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多くの地方で一番寒いのは立春の頃、オホーツク海沿岸は流氷でもう少し後

饒村曜気象予報士
流氷とガリンコ号(ペイレスイメージズ/アフロ)

暦の上では2月4日が立春、寒が明けて長い冬が終わる日ですが、日本のほとんどの地方では、この頃が一年で一番寒い頃です

今日は暖かくなっていますが、立春は温かさの目安ではありません。

気温が低い日と長くなる日中の時間

「理科年表2017」をもとに国内の81地点において、観測開始以来の最低気温の極値がいつ出現したのかをまとめると、立春以降に出現した地点が35地点、全体の43%もあります(表1)。

表1 日本国内81地点の最低気温の極値の出現時期
表1 日本国内81地点の最低気温の極値の出現時期

寒さの極値は1月下旬が一番多いのですが、立春をすぎてから寒さのピークとなる地点がかなりあります。

文言通りに「立春のころに寒さと別れる」とは、なっていないのです。

立春の頃の春を「光の春」ということがあります。

気温は暖かいとは言えないのですが、冬至の頃に比べると1時間くらい日中の時間が長くなっているからです。

例えば、「理科年表2017」によると、東京では、冬至(12月22日)の日出は6時47分で、日入は16時32分と昼間の時間が9時間45分しかありません。

その後、若干日出が遅くなりますが、日入りも遅くなって昼間の時間が徐々に長くなり、立春の昼間の時間が10時間32分になります(図1)。

図1 東京の日出の時刻
図1 東京の日出の時刻

夜明けが早まり、夕暮れの訪れが遅くなってきたのを、日毎に実感できるのが立春の頃です。

気温が低いことはあっても、「光の春」が暖かさを伴った春の到来が近いことを感じさせるのが立春です。

寒さについての辛抱は、あとわずかで解消です。

東京の今冬の日々の平均気温も、平年より高い日や低い日を繰り返していますが、そろそろ寒さの折り返しです(図2)。

図2 東京の今冬の日々の平均気温
図2 東京の今冬の日々の平均気温

オホーツク海沿岸

日本のほとんどの地方では、立春の頃が一年で一番寒いのですが、オホーツク海沿岸は、立春より少し後ろです。

これは、オホーツク海の冬の風物詩、流氷によるものです。

海面が流氷に覆われていると気温が低くなります。

海面が凍っていなければ、海水温はマイナス2度以上あり、寒気がきて海の表面を冷やしても、表面の冷たくなった海水は密度が高くなって沈み、相対的に暖かい海水が上昇してくるからです。

このため、氷に覆われていない海の沿岸付近の気温は、内陸ほど低くはならなりません。

しかし、流氷が接岸すると事態は一変します。海水の熱が大気に伝わらなくなり、海が大陸と同じ状態になるため、寒気がくればそのまま地表面が冷やされることになります。

海氷面は地面や海水面に比べ太陽光をより多く反射しますので、太陽が照っていても暖まりにくいということもあります。

また、海面が流氷に覆われていると日照時間が長くなります。これは、海面からの水蒸気の補給が無くなるため雲が発生しにくくなるからですが、このことは、夜間に放射冷却によって地表面の熱が奪われやすくなることにつながります。

こうして、オホーツク海沿岸の寒さのピークは、他の地方に比べて遅くなります。

今冬の流氷

今年は、1月25日に稚内地方気象台から稚内で沖合いに流氷が見えたとして「流氷初日」の発表がありました。昨年より38日、平年より19日も早い流氷初日です。

また、網走地方気象台から、1月31日に網走の流氷初日が、2月2日に流氷が今冬初めて接岸したという「接岸初日」の発表がありました。接岸初日は平年並ですが、昨年よりは20日早い接岸です。

オホーツク海沿岸の流氷は、立春の少し前から始まって3月中旬から3月下旬までです(表2) 。

表2   流氷に関する平年値
表2 流氷に関する平年値

なお、稚内と網走の間のオホーツク海沿岸には、北見枝幸測候所と雄武測候所が平成16年まで、紋別測候所が平成19年まで流氷を観測していましたが、現在は無人化となって流氷の目視観測を行っていません。

また、稚内は流氷接岸の年が少ないので流氷接岸の平年値、接岸した流氷が沖合いに去って見えなくなる「海明け」の平年値はありません。

流氷と気象とには深い関係があります。

北海道の代表的な空港である女満別空港は、もともとは、昭和10年に流氷観測のために作られた女満別中央気象台空港です。

現在の流氷観測は、気象衛星「ひまわり」などの人工衛星よるにる宇宙からの観測(図4)と、海上保安庁や海上自衛隊の飛行機を使った観測が中心となっています。

図4 ひまわりの可視画像(平成29年2月3日12時、流氷を見やすく加工したもの)
図4 ひまわりの可視画像(平成29年2月3日12時、流氷を見やすく加工したもの)
気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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