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台風16号が東シナ海を北上 晴れたおだやかな日の海の事故

饒村曜気象予報士
波(写真:アフロ)

非常に強い台風16号が沖縄県の与那国島付近を通過し、東シナ海に入りました。与那国島で、最大瞬間風速が毎秒66.8メートルを観測するなど、台風周辺は大荒れとなっています。

台風は上空を吹く風によって流されますが、台風16号の上空には強い流れのがありません。強い偏西風が吹いている緯度まで北上して加速となりますが、そのタイミングがいつになるのかが難しい予報です。このため、台風の進路がなかなか定まらず、昨日までの進路予報の予報円はかなり大きいものでした。そして、現在の予報円も大きいままです(図1)。

台風襲来は三連休中か、それとも、三連休明けか、最新の台風情報でチェックし、予定を臨機応変で変更する必要があります。そして、台風から離れた、晴れた穏やかな海岸でも、海辺は注意が必要です。

図1 台風の進路予報(平成28年9月17日15時)
図1 台風の進路予報(平成28年9月17日15時)

海の事故の大半は体の多くが水につからない行為

毎年、全国で700~900人が水難で亡くなったり、行方不明になっています。

警察庁によれば、平成27年に全国で発生した水難は1450件で、死者・行方不明者が791人となっていますが、このうち、半分が海であり、しかも、魚取りや魚釣りなど、体の多くが水につからない行為でおきています(表)。

つまり、台風接近にもかかわらず遊泳していたなどの事故より、海辺で思いがけない波にまきこまれたという事故のほうが多いのです。

表 水難による死者・行方不明者の場所別、行為別に分けた死者・行方不明者(2015年、警察庁による)
表 水難による死者・行方不明者の場所別、行為別に分けた死者・行方不明者(2015年、警察庁による)

こわい「うねり」

海の波(波浪)は、「風浪」と「うねり」が重なったものです。風浪は、海面を風が吹く風によって直接起こされた波で、波が進むスピードより風が強いと、波は風は押されて発達を続けます。発達している風浪では個々の波は不規則で尖っています。強い風の場合、しばしば目波が立ちます。一方、ある海域で発生した風浪が他の海域に伝わっていった波や、風浪を起こしていた風が弱まった後に残された波を 「うねり」です。風浪に比べて波は規則的で波で丸みをおび、波長も長くなっています。

風が強いときに大きくなる風浪と違って、うねりがやってくる時は風が弱いために油断しがちですが、実は、うねりは危険な波です。波は水深が浅くなると海底の地形の影響を受けて、海岸付近では波高が高まって波形が険しくなって砕けやすくなったり、岬付近では波が集中して局地的に波が高くなったりするなど複雑なふるまいをします。これらの変化は、うねりのような波長の長い波ほど大きくなります。

平成14年の台風22号のうねり

図2 平成14年の台風22号の経路
図2 平成14年の台風22号の経路

平成14年の台風22号は、最盛期で985ヘクトパスカルという台風で、10月13日に日本の東海上をかなり離れて北上しました(図2)。しかし、東北から九州の太平洋側にかけての広い範囲で、堤防を歩いていた人や釣り人が高波にさらわれる、あるいは釣り舟などが転覆するという事故が相次ぎ、8名が死亡したり行方不明になっています。

図3 平成14年10月13日9時の地上天気図
図3 平成14年10月13日9時の地上天気図

これは、台風からの周期の長いうねりがはいり、海底地形によってさらに波高が高まったためですが、13日が3連休の中日の日曜日であったことから多くの人が海辺にでかけ、台風がかなり離れて通過したため好天で、風も弱かったことから波に対する警戒がおろそかになったといわれています(図3)。

このような残念な事例は、めずらしくありません。

荒天のときには警戒をすると思いますが、

好天で休日の時に、台風のうねりが入っているときには注意が必要です。

台風16号の波の予想

図4 沿岸波浪図(平成28年9月18日9時の予想、気象庁HPより)
図4 沿岸波浪図(平成28年9月18日9時の予想、気象庁HPより)

18日の午前には、台風16号の周辺では8メートル以上の波の予報ですが、西日本の太平洋側沿岸でも1.5メートル以上の波の予報となっています(図3、西日本の沿岸にある点線が1.5メートルの波を示す等値線)。

波の高さを表すとき、気象庁では、特に断っていませんが、有義波高を用いています。これは、押し寄せる100の波のうち、高い方から33の波を選び、その高さを平均したものです。海を見たときに感じる波の高さに対応するとされていますが、高い方から33の波の平均ですので、一番高い波は、有義波高の1.5倍、あるいは、それ以上のこともあります。

つまり、1.5メートルの予想ということは、時には、2メートルを超す波も混じっているということですので、魚とりや魚釣りを安全に行うために、ライフジャケットや、スパイクブーツを着用するなどの注意が必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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