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20世紀最大「ピナツボ火山噴火」から25年 同規模の大噴火を経験した白頭山は厳重な監視が必要

饒村曜気象予報士
青空の雲と太陽(写真:アフロ)

今から25年前の平成3年(1991年)6月7日、フイリピンのピナツボ(ピナトウボ)山が400年ぶりに大噴火しています。

20世紀最大の火山噴火で、放出された大量の火山灰が成層圏にまで達し、世界中の日射量を長期間にわたり減少させました。

日本付近の最近の同規模の噴火というと、今から約1000年の朝鮮半島北部にある白頭山の噴火です。

大量の火山灰放出

フイリピンのピナツボ山は、400年ぶりに大噴火以降、断続的に大噴火を繰り返しています。

最大の噴火は、この年の6月15日の噴火で、この時は台風5号が接近して大雨となっており、火山災害を拡大させました。

火山噴火の規模をあらわすのに、火山爆発指数が使われます。これは噴出物の量で火山爆発を見る指数です。

過去最大の噴火は、64万年前のアメリカのイエローストーンの火山爆発指数8の噴火で、噴出物がアメリカ合衆国の半分を襲うというすさまじいものでした(表)。

表 火山爆発指数(Volcanic  Explosivity  Index)
表 火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index)

ピナツボ山の大噴火は、火山爆発指数6の「並外れて巨大」です。

噴火による死者は約300人ですが、多くは屋根に堆積してた火山灰が雨を吸収して重くなって家が潰れたことによります。南西に75キロメートルにあるスービック海軍基地、東に40キロメートルにあるクラーク海軍基地という、アメリカ軍の重要な基地は、噴火によって放棄となっています。

そして、噴火前には、1745メートルだった標高は、膨大な噴出物により低くなり、1486メートルになっています。

成層圏に巻き上げられた火山噴出物

巻き上げられた火山噴出物は、対流圏であれば重力による落下や降水に取り込まれて大気から除去されます。しかし、成層圏まで巻き上げられると重力による落下でしか大気中から除去されません。

重力による落下は、粒子が小さくなるほど遅くなり、例えば、直径が10マイクロメータの粒子が1日で1キロメートル落下するなら、1マイクロメートルの粒子は1日に31mしか落下しません。

このため、成層圏まで巻き上げられた微小な粒子は、長期間にわたって成層圏内にとどまり、風に乗って世界中に広がりました。

ピナツボ火山の噴火時には、噴煙は34キロメートルまで巻き上がって成層圏に長く滞留した微粒子は太陽の日射を弱めました。

日本でも大気混濁指数と呼ばれる日射の減衰を表す指標の数値が大きくなりました(図1)。

図1 日本における大気混濁度係数の経年変化
図1 日本における大気混濁度係数の経年変化

このため、しばらくは世界中で異常気象が多発し、日本でも平成5年(1993年)には戦後最悪の冷夏になりました。東日本の夏の平均気温は平年より1.5度も低くなり、米不足から外国産の米を輸入するという「平成の米騒動」がおきました。しかし、農家に対しては、農業保証などの対策が行われ、昭和初期のような深刻な困窮を防ぐことができました。

火山灰は考古学における時計

日本付近の最近の同規模の噴火は、今から約1000年の朝鮮半島北部にある白頭山があげられます。同規模の噴火である韓国・鬱陵島が約1万年前、これより規模が大きい噴火である阿蘇山の大噴火が9万年前であることを考えると、白頭山の噴火は、かなり最近のできごとということになります。

阿蘇山は約30万年前から9万年前にかけて大規模な噴火が4回あり、地下から多量の火砕流や火山灰を放出したため、カルデラと呼ばれる巨大な窪地を作っています。

中でも、4回目の9万年前の噴火(ASO4)が最も大きく、火砕流は九州中央部から山口県まで達し、火山からの噴出物は600立方キロメートルと非常に多く、火山灰は日本全国だけでなく朝鮮半島からロシアの沿海州まで広がっています。北海道東部でも10センチメートルの灰が降ったとの調査もあります。

巨大な噴火によって多量の火山噴出物が広範囲に、数時間から数日のうちに降り積もりますが、そのときの噴火によって火山ガラスや鉱物の組み合わせが違いますので、大噴火であれば、あとから、どの火山噴火によるものなのかを容易に推定できます。このため、離れた場所の地層から同じ火山からの噴出物がでてきたときには、これらの地層は同時期にできたといえます。ASO4は、大量の火山灰が日本全国に降り注いだことから、植物学や考古学でなどの研究では、時代を表す指標として使われています。つまり、地層からASO4の火山灰がでてきたら、その地層は9万年前の地層であることがはっきりします。

阿蘇山だけでなく、鬱陵島や白頭山から飛来した火山噴出物も、図2で示す範囲に飛来しています。

火山灰を分析して白頭山のものであるとわかればその地層は約1000年前の地層ということができます。また、鬱陵島のものであるとわかればその地層は約1万年前の地層ということができます。

図2 阿蘇山と鬱陵島と白頭山からの噴出物の範囲
図2 阿蘇山と鬱陵島と白頭山からの噴出物の範囲

白頭山の監視体制が心配

日本およびその周辺地域では、過去にピナツボ火山の噴火と同規模以上の大規模な噴火を何回も経験しています。ただ、何回もといっても、地球の歴史という人間が考えている時間より、かなり長い時間、一万年単位の時間の話です。

ただ、今から約1000年前の平安時代中期、949年から989年頃に朝鮮半島北部、中国との国境に位置する白頭山が大噴火しています。

同規模の噴火である韓国・鬱陵島が約1万年前、これより規模が大きい噴火である阿蘇山の大噴火が9万年前であることを考えると、白頭山の噴火は、かなり最近のできごとということになります。しかも、北朝鮮北東部のブンリケにある核実験場から遠く離れていない火山です。

このため、白頭山は厳重な監視体制が必要な火山なのですが、北朝鮮は西欧諸国との接触をさけ、情報公開が遅れている国で、どこまでの監視体制をとっているのか心配になります。

ただ、そうはいっても、北朝鮮・英国・中国の研究者からなる多国籍研究チームが観測を行って論文も発表されていますので、白頭山観測の重要性は認識していると思われます。

図1の出典:饒村曜(2013)、PM2.5と大気汚染がわかる本、オーム社。

図2、表の出典:饒村曜(2015)、火山、成山堂書店。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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