高気圧に覆われるとPM2.5が上空から地表付近に
大気中の微粒子について、最近「PM2.5」ということがよく言われます。
大気中には自然由来のものや人為起源の様々な微粒子が漂っていますが、この微粒子のうち、粒径2.5マイクロメートル以下の小さなものを「PM2.5」といい、物質の種類は関係ありません。
「PM2.5」は、杉花粉(20マイクロメートル)よりもはるかに小さいのですが、多くは、ディーゼルエンジンや工場等での化石燃料の燃焼で生じる粉塵などの人為起源のものです。
PM2.5の三連休
三連休は、高気圧に被われ、多くの地方で穏やかな晴天となっています(図1、図2)。
低気圧の中は上昇流ですが、高気圧の中は下降流です。
中国大陸で地表付近のPM2.5の濃度が高いと、低気圧などによってPM2.5が上空に吹上げられ、上空の西風に乗って日本上空に飛来します。
そこへ、高気圧が移動してくると、下降流によって地表付近に降りてきますので、地表付近のPM2.5の濃度が高くなります。
日本気象協会などでは、PM2.5の分布予報を行っていますが、これによると、三連休は中国大陸からのPM2.5が日本付近へやってきていますので、環境省や自治体等の情報に注意が必要です(図3)。
粒子状物質は小さいほど危険
大気中の塵を吸い込んだとき、その大きさが4.7~11マイクロメートルの粒子は、鼻腔・咽喉まで、2.1~4.7マイクロメートルの粒子は気管、気管支までしかとどきませんが、PM2.5は肺の奥にある肺胞まで届きます。
肺胞に届いた微粒子は体外に排出されにくいので、肺がんや喘息、心臓疾患などを発症させ、死亡リスクを高めます。
つまり、粒子状物質は小さいほど危険なのです(図5)。
ただ、観測が大変なこともあり、世界の多くの国では長いこと粒径10マイクロメートル以下のPM10を観測していました。研究が進み、PM2.5が問題視されたことから、1990年代後半からPM2.5も大気汚染の指標として使われています。
一般的に言えば、PM10が多ければ、PM2.5も多いと言えますが、各国はより危険性が高いPM2.5を詳しく観測し、対策に役立てようとしています。
日本でPM2.5が着目されたのは
日本でPM2.5が一般の人たちに注目されたのは、平成25年1月~2月に、中国の影響を受けて、日本国内のPM2.5が上昇したときが初めてでしょう。
しかし、この時は、過去に比べて極端に数値が高くなったわけではありません。
それ以前にもPM2.5の濃度が上昇したことがあり、日本におけるPM2.5の環境基準が制定されたのは、平成21年9月です。
このとき制定されたPM2.5の基準は、「日平均で1立法メートルあたり35マイクログラム以下、かつ、年平均で1立法メートルあたり15マイクログラム以下」です。
中国政府を動かしたアメリカ大使館の観測
中国では、北京がある華北を中心として冬季に大気汚染が悪化する傾向があり、大気汚染が原因とみられる白い霧に覆われる日が増え、高濃度の粒子状物質が観測されています。
これは、規制を大幅に上回る車両の増加による渋滞や、河北省や天津にある工場の排ガスの流入などで深刻化した考えられています。
北京のアメリカ大使館は、平成21年(2009)の改築をきっかけとして、独自に1時間毎のPM2.5を測定してインターネット上で公開しています。
中国環境保護部は、平成24年6月5日に名指しはしていませんが、「ある国の大使館が北京市の大気汚染を測定し、発表していることは中国の法律違反をしているので中止すべきだ」という記者発表をしています。
これに対し、アメリカ政府は「中国にいるアメリカ人に対しての情報提供であり、中国の内政干渉をしていない」、「中国がアメリカの大気観測の数値を公表してもアメリカ政府は反対しない」という反論をしています。
中国政府は、はじめは数値を公表せず、「濃い霧」などという情報の提供でしたが、北京市環境保護観測センターでは、北京市の大気汚染の悪化を受け、平成24年1月12日から二酸化硫黄、二酸化窒素、PM10についての1時間毎の観測データを観測結果をウエブで公開しています。また、平成24年1月21日からはPM2.5の公表も始めています(図5)。
しかし、北京市の発表する評価が「中度の汚染」の日に、アメリカ大使館では汚染の最高ランクを超えた「測定不能」という結果がでるなど、北京市の観測がアメリカ大使館の観測より小さいという差がでています。
北京市内全域の平均をとっている北京市の数値は、幹線道路に近いところにあって自動車の排気ガスが多い場所にある(中国政府による)アメリカ大使館の数値より小さくても不思議ではありません。
しかし、中国国民が、自国の政府よりアメリカ政府の情報のほうが正しいと考えていることが問題視したことが平成24年6月4日の記者発表の理由かもしれません。
ただ、現在の中国のホームページを見ると、かなり充実しているように見えます。
それだけ、中国国内において、PM2.5は深刻な問題なのかもしれません。
図4の出典:饒村曜(2013)、PM2.5と大気汚染がわかる本、オーム社。