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冬型の気圧配置が強まり日本海側で雪 立ち入り禁止区域での雪崩は、自然災害ではなく人為的な事故

饒村曜気象予報士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

雪崩という現象は、山の斜面の雪が重力の作用によって目に見える速さで崩落する現象のことです。

しかし、雪崩害は、雪崩によって、人、家畜、家屋、施設、交通などに及ぼす災害のことであり、山奥など、人とかかわりがあるところでの雪崩が発生しても雪崩害にはなりません。

雪が降れば程度の差こそあれ、雪崩がおきています。

雪崩による自然災害に対しては、過去の経験などから多くの対策がとられ、被害を軽減する措置がとられています。

しかし、危険性立ち入り禁止区域に入るなどして、雪崩など巻き込まれることがあとをたちませんが、これは自然災害ではなく人為的事故で想定外です。防災関係者等はこれを防げません。

山陰の大雪と日本海寒帯気団収束帯

日本付近は西から冬型の気圧配置(西高東低の気圧配置)となっており、西日本や東日本の上空約5000メートルに、氷点下39度以下という今冬一番の冷たい寒気が流れ込みました。

このため、日本海側では雪となり、特に西日本の日本海側では大雪となっています。

冬型の気圧配置となり、強い寒気が南下すると、日本海に高さが2000から3000メートルの雲が筋状に並びますが、日本海西部では、この筋状の雲が集まって「日本海寒帯気団収束帯」ができています(図1)。

図1 気象衛星ひまわりの可視画像(2月10日14時)
図1 気象衛星ひまわりの可視画像(2月10日14時)

英語のJapan sea Polar air mass Convergence Zoneを略して「JPCZ」と呼ばれることが多い、長さ1,000km程度の雲は、南下してきた寒気が、朝鮮半島北部の白頭山(標高2744メートル)やその周囲の山脈で二分され、それが再び合流することで生じたもので、このJPCZがかかっている鳥取県で大雪となったのです。

JPCZの中では、積乱雲が発達して局地的に強い雪や雷、雹といった激しい天候になることがあり、過去にも、このJPCZが日本海側の地方にかかっているところ、あるいは、脊梁山脈の低い場所を乗り越えて太平洋側の都市部に大雪をもたらしています。

例えば、平成27年1月2日の京都の22センチの積雪、平成26年12月18日の名古屋の23センチの積雪、平成24年2月2日の京都府・舞鶴の87センチの積雪などです。

そして、冬型の気圧配置は、12日(日曜)頃にかけて続くみこみです(図2)。

図2 予想天気図(2月12日9時の予想)
図2 予想天気図(2月12日9時の予想)

このため、日本海側のスキーヤーにとっては、新雪の上を滑走できる魅力的な行動がとれる週末となりますが、同時に、雪崩がおきやすい状態です。このため、気象庁では、雪崩注意報を発表して注意を呼びかけています(図3)。

図3 雪崩注意報の発表状況(2月10日17時29分現在)
図3 雪崩注意報の発表状況(2月10日17時29分現在)

雪崩は、地形、積雪量、降雪量、暖気、雨などに左右され、雪崩の危険性があるということはわかりますが、具体的にその場所を特定することは難しいことです。

気象庁の雪崩注意報は、あくまで、一般的な注意喚起です。

雪崩危険箇所2万箇所には人家がある

国土交通省では、豪雪地帯に「なだれ危険箇所」を定めています。これは、豪雪の被害が予想される区域内で、主に人家が5箇所以上あるところで全国に2万箇所あります。一番多いのは、北海道の約2500箇所、次いで、秋田県と岐阜県の約1600箇所です。

なだれ危険箇所が多い都県

1 北海道 約2500箇所

2 秋田県、岐阜県  約1600箇所

4 新潟県     約1500箇所

5 福井県、鳥取県、兵庫県、長野県 約1300箇所

なだれ危険箇所では、市町村などの行政が巡回を強化し、雪崩の可能性がある場合には、せり出した雪庇(せっぴ)を早めに落として雪崩害を防いでいます。

しかし、これは、人家に影響する場所の話しです。

人家がないところで、雪崩の危険があるところは、もっと、もっと数多くあります。

雪崩を防ぐ対策

人家に影響する場所だけでなくても、私たちの生活に大きな影響を与える雪崩があります。

道路網や鉄道網、スキー場などです。

これらの雪崩被害を最小限とするため、道路や建物付近などで雪崩発生の恐れがある場所には予防柵や、雪崩を直接止めるための防護壁を設置することが行われています。

また、スキー場では、雪崩が起きやすい場所では、監視員が絶えず警戒して雪崩の予兆があったときにはスキー客がその場所に入らないよう規制したりするほか、スキー場によっては、スキー客がいない時間帯に爆薬などを使って人工的に雪崩を発生させ、スキー客が安全にスキーを楽しめるようにしているところもあります。

雪崩と秋田新幹線

高速運行の新幹線を雪崩が直撃すると大きな被害が発生します。

このため、少しでも雪崩の危険性がある場所においては、防護壁などのハード面の対策に加え、監視の強化や速度規制を行っています。

速度が出ていなければ、被害が最小限になるからです。

平成18年(2006年)2月10日10時40分頃、東京発秋田行の秋田新幹線「こまち3号」が秋田県仙北市で線路上に落下した雪崩の雪に突っ込んで停車しています。乗客300人に怪我はありませんでしたが、乗客は5時間半閉じ込められ、その後、代替バスで目的地に向かっています。このとき、6両編成の車両は後ろ2両が雪にうまり、広範囲で除雪が必要になったことから、翌日の秋田新幹線は盛岡と秋田間で運休となっています。

このとき、近くの乳頭温泉郷でも高さ30メートル、幅50メートルの雪崩が発生し、露天風呂の入浴客と除雪作業員が巻き込まれ、1名が死亡し、16名が怪我をしています。

ともに、固まっていた古い積雪のうえに、新たに積もった大雪による雪崩、新雪雪崩(表層雪崩)でした。新雪雪崩は、どこで発生するのかの予想が難しい雪崩ですので、大雪が降ったあとは、いつも雪崩に注意です。

雪崩による事故

自然災害の雪崩については、過去の経験から様々な対策がとられ、被害の軽減がはかられています。

しかし、スキーヤーの中には、立ち入り禁止区域に入り、雪崩などに巻き込まれる人為的事故のニュースが絶えません。この種の事故は想定外で、救いようがありません。

監視員はおらず、「立ち入り禁止の看板」があるだけといっても、自然災害に備えていろいろな対策がとられている上での、立ち入り禁止区域の設定です。

身勝手な行動によって雪崩事故が発生すれば、身勝手な人の命だけでなく、救助隊の命を危険にさらします。

週末は、防災や安全を考えている多くの関係者の指示に従い、安全に雪を楽しんでもらいたいと思います。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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