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震度5弱以上の地震が今年は31回、強い地震の発生回数が増えたのは震度計設置の急増も影響

饒村曜気象予報士
神戸港震災メモリアルパーク(ペイレスイメージズ/アフロ)

近年、大きな地震の発生回数はかなり増えている印象があります。

日本付近の震度5以上の地震の発生回数の年変化

気象庁のホームページに、日本付近の地震の「震度データベース検索」のページがあります。

これから、大正12年(1923年)以降の震度5以上の回数(平成8年以上は震度5弱以上)を調べてみると、昭和57年(1982年)までの60年間で一番多かったのは関東大震災のあった大正12年の21回です。大きな地震があった年は、大きな余震もありますので回数が増えます。次いで北伊豆地震があった昭和5年の14回、松代群発地震のあった10回となりますが、ほとんどが一桁の、それもほとんどが0~3回です。

しかし、兵庫県南部地震以降の約20年間では、平成23年(2011年)3月11日に東日本大震災を引き起こした大地震があった平成23年の71回をはじめ、10回以上の年が9年もあります(表1)。

今年も、4月14~16日の熊本地震で震度6弱以上が7回、6月16日の北海道南部の内浦湾の地震で震度6弱、10月21日の鳥取県中部の地震で震度6弱など、震度5弱以上の地震が31回も観測されています。

表1 震度5以上の回数(1983~2016)
表1 震度5以上の回数(1983~2016)

多くの人が地震の急増を感じている理由の一つは、平成7年(1995年)1月17日の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降に、大きな地震が増えていることもありますが、震度を測る震度計が開発され、その震度計の設置が兵庫県南部地震以降に急増したことも大きな要因です。

震度は昔からの地震の物差し

震度は揺れを測る計器がなかった時代に、地震を計るために、物体や建物への影響をもとにつくられた物差しです。

日本の震度は、明治17年(1884年)から採用された、地震学者の関屋清景氏が提唱した方法である、地震を微震、弱震、強震、烈震の4つに分類したものが基本になっています。これらは、人間が感じた揺れがもとになっています。

微ハ僅ニ地震アルヲ覚エシモノ、

弱ハ振動ヲ覚ユルモ戸外ニ避ルニ至ラザルモノ、

強ハ往々物品ノ倒伏液体ノ溢出等アリ 人々戸外ニ走り避ルモノ、

烈ハ屋宇ヲ致損若クハ倒伏シ或ハ地面ニ変化ヲ起スモノナリ。

出典:明治17年頃の地震報告心得の第5条

福井地震から震度7

地震計の観測体制ができた明治37年からは、人間は感じないものの、地震計が感じる微小な地震を「無感」として新たに加え、「弱震」と「強震」をそれぞれ「弱い方」「強い方」の2つに分けています。

昭和11年(1936年)からは、一番弱い震度である「無感」を「震度0」、一番強い震度である「烈震」を「震度6」と、7つの階級に分けています。

震度7の激震が作られたきっかけは、昭和23年(1948年)の福井地震で、これまでの烈震という表現の被害程度をこえた被害が発生したためです。

福井地震の翌年からは震度6の烈震のうち強いものを震度7の激震としています(表2)。

この激震が最初に観測された地震というのが兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)です。

表2 震度の移り変わり
表2 震度の移り変わり

体感から震度計で観測

体感で行っている震度の観測は、いくら訓練を受けた観測者が観測しても、客観性の問題があると強く指摘されていました。また、体感で震度を発表する以上には、速報性には限界がありました。

地震波の大ききを加速度で表現することがあります。この場合は、近代科学の父とも呼ばれるイタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイに由来する ガル(gal)という単位が使われます。この加速度と震度が対応しているのではないかという研究が行われ、

