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東北を襲う台風10号と日本海の低気圧を結ぶ長大な危険な雲

饒村曜気象予報士
気象衛星ひまわりから見た台風10号(8月29日17時20分 提供ウェザーマップ)

台風10号が東北地方に向かっており、宮城県の東部仙台では30日15時~18時に暴風域に入る可能性が80%を超えています(図1、図2)。

台風10号が接近し、台風周囲に雲域がかかると大雨となりますが、台風10号からの気流と、日本海にある低気圧からの気流が合流しているところにできる、非常に細長い帯状の雲域がかかるところでも大雨となります。

図1 台風の進路予報(8月29日15時)
図1 台風の進路予報(8月29日15時)
図2 暴風に入る確率(8月29日15時)
図2 暴風に入る確率(8月29日15時)

帯状の長大な雲

気象衛星が登場してから分かったことですが、台風と台風(熱帯低気圧、低気圧)の間で非常に細長い帯状の雲域ができることがあり、この雲がかかるところで大雨となることがあります。

気象庁では、昭和43年8月からアメリカの軌道気象衛星(「エッサ」など)の画像を受信し、日々の天気予報業務に使っています。静止気象衛星「ひまわり」を打ち上げ、本格的に宇宙から観測を始める9年前の話です。

アメリカの軌道気象衛星の画像を使いはじめると、すぐに、これまで知られていなかったパターンの豪雨が見つかりました。南北に二つの熱帯低気圧(台風)があるとき、その間に、この二つの熱帯低気圧を結ぶように、細長い帯状の雲が現れるときの豪雨です。

この帯状雲が長時間継続し、その帯状雲が動かずに1カ所に留まると、そこでは記録的な雨量となります。

昭和43年8月17日に発生した飛騨川豪雨、その6年後の昭和49年7月7日に発生した七夕豪雨がそれにあたります(図3)。

図3 飛騨川豪雨や七夕豪雨の大雨パターン
図3 飛騨川豪雨や七夕豪雨の大雨パターン

宇宙からの観測で、大雨をもたらす雲の様子が詳細にわると、予報技術が飛躍的に向上しました。そして、昭和52年になると、静止気象衛星「ひまわり1号」が打ち上げられ、その後も機能が進化した後継機が順次に打ち上げられています。

平成27年9月上旬にも、日本海にある台風18号から変わった低気圧からの気流と、三陸沖を北上している台風17号からの気流が合流して南北方向にのびる雲の帯ができています(図4)。そして、関東北部から東北南部を中心に、「平成27年9月関東・東北豪雨」と命名されるほどの大雨被害が発生しています。

図4 気象衛星ひまわり(平成27年9月9日9時 提供:ウェザーマップ)
図4 気象衛星ひまわり(平成27年9月9日9時 提供:ウェザーマップ)

台風10号の雨域

台風10号から伸びる帯状の雲による豪雨は、近畿地方から東海地方へと移動していますので、帯状の雲がかかっているところでは豪雨となっているものの、いまのところ、記録的な豪雨となっていません。

しかし、東から北日本では、台風本体の雨が来る前の大雨です。

このため、大雨で地盤が緩んでいるときに台風の大雨が加わります。

特に、山岳部では海からの強風が吹き付け、強制的に上昇気流が生じで降雨が強まりますので、厳重な警戒が必要です。

図5 ひまわりの可視画像(8月29日15時)
図5 ひまわりの可視画像(8月29日15時)

台風10号が東北地方に直接上陸した場合は、台風の統計をとり始めた昭和26年以降では初めてのケースとなりますが、103年前に東北地方に直接上陸した台風があります。

今から103年前の大正2年(1913年)8月 27日朝9 時、台風が関東の南海上に達し、その後急速に加速して三陸地方に上陸、北海道南部を通って日本海北部に達しています。このとき、宮城県の松島湾やその周辺で大きな高潮被害が発生しています。

仙台新港の満潮時刻は15時18分と、台風10号の接近時と満潮時刻が重なる可能性がありますので、高潮にも警戒が必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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