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世界最高峰・エベレストの春の登山シーズンと日本の梅雨

饒村曜気象予報士
エベレスト山(写真:アフロ)

昭和28年5月29日にイギリス人の登山家エルモンド・ヒラリーとシュルパーのテンジン・ノルゲイが、標高が8848メートルと、世界で一番高い山であるエベレスト(チョモランマ)に初登頂をしました。

エベレストの登山シーズン

ネパールと中国チベット自治区の国境にあるエベレストの登山シーズンは、4月から5月頃の「プレモンスーン」と、9月から10月頃の「ポストモンスーン」です。

モンスーン期間である夏は、湿った空気がインド洋から流れ込みますので、ほとんどの日で雲がわき、雪が降って登山には不向きとなります。

また、冬は、大陸から冷たくて乾燥した空気が流れ込み、強すぎる風で雪が吹き飛びます。強い風と寒さで登山には不向きとなります。

梅雨とジェット気流

亜熱帯ジェット気流は、冬は低緯度にありますが、暖かくなるにつれて北上し、梅雨期になると平均高度4500メートルのチベット高原にぶつかります。

このためジェット気流は分流され、一方はチベット高原の南側、中国華南、日本の南海上を通って日本の東海上に、もう一方は北側をまわり、寒帯ジェット気流と合流して強化され、中国東北部を通って日本の東海上に達します(図)。

上空でジェット気流が合流するところでは、集まった空気が下降気流に転じ、梅雨の主役であるオホーツク海高気圧が発達します。

そして、低温で多湿のオホーツク海高気圧と、高温で多湿の太平洋高気圧の間に前線が停滞するようになり、日本は梅雨の季節に入ります。

梅雨は日本だけの現象ではなく、東アジアだけの現象でもなく、もうすこし広い範囲の現象です。

そして、亜熱帯ジェット気流がさらに北上し、分流がなくなれば、オホーツク海高気圧も弱まり、梅雨明けになります。そして、インドからチベット高原は、本格的なモンスーンの雨季に入ります。

図 ジェット気流と日本の梅雨
図 ジェット気流と日本の梅雨

ヒマラヤ登山のニュースがあったら、日本では、まもなく梅雨入りと言われてきました。

今年は、5月19日には俳優の「なすび」さんが、5月29日には女子大生の南谷真鈴さんが日本人最年少の19才で登頂に成功しています。ヒマラヤで登山に適したプレモンスーンが始まったということは、まもなく梅雨入りです。

追記(5月30日)

5月21日に登山家の田村聡さんが聴覚障碍者として世界で初めてエベレストを登頂したとのニュースが入ってきました。落石の音が聞こえないという危険を乗り越えての成功です。今年のプレモンスーンでは、日本人によるエベレスト登頂のニュースが相次いでいます。

図の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100、オーム社

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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