないなど、様々な指摘があったからです。

表1 気象庁の顕著現象の命名基準
表1 気象庁の顕著現象の命名基準

この新しい考え方では、これまでより命名が少なくなるよう高めの基準(表)でしたが、基準をきめた約4ヶ月後の7月12~13日に梅雨前線の大雨で多くの水害が発生し、基準をクリアしたため「新潟・福島豪雨」と命名されました。

また、その5日後の7月18日には福井県嶺北地方でも、梅雨前線の大雨で足羽川堤防が決壊するなどで多くの水害が発生し「福井豪雨」と命名されました。

図 福井豪雨時のレーダー画像(平成16年7月18日6時)
図 福井豪雨時のレーダー画像(平成16年7月18日6時)

さらに、10月23日に新潟県中越地方を中心に大きな地震被害が発生し、「新潟県中越地震」とこの年3回目の命名となりました。平成16年は、台風が10個も上陸し、上陸のたびに大きな被害が発生するという大凶の年でした。

気象庁が命名する顕著現象は増える傾向にある

気象庁がこれまでに命名した気象及び地震火山現象のうち、平成に入ってからのものは、表2、表3の通りです。「平成27年9月関東・東北豪雨」では、浸水家屋が1万8000棟以上ということでの命名です。

表2 気象庁が命名した平成の豪雨等の顕著現象
表2 気象庁が命名した平成の豪雨等の顕著現象
表3 気象庁が命名した平成の地震・火山の顕著現象
表3 気象庁が命名した平成の地震・火山の顕著現象

命名された顕著現象は、平均すると1年に1例ですが、昭和43年の4例(えびの地震・日向灘地震・十勝沖地震・第3宮古島台風)など、複数の命名がある年が少なくありません。理由はわかりませんが、大災害は集中して起こるようです。

また、命名基準が厳しくなっていても、近年は、命名する顕著現象が若干増える傾向にあります。このことは、大きな災害への警戒がますます重要になってくることを示しています。

表1の出典:饒村曜(2012)、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

表2、表3の出典:気象庁ホームページ

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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