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花粉は太古からあったが,花粉飛散予報の開始は30年前

饒村曜気象予報士
飛散近づく杉花粉の実(ペイレスイメージズ/アフロ)

日本では春先になると、天気予報などにおいて杉花粉情報が報じられています。

図1 予想天気図(3月8日21時の予想)
図1 予想天気図(3月8日21時の予想)

3月8日は、大きく見れば西高東低の気圧配置ですが、寒気の南下が弱く、等圧線の間隔が広くなっています(図1)。風が弱くて晴れますので、東日本の太平洋側から西日本では花粉が飛びやすくなります。週間天気予報によれば、晴れて風の弱い日が続きますので花粉飛散の多い日が続きます。

3月から4月のカラッと晴れ上がって洗濯物を干したくなるような日が、花粉症の要警戒日です。

図2 週間天気予報(東京地方の場合)
図2 週間天気予報(東京地方の場合)

花粉の飛散予測などの花粉に関する情報は、いろいろな気象業務許可事業者(いわゆる「お天気会社」)が、自治体や大学等と組んで提供しています

それだけ、多くの人が花粉症に苦しんでおり、花粉情報を求めているのです。

一説によるとに、花粉症患者は3000万人以上という説もあり、花粉症は、まさに国民病です。

ただ、杉花粉は太古からあるにもかかわらず、杉花粉が問題となり、一般への花粉飛散予報の提供が始まったのは、今からわずか30年前のことです。

花粉症が増えたのは昭和50年代から

昭和40年代前半は、杉花粉症の患者はほとんどいませんでしたが、45年ころから増え始め、50年代に入ると、すっかり有名な病気になっています。

花粉が原因ではあるのですが、これに、土の地面がコンクリートに変わってゆく都市化現象や車の排ガスなどによる大気汚染、日本人の体質の変化などが加わった現代病といえなくもないと思います。

杉花粉の飛散量は前年の夏の気温に依存

杉花粉を飛ばす雄花は、前年の7〜8月に日射量が多く、気温が高いとたくさんでき、その分だけ翌年の花粉の飛散量が増えます。杉花粉の飛散開始日を地図上に記入したのが杉花粉前線です(図3)。

憂鬱な春をつげるバロメータと感じる人も多い杉花粉前線は、南から北へだんだんと移動します。九州では2月上旬に飛散し始め、3月末には東北地方北部に達します。北海道や沖縄では杉林が少ないので、杉花粉戦線は描かれません。

図3 杉花粉前線
図3 杉花粉前線

花粉対策

目のかゆみや鼻水、くしゃみ等の症状がでる花粉症は、日本人の約2~3割が患者となるほどの国民病となっています。杉やヒノキの花粉は、春に大量に飛散するので、花粉症患者は春に急増します。また、イネ科の植物は初夏から秋、ブタクサ科の植物は真夏から秋口に花粉を飛散させるので、人によっては、秋になると花粉症を発症する人もいます。

花粉対策として個人ができることは、外出時にマスクやメガネを着用し、体内に入る花粉を防ぐことです。また、ウール等の花粉が付着しやすい素材の衣服を着用することを避けたり、家に入る前に衣類や髪についた花粉を叩き落す等、室内に花粉が入らないようにするとともに、加湿器で室内の湿度を高め、浮遊する花粉を減らすことも大切です。

最初の杉花粉に関する情報

一般向けの花粉情報が最初に発表されたのは、今から30年前の昭和62年(1987年)3月9日です。

スギ花粉症対策事業の一環として東京都と日本気象協会が始めたものですが、当時の読売新聞にどのようなものかの説明があります。

花粉情報の基礎となるのは、花粉の飛散数と気温、風の強さなど。都衛生局が前日の午後までに都内三か所で観測したスギ花粉の飛散数を日本気象協会に報告。これを参考にしながら同協会が、翌日の天候や風向き、風速などを勘案して情報を出す。

花粉情報は、都心と多摩地区に分け、報道機関を通じて毎日二回発表されるが、1(やや少ない)、2(やや多い)、3(多い)、4(非常に多い)ーーの四ランクに色分けされ、さらに、翌日の傾向までも報道されると言う。

出典:読売新聞(昭和62年3月7日夕刊)

昭和62年は、厚生省の「植物に起因するアレルギー症の基礎的臨床的研究班」が、全国規模での花粉発生予報の可能性を探るため、初めて地域ごとの花粉の飛散やアレルギー症患者の受診状況を分析した年でもあります。

東京以外でも、様々な形で杉花粉情報の提供が始まり、それが全国規模で、次第に詳細なものに変わり、充実してゆきます。

東北大学医学部の高坂知節教授(50)の研究グループが日本気象協会と協力、今月から仙台市周辺を対象とした翌日の「スギ花粉予報」を発表している。五十八年から積み重ねてきた花粉飛散の調査データ、今年に入ってからの花粉飛散数、翌日の天気予報などを計算式にあてはめ、予測する。その結果は、警戒日、注意日、安定日の三段階に分類される。

天候だけで見ると、日中の気温が十度以上に上がって湿度が低い日は警戒日、逆に気温が下がって雨模様の日は安定日。警戒日にはメガネやマスクをかけるよう呼びかける。大学がこのような予報を出すのは極めて珍しい。

出典:読売新聞(昭和62年3月20日夕刊)

図3の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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