Yahoo!ニュース

熊本地震と阪神淡路大震災の違い・気温と食中毒

饒村曜気象予報士
大腸菌(O-157)(写真:アフロ)

熊本地震が発生して1週間がたちました。同じ大都市の直下型地震である阪神・淡路大震災と比べると、気温が高く、雨の日が多くて湿度も高く、食中毒の可能性が非常に高い状態となっています。

神戸の地震の時の体験

兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が平成7年1月17日に発生すると、勤めていた神戸海洋気象台の非常災害対策措置要領により、気象台長が非常対策本部長、総務課長と予報課長が副本部長となりました。

非常対策本部長から副本部長の私(予報課長)に、観測や予報、通信といった現業部門をまとめることになったのですが、当時、私か恐かったのは、食中毒の発生でした。

普段より不衛生になりがちであることに加えて、過労による体力の低下や手持ちの医薬品の不足、病院や薬局の機能が普段通りにあるのかどうかといった心配もありました。

そこで、地震発生5日目の1月22日に、これまで言っていたことをまとめて食堂に貼り紙をしました(表1)。

表 神戸の地震5日後の張り紙
表 神戸の地震5日後の張り紙

ただ、食中毒が出やすいかという意味では、幸いなことに1月の地震でした。地震後1か月間の神戸市中央区の最高気温の平均値は、ほぼ平年並の8.4度で、食中毒を大発生させる気温ではありませんでした(図1)。

また、地震発生後の一ヶ月の神戸の降水量は22ミリ、日降水量が1ミリ以上の日は3日で、雨が少なかったと言えます。

しかし、熊本地震は違います。

図1 震災後1ヶ月間の神戸の気温
図1 震災後1ヶ月間の神戸の気温

熊本地震後の一週間の気象

熊本地震後の熊本の最高気温は、18日を除いて20度を超えています(図2)。

21日も最高気温が21.5度、最低気温が15.3度と、平年値前後です。

図2 熊本地震後の気温
図2 熊本地震後の気温

また、神戸の地震後1ヵ月間の降水量は22ミリ、日降水量が1ミリ以上の日数は3です。

熊本地震は、21日の75.5ミリの雨で、地震発生後1週間で97.5ミリと神戸の値を超えています。

週間天気予報によると、熊本市は、今後も最高気温が22度から24度の日が続き、雨の日が1週間で4日もあるなど、梅雨を思わせるような日が続きます。

すでに食中毒などの報告が出始めていますが、多発が心配な週間天気予報です。

運転にも注意

阪神・淡路大震災のとき、食中毒と心配とともに、心配したのが交通事故でした。

地震の2日後の1月19日の張り紙には、次のような文章をいれました。

・交通機関が回復しないうちに無理な長時間通勤をしないで下さい。

・オートバイによる通勤の場合は交通安全に十分注意、昼間の移動にして下さい。

ここで、オートバイの利用を昼間としたのは、テレビ等で病院の悲惨な状況が次々につたえられていたからです。多くの怪我人が病院にかつぎこまれ、緊急に手術が必要な人でも後回しにされ、現在生死がかかっている人が優先されていたからです。手足の骨折など生死に直接関係ない怪我人は放置され、また、放置されても文句が言えない現実がありました。

瓦礫が道路上に長い間散乱していた神戸の町は、小型のバイクが主たる交通手段となっていましたが、道路上に何かあるか分からない状況では、夜間のバイク運転は交通事故の可能性が高いと考えたからです。

実際にはどうだったかというと、兵庫県南部地震発生後、交通事故のうち人身事故が前年に比べて約1割減ったものの、バイク事故は倍増したと言われています。

熊本地震では、瓦礫が道路上に長い間散乱していませんが、余震が続いていますので、道路上に亀裂が入っている可能性があり、状況は同じと思います。

医療機関は、困難な状況を乗り越え業務を行っています。

食中毒や不用意な交通事故を起こして負担をかけない、かけさせないという意識が大切と思います。

図表の出典:饒村曜(1996)、防災担当者の見た阪神・淡路大震災、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事