震度3は8~25ガル、

震度4は25~80ガル、

震度5は80~250ガル、

震度6は250~400ガル、

震度7は400ガル以上

と大まかな目安が使われたこともありました。

しかし、加速度が大きくても震度が小さくて大きな被害がない事例があり、加速度だけから震度を推定するのは無理だと分かり、特別な使用目的がある場合を除いて、この目安は使われなくなりました。

その後の研究により、震度は、加速度と地震波の周期に関係していることが分かり、これらの研究の成果から計測震度計と呼ばれる震度計がつくられました。

気象庁では平成3年(1991年)より震度計による震度の観測を始めました。そして、しばらくは、震度計と体感での観測が併用されました。

兵庫県南部地震の神戸の観測は、体感ではなく、震度計での観測です。神戸海洋気象台の国際地点番号は47770ですので、図1の5行目の「47770 K6」は「神戸で震度6」ということを示しています。なお、このとき、洲本測候所で観測した「震度6」は震度計が地震で故障したため体感での観測です。

図1 神戸海洋気象台の計測震度計の記録
図1 神戸海洋気象台の計測震度計の記録

震度6という地震を、神戸で経験しましたが、その時、私だけでなく多くの人が身体がいつも揺れているような錯覚に陥っていました。もし、計測震度計が無かったなら、あの混乱の中、17日午前中だけでも509回もあった余震の震度を、体感で正確に観測し続けるのは難しかったと思います。

兵庫県南部地震での計測震度計の問題

兵庫県南部地震が発生すると、

震度の基準は100年にわたって使われてきたために、現在の生活水準とは合わない表現がみられる

震度7は(木造)家屋の倒壊が30%以上の地域であるという基準のため現地調査をしないと分からないので速報ができない

などという問題がでてきました。

震度7のような激しい揺れがおきるのは、非常に狭い範囲です。兵庫県南部地震のときの震度7は、図2のような分布をしていますが、当時、この図の範囲内で震度を観測していたのは、神戸市中央区にある神戸海洋気象台、洲本市にある洲本測候所の2カ所だけで、ともに震度6を観測しましただけです。

図2 兵庫県南部地震の震度7の分布
図2 兵庫県南部地震の震度7の分布

図2は、気象庁、大阪管区気象台、神戸海洋気象台など150名による大がかりな現地調査の結果、地震発生から約2週間後の、2月7日に発表したものです。神戸市では、中央区と兵庫区の境目付近で切れており、気象台での観測は「震度6」です。翌年から「震度6」が「震度6弱」と「震度6強」に分けられていますが、その基準でいえば、「震度6強」でした。

気象台の場所は、丈夫な岩盤が南に張り出している場所で、正確な地震波を記録できました。この資料はフロッピーディスクなどの磁気媒体に収められ、震動を入れて建物の揺れを模擬計算する「動的解析法」に使われています。

増えた計測震度計で震度7の速報

兵庫県南部地震後、すぐに神戸市で計測震度計の増設が行われました。神戸市では気象台のある中央区を除く全ての区に計測地震計が増設されました。当初計画では、気象台近くの兵庫区への設置がないなど、全ての区での設置ではなかったのですが、設置のない区の住民からの強い要望があったことからの計画変更です。

その後、神戸市以外の自治体も住民の強い希望から、気象庁が導入している計測震度計と同じ計測震度計を導入しています。

気象庁と同じ計測震度計となった理由のひとつは、住民等から急いで導入して欲しいとの強い要望があったために、十分な検討時間がないことから、実績のあった気象庁のものを採用したからと言われています。

今では、全ての市町村に1カ所以上の震度計があります。兵庫県南部地震以前は、全国で約200ヵ所の気象台等にしか震度計はありませんので、兵庫県南部地震以降は、震度計の数が数10倍になっています。

そして、そのデータは気象庁に集められています。このため、速報で震度7の情報が出ていますし、昔であれば見逃されていた狭い範囲の強い揺れにとる大きな震度も速報されます。

このため、印象として、震度5弱以上の強い地震が急増したように感じるのです。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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