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梅雨末期でなくても大災害に警戒、西日本大水害(昭和28年)の例がある

饒村曜気象予報士
ゲリラ豪雨(写真:アフロ)

梅雨前線が活発になり、九州北部地方では雷を伴なった非常に激しい雨が降る見込みです。この激しい雨は、明日25日にかけ、西日本から東日本へ広がる見込みです(図1)。

図1 予想地上天気図(6月25日9時の予想、気象庁HPより)
図1 予想地上天気図(6月25日9時の予想、気象庁HPより)

梅雨末期豪雨という言葉があるように、梅雨末期には激しい雨が降って大災害が発生することが多いのですが、昭和28年の西日本大水害のように梅雨末期でなくても激しい雨が降り、大災害が発生することがあり、より一層の警戒が必要です。

西日本大水害の別名

図2 西日本大水害時の地上天気図(昭和28年6月26日9時)
図2 西日本大水害時の地上天気図(昭和28年6月26日9時)

昭和28年(1953年)の梅雨は、九州北部では5月25日に梅雨入りし、7月20日に梅雨明けとなっています。

梅雨中期の6月25日から6月29日、西日本、特に九州地方北部を中心に梅雨前線による豪雨が発生しました。

熊本県で537名、福岡県で236名が死亡するなどの大きな被害がでています(「福岡警察管区本部」による)。

この水害に対し、気象庁では名称をつけていませんが、一般的には「西日本大水害」と呼ばれています。また、熊本県では「白川大水害」または「6.26水害」、北九州市では「北九州大水害」など、地域によっては別の名前で呼ばれることもあります。

6月25日から29日にかけての総降水量は,阿蘇山や英彦山を中心に山岳地帯では1,000ミリを超え、平野部でも門司646ミリ、福岡621ミリ、佐賀591ミリ、大分713ミリ、下関529ミリを観測しています。

このため、筑後川や白川など九州北部のほとんどの河川が氾濫し、九州北部から四国地方にかけて死者・行方不明者1013名、住家被害3万棟、浸水45万棟、被災者が約100万人という大災害が発生しました。

熊本県の被害を拡大させた阿蘇山噴火

熊本県で被害が拡大したのは、この年の4月28日に阿蘇山が大規模な爆発をし、大量の火山灰が白川上流に堆積していたことがあげられます。その火山灰が豪雨で流出して白川に流れ込み、その白川が氾濫して熊本市域の6割に火山灰を含む土砂を流入させたからです。

白川は下流域で高低差が小さくて蛇行しているために潮汐の影響を受けやすい河川ですが、このときは島原湾の満潮時刻と重なったために白川を通じての排水がしにくくなり、熊本市内の湛水は長引いています。

西日本大水害による筑後川の洪水は、明治22年(1890)の洪水,大正10年(1921)の洪水と並んで筑後川三大洪水と呼ばれています。

また、山の斜面を切り崩したところに中心街が発達していた山口県門司市では、背後の山で山崩れ・崖崩れが起こり、門司市役所(現門司区役所)の裏手にある大池が決壊して、その濁流が関門海底トンネルに流れ込んだため、関門トンネルは7月半ばまで不通になっています。

熊本地震後なので特に警戒

九州北部では,治水事業の進展もあって西日本大水害のような大規模な災害は発生していませんが、平成21年7月の中国・九州北部豪雨や平成24年7月九州北部豪雨では、西日本大水害に匹敵する大雨が降り、中小河川の水害や崖崩れで多数の死者がでています。

しかも、今年は、4月に発生した熊本地震により、地盤が弱くなっています。

例年より災害が起きやすくなっている場所が多くなっていますので、「記録的短時間大雨情報」などの気象情報の入手に努め、厳重な警戒が必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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