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今打ち上げる「ひまわり9号」の運用開始は平成34年、それまでは…

饒村曜気象予報士
種子島(ペイレスイメージズ/アフロ)

11月2日、鹿児島県の種子島宇宙センターから国産の「H2A」31号ロケットで静止気象衛星「ひまわり9号」が打ち上げられ、6年後の平成34年から観測運用の予定です。それまでは、「ひまわり8号」の予備機として待機運用です。

当初は、11月1日15時20分から18時10分の間に打ち上げ予定でしたが、1日延期となったのは、前日の種子島地方は、気圧の谷の通過によって強風や雷の可能性があり、打ち上げ準備ができない可能性があったからです(図)。

図 平成28年10月31日21時の地上天気図)
図 平成28年10月31日21時の地上天気図)

11月2日16時追記:

静止気象衛星「ひまわり9号」は、種子島宇宙センターから2日15時20分に打ち上げられ、打ち上げは成功しました。

定期的に「ひまわり」を打ち上げ

日本初の静止気象衛星「ひまわり」は、昭和52年(1977年)7月14日にアメリカ航空宇宙局(NASA)の手で、フロリダ州ケープカナベラルが打ち上げられました。当時、日本最大のロケットの推力では、約300キログラム(軌道上の初期の重さ)の「ひまわり」を宇宙空間に運ぶことができなかったからです。その後種々のテストが繰り返され、初めて画像をおくってきたのが同年9月8日12時の可視画像です。

静止気象衛星「ひまわり」の本運用は翌53年4月6日ですが、その後、衛星の寿命が終わる直前に、機能が向上した新しい衛星が打ち上げられています(表)。

表 歴代のひまわり
表 歴代のひまわり

設計寿命から「ひまわり」は、定期的に打ち上げないと連続して観測を続けることができないからです。

昭和56年に「ひまわり2号」が、昭和59年に「ひまわり3号」が打ち上げられていますが、「ひまわり3号」からは、日本で重量350キログラムの静止気象衛星を打ち上げる能力を持つロケットが開発されたため、種子島宇宙センターからの打ち上げにかわります。

「ひまわり4号」、「ひまわり5号」と順調に観測が継続されてきましたが、「ひまわり6号」で観測継続の危機がおきます。「ひまわり6号」が、平成11年11月15日の打ち上げに失敗したためですが、このときは、「ひまわり5号」の延命措置とアメリカの中古衛星「ゴーズ9号」借用(アメリカ西海岸上空から西へ移動させて利用)で何とか継続させています。

平成17年2月26日に「ひまわり6号」が打ち上げられて「ゴーズ9号」の観測を引き継ぎ、翌年に打ち上げられた「ひまわり7号」が「ひまわり6号」のバックアップになっています。これは、気象衛星の重要性が増し、長期間の欠測を避けるためで、正確に言うと、平成18年9月4日以後は、「ひまわり」は2機体制の運用となっています。片方が観測運用中のとき、他方が待機運用中となるわけです。

20億人以上が恩恵を受けている「ひまわり」

静止気象衛星「ひまわり」は、今では、日本の天気予報業務や防災業務に不可欠なものになったいます。

それだけでなく、「ひまわり」の観測結果はアジア太平洋諸国にも提供され、現地の気象予報に役立っています。

つまり、「ひまわり」の恩恵を受けている人は20億人以上もいるのです。

長期間の欠測は、国際問題になります。

世界で初めてカラー撮影の「ひまわり8号」

平成26年10月7日に、防災のための監視と地球環境の監視機能強化を目的に打ち上げられた「ひまわり8号」は、世界で初めてカラー撮影が可能な静止気象衛星で、約2ヶ月後の12月18日にカラーで撮影した地球の画像を送ってきています。

可視光領域の青、緑、赤の3つの波長で観測を行い、それを合成することで、人が宇宙から地球を見た場合に似た「カラー画像」を作成しています。

これまで、衛星画像に色がついている場合がありますが、わかりやすいようにコンピュータ処理で色を人為的にいれたもので、実際の観測ではありません。

「ひまわり8号」は、それまでの「ひまわり7号」に比べると、搭載している放射計の数が5から16に増え、解像度も半分になってより細かい観測が可能となっています。

例えば、台風付近を2.5分毎の観測することで台風の周辺で積乱雲が発達している様子や、台風の目の中で雲が渦を巻いている様子まで、詳細に観測できます。

また、カラー観測になったことにより、台風や集中豪雨の監視や予測という防災業務に貢献することに加え、細かい黄砂や火山の噴煙などの監視でも今まで以上に有用であると考えられています。

「ひまわり9号」は待機運用に

平成28年11月2日に打ち上げの「ひまわり9号」は、「ひまわり8号」とほほ同程度の機能を持ったもので、観測運用開始は6年後の平成34年からです。それまでは「ひまわり8号」が故障した時に備えての待機運用です。

そして、現在、現役をおえた後も待機運用中であった「ひまわり7号」が、完全に引退します。

平成34年から次の衛星打ち上げまで、今回打ち上げた「ひまわり9号」が観測運用となり、「ひまわり8号」が待機運用となります。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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