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防災上の雨は総量で考える 「50ミリの深さの雨」は「100メートル四方につき500トンの雨」

饒村曜気象予報士
少ないように見えるけど なんと ほんとは…

梅雨のない北海道を除いて全国的に梅雨に入り、大雨警報など雨に関する情報に注意する季節となりました。

今日14日(火)は梅雨前線が南下し、沖縄地方は豪雨となっていますが、その他の地方では、雨は一休みのところが多くなっています。明日15日(水)は、梅雨前線が北上してきますので、全国的に雨のところが多くなりますので、雨に関する情報の入手に努めて下さい(図1)。

図1 予想天気図(15日21時の予想)
図1 予想天気図(15日21時の予想)

雨に関する情報のなかで、例えば、「1時間に50ミリの雨が降る」とあったら、防災上は、「50ミリの深さの雨」とは考えずに、「総量が100メートル四方につき500トンの雨」と考えて行動をとることが、あなたの命を救います。

雨量計の仕組み

雨量計は、水平な面に溜まった雨水の深さをミリメートル単位で測ります。一般には「5ミリメートルの雨」といわずに、「5ミリの雨」といいます。

雨量の観測には、これまで直径20センチメートルの円筒形の筒を地面に鉛直に置いて、降った雨をなかにある貯水びんに溜め、その雨量を、雨量升で測って雨量を求めていました(図2)。

図2 雨量計
図2 雨量計

現在では、転倒升を使った雨量計を用いて、自動的に雨量を観測しています(図3)。これは、日本庭園にある「ししおどし」と同じ原理で、0.5ミリメートルに相当する雨が溜まったら、バランスが崩れて升が傾き、雨水をこぼします。この雨水をこぼすごとに、傾いた升がスイッチを押し、その数が記録されます。たとえば、5回スイッチが入ると、2.5ミリメートルの雨になります。

屋外において、長期的に、無人で、正確な雨量観測が出きることから、アメダスに用いられている雨量計をはじめ、現在、ほとんどの雨量計が転倒枡型雨量計です。

図3 転倒升型雨量計
図3 転倒升型雨量計

防災上の雨は水の総量で考える

1ミリの雨というと、少ないような印象を受けますが、1ミリの雨に相当する水は、かなりの量で、地面がしっかりぬれます。1坪(畳2枚の広さで3.3平方メートル)に「1ミリの雨」相当する水は、ビールびん5本分にもなります。たとえば、10坪の庭に「1ミリの雨」に相当する水をまくには、ビールびんで50本分が必要です。

1ミリの雨でも、水の総量となると、人間の生活では相当な量となります。

それが、大雨警報発表時には、1時間に50ミリも、80ミリも降ってくることがあるのです。

気象警報や気象情報のなかで、「50ミリの雨が降る」というと、「5センチの水溜りができる雨」とイメージする人がいます。確かにその通りなのですが、これを雨の総量で考えるとイメージが変わります。防災上の雨は水の総量で考えるべきです。

例えば、50ミリの雨が100メートル四方に降ったとすると、降った雨の総量は、1立法センチメートルを1グラムとして、500トンになります。

10000センチメートル×10000センチメートル×5センチメートル×1グラム

=500000000グラム=500000キログラム=500トン

100メートル四方で500トンですから、周囲より低い土地では、あっと言う間に周囲から大量の水が集まってきます。

それも、多くの場合、100メートル四方より広い範囲で降った水が、周囲より低い土地に集まってきます。「5センチの水が来る」のではなく、「500トンをはるかに超える水が襲って来る」のです。

雨の強さの予報用語

気象庁の予報用語では、1時間に50ミリ以上で80ミリ未満の雨を「非常に激しい雨」、80ミリ以上の雨を「猛烈な雨」となっています(表)。

表 雨の強さの予報用語
表 雨の強さの予報用語

この予報用語の定義は、21世紀になってから使われているものですが、それまでは、30ミリ以上で50ミリ未満の雨が「非常に激しい雨」で、50ミリ以上が「猛烈な雨」でした。強く降る雨の回数が増えてきたことが、雨の強さの予報用語の基準が引き上げられた一つの要因と思われます。

図4は、アメダスの観測地点数の増減の影響をなくするため、観測地点1000地点当たりの「猛烈な雨」の発生回数で表示してあります。年によって発生数の増減がありますが、平均すれば、近年増える傾向にあります。

図4 「猛烈な雨(1時間に80ミリ以上の雨)」の発生回数
図4 「猛烈な雨(1時間に80ミリ以上の雨)」の発生回数

梅雨の季節です。気象災害を最小限に抑えるために必要なことは、気象情報の入手に努め、油断することなく対策をとると思います。50ミリの雨は5センチの雨ではなく、非常に危険な雨なのです。

タイトル画像と図1、図2の出典:饒村曜(1999)、イラストでわかる天気の仕組み、新星出版社。図3の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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