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雪が多い地方の「なごり雪」と、雪が少ない地方の「なごり雪」

饒村曜気象予報士
(写真:アフロ)

「なごり雪」は、雪の多い地方で春になっても消えずに残っている雪という意味と、春に降る雪という意味の2つがありますが、昭和49年に昭和を代表するフォークソング「なごり雪(作詞・作曲:伊勢正三)」を、伊勢正三が属している「かぐや姫」、カバーしたイルカなどが歌ったことによって、春に向かって最後に降る雪のイメージが広がっています。

気象用語では雪の終日

「なごり雪」は気象用語ではありません。対応する言葉は、春に向かって最後に降った雪のことをさす「雪の終日(しゅうじつ)」です。

伊勢正三は、出身地の大分県の津久見駅の情景を想定して、この歌を作ったそうですが、九州北部の「雪の終日」の平年日は、2月下旬から3月上旬ということになります。

今年も、3月8日頃に、一時的に冬型の気圧配置となって寒気が南下し、福岡などで「みぞれ」を観測しましたので、九州北部の山沿いではこれが「なごり雪」だったのかもしれません。

歌詞の「東京を離れる君が見る季節外れの雪は、東京で君が見る最後の雪かもしれない」という意味から、東京の駅が舞台となっていますが、東京の雪の終日の平年日は、3月11日です。

昭和63年4月8日に積雪9センチを観測していますので、終雪の平年日以降に雪が積もることがありますが、3月から4月に降る雪は「落ちては溶ける雪をみていた」という歌詞のように、ほとんどの場合積もりません。

図1 予想天気図(3月15日9時の予想)
図1 予想天気図(3月15日9時の予想)

本州の南岸を低気圧が通過したため、東日本の太平洋側は雨となりました。低気圧は、日本の東海上でこのあと発達し、寒気が南下して西高東低の気圧配置となりますが、南下する寒気が強く、一時的に、低気圧の後ろに小さな低気圧ができてから、西高東低の冬型の気圧配置になります(図1、図2)。

図2 予想天気図(3月16日9時の予想)
図2 予想天気図(3月16日9時の予想)

このため、東京都心でも雪が降る可能性もあり、天気予報は「北の風 やや強く くもり 明け方 まで 雨か雪」で、明日朝の最低気温は3度の予想です。

東京都心では南岸低気圧により雨が降る可能性が高いものの、雪の可能性も残されているということで「雨か雪」という表現ですが、郊外であれば雪の可能性がもう少し高く、「なごり雪」になるかもしれません。

雪の多い地方は「なごり雪」に注意

雪の多い地方では、春になっても消え残ってる「なごり雪」があります。

徐々に溶けてくれれば、春先の農作業に必要な水を供給してくれる恵となりますが、急激に溶ければ、融雪洪水など災害の恐れもあります。

これから、西高東低の冬型の気圧配置になるということは、「なごり雪」の上に新雪が積もることになります。

3月に入りましたが、青森県酸ケ湯で356センチ、山形県肘折で247センチなど(表)、まだまだ「なごり雪」の多い地方があります

表 積雪の深さ(3月14日16時)
表 積雪の深さ(3月14日16時)

雪の多い地方でも、春はすぐそこまできていますが、「なごり雪」なくなるまでは、雪崩や融雪など雪に関する情報に注意が必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